小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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君にまつわる20題から
千馗君は柔らかな表情で笑う。
例えるなら、冬の冷たく厳しい空気の中、地面に落ちた日溜まりのような。そこに足を踏み入れると、ほっと心が緩む暖かさに似ている。私はそれと同じものを千馗君にいつも感じていた。
私は、千馗君の笑顔が大好きだ。だから、いつも封札師や呪言花札のことで一杯頑張っている彼の笑顔が疲れで曇らないよう、その為に私の《力》はあるんじゃないかなって、思っている。
だけど、千馗君の笑い方にはもう一つ種類がある。それはある人の前でしか見せないもの。
私は偶然それを見てしまう機会があって、彼もそんな風に笑うことがあるんだと吃驚してしまった。
いつだっただろう。そうだ、部活が終わり、教室に置いていた鞄を取りに戻ろうとしたときだった。
いつもだったら誰もいないはずの時間。だけど、その時は珍しく誰かの声がした。聞き覚えのあるそれに、私の胸は弾む。
--千馗君だ。
部活も終わったし、この後の用事もない。私は彼と一緒に帰ることを思いつく。千馗君は甘いものが好きだから、帰りにドッグタグに寄って、フレンチトーストを食べて、楽しくお話して。そんなことを考えて、どう誘おうか考えていると、今度は千馗君とは違う声が聞こえた。
こちらも私にとっては馴染みのあるもの。
「……壇君もまだ教室に残ってたんだ」
珍しいと私は思う。壇君は学校が終わると、すぐに下校してしまうのが殆どだったから。
二人が一緒なのは珍しくないけれど。
入るタイミングを見失い、立ち止まった扉の向こうから話し声が聞こえる。
「……ですから、ブラックなコーヒーもなかなか乙なものなんですよ。飲まず嫌いしてたら、これからもっと美味しいもの飲めなくなっちゃいますよ」
「だからっ、飲めないとは言ってねえだろ」
ムキになって壇君が反論するけど、千馗君はくすくすと笑っている。
「でもおれ、今まで壇がブラックなコーヒー飲んだところ、見たことないんですけどねぇ」
「ぐっ……」
言葉に詰まる壇君に「ふふふっ」と千馗君が楽しそうに声を弾ませた。柔らかく優しそうなのはいつものことだけど。どうしてだろう。私や巴--他のみんなに向けるものとはちょっと違う風に感じた。
今の千馗君は、どんな風に笑ってるんだろう。いけないことだと思いながら、私はそっと扉を薄く開けた。ここで私が入ったら絶対に見れないものだから、見つからないように息を殺して覗く。
二人は窓側の一番後ろ--壇君の席の辺りで話していた。千馗君が開いた窓の桟に座って、壇君が彼の前に立っている。こっちに背中を向けている壇君の表情は見えない。けど声が笑っているから、その顔も同じように笑顔を千馗君に見せているんだろう。壇君は彼といるようになってから、本当に笑うことが多くなった。
そして彼と話す千馗君は--。
「……」
壇君と話す千馗君の顔を見て、私の胸はとくりと高鳴った。
彼もまた、壇君と同じように笑っていた。だけどその笑顔は私や巴に見せるものとは少し違う。
とても、愛おしそうな眼をしていた。見ているだけで、壇君のことが好きなんだって分かる顔。
二人の時にしか見せない顔なのかな。私がいるときに、千馗君が今のような顔で笑うところを見たことなかった。
「こんなんじゃまだまだですよ、壇」
「ったく、減らず口を叩きやがって……」
ふと会話が途切れた。
誰もいない、静かな教室。
壇君の腕が千馗君に伸ばされる。ほっぺたに掌を当てて、自分の顔を彼に寄せた。
「……!」
何をしているのか、こういうことには鈍い私にもすぐ分かった。これ以上見ていちゃいけない気がして、私は扉を閉めることも忘れ、その場を後にした。
廊下の端っこで私はようやく止まった。胸に押さえた手に、心臓のドキドキが伝わってくる。
ビックリした。
あれって……やっぱりキス、してたんだよね。千馗君と壇君って、つき合ってるのかな?
そんな疑問が私の中に浮かぶ。だけど答えなんて考えるまもなく、明白だろう。
千馗君が、あんな笑い方をするんだから。とても壇君のことが好きなんだって彼を映す眼が言っていた。
誰にでも優しく笑いかける千馗君。だけど、あんな風に笑うのは、壇君の前だけなんだ。
ちょっと悔しい……かな。でも、ちょっと嬉しい。
だって、もしかしたら見れなかった、千馗君のいつもと違う表情。壇君しか見れないものなのに、それを私も知ることが出来た。
……なんて、怒られちゃうかな。見たといっても、盗み見たんだし。
「……鞄、どうしようかな」
私の鞄は教室に置いてある。だけど、二人がいるうちに取りにいけない。私はどうしようと考えて――もうしばらく待とうと思った。
邪魔しちゃいけないことってある。たぶん、さっき見たものも、そうしちゃいけないものなんだ。
私は後ろを振り返る。まだ、あの教室に二人はいるだろう。だから私はすぐ近くの階段を下りる。三階の廊下を通って、反対側の階段を上がろう。あちら側には巴のいる生徒会室がある。
このまま教室の前を突っ切っていけば早いのだろう。だけど、弥紀はあえて遠回りを選んだ。だって教室の前を通ったら、絶対ドキドキして顔が赤くなるだろうから。
それを巴に指摘され、誤魔化す自信が今の私にはなかった。
千馗君は柔らかな表情で笑う。
例えるなら、冬の冷たく厳しい空気の中、地面に落ちた日溜まりのような。そこに足を踏み入れると、ほっと心が緩む暖かさに似ている。私はそれと同じものを千馗君にいつも感じていた。
私は、千馗君の笑顔が大好きだ。だから、いつも封札師や呪言花札のことで一杯頑張っている彼の笑顔が疲れで曇らないよう、その為に私の《力》はあるんじゃないかなって、思っている。
だけど、千馗君の笑い方にはもう一つ種類がある。それはある人の前でしか見せないもの。
私は偶然それを見てしまう機会があって、彼もそんな風に笑うことがあるんだと吃驚してしまった。
いつだっただろう。そうだ、部活が終わり、教室に置いていた鞄を取りに戻ろうとしたときだった。
いつもだったら誰もいないはずの時間。だけど、その時は珍しく誰かの声がした。聞き覚えのあるそれに、私の胸は弾む。
--千馗君だ。
部活も終わったし、この後の用事もない。私は彼と一緒に帰ることを思いつく。千馗君は甘いものが好きだから、帰りにドッグタグに寄って、フレンチトーストを食べて、楽しくお話して。そんなことを考えて、どう誘おうか考えていると、今度は千馗君とは違う声が聞こえた。
こちらも私にとっては馴染みのあるもの。
「……壇君もまだ教室に残ってたんだ」
珍しいと私は思う。壇君は学校が終わると、すぐに下校してしまうのが殆どだったから。
二人が一緒なのは珍しくないけれど。
入るタイミングを見失い、立ち止まった扉の向こうから話し声が聞こえる。
「……ですから、ブラックなコーヒーもなかなか乙なものなんですよ。飲まず嫌いしてたら、これからもっと美味しいもの飲めなくなっちゃいますよ」
「だからっ、飲めないとは言ってねえだろ」
ムキになって壇君が反論するけど、千馗君はくすくすと笑っている。
「でもおれ、今まで壇がブラックなコーヒー飲んだところ、見たことないんですけどねぇ」
「ぐっ……」
言葉に詰まる壇君に「ふふふっ」と千馗君が楽しそうに声を弾ませた。柔らかく優しそうなのはいつものことだけど。どうしてだろう。私や巴--他のみんなに向けるものとはちょっと違う風に感じた。
今の千馗君は、どんな風に笑ってるんだろう。いけないことだと思いながら、私はそっと扉を薄く開けた。ここで私が入ったら絶対に見れないものだから、見つからないように息を殺して覗く。
二人は窓側の一番後ろ--壇君の席の辺りで話していた。千馗君が開いた窓の桟に座って、壇君が彼の前に立っている。こっちに背中を向けている壇君の表情は見えない。けど声が笑っているから、その顔も同じように笑顔を千馗君に見せているんだろう。壇君は彼といるようになってから、本当に笑うことが多くなった。
そして彼と話す千馗君は--。
「……」
壇君と話す千馗君の顔を見て、私の胸はとくりと高鳴った。
彼もまた、壇君と同じように笑っていた。だけどその笑顔は私や巴に見せるものとは少し違う。
とても、愛おしそうな眼をしていた。見ているだけで、壇君のことが好きなんだって分かる顔。
二人の時にしか見せない顔なのかな。私がいるときに、千馗君が今のような顔で笑うところを見たことなかった。
「こんなんじゃまだまだですよ、壇」
「ったく、減らず口を叩きやがって……」
ふと会話が途切れた。
誰もいない、静かな教室。
壇君の腕が千馗君に伸ばされる。ほっぺたに掌を当てて、自分の顔を彼に寄せた。
「……!」
何をしているのか、こういうことには鈍い私にもすぐ分かった。これ以上見ていちゃいけない気がして、私は扉を閉めることも忘れ、その場を後にした。
廊下の端っこで私はようやく止まった。胸に押さえた手に、心臓のドキドキが伝わってくる。
ビックリした。
あれって……やっぱりキス、してたんだよね。千馗君と壇君って、つき合ってるのかな?
そんな疑問が私の中に浮かぶ。だけど答えなんて考えるまもなく、明白だろう。
千馗君が、あんな笑い方をするんだから。とても壇君のことが好きなんだって彼を映す眼が言っていた。
誰にでも優しく笑いかける千馗君。だけど、あんな風に笑うのは、壇君の前だけなんだ。
ちょっと悔しい……かな。でも、ちょっと嬉しい。
だって、もしかしたら見れなかった、千馗君のいつもと違う表情。壇君しか見れないものなのに、それを私も知ることが出来た。
……なんて、怒られちゃうかな。見たといっても、盗み見たんだし。
「……鞄、どうしようかな」
私の鞄は教室に置いてある。だけど、二人がいるうちに取りにいけない。私はどうしようと考えて――もうしばらく待とうと思った。
邪魔しちゃいけないことってある。たぶん、さっき見たものも、そうしちゃいけないものなんだ。
私は後ろを振り返る。まだ、あの教室に二人はいるだろう。だから私はすぐ近くの階段を下りる。三階の廊下を通って、反対側の階段を上がろう。あちら側には巴のいる生徒会室がある。
このまま教室の前を突っ切っていけば早いのだろう。だけど、弥紀はあえて遠回りを選んだ。だって教室の前を通ったら、絶対ドキドキして顔が赤くなるだろうから。
それを巴に指摘され、誤魔化す自信が今の私にはなかった。
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