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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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前の小話から続きで。
やまなしおちなしいみなし。



 同い年なのにずるい。
 元着ていた服を洗濯している間貸してもらった服を着て、おれは不満を漏らす。どうしてこんなにぶかぶかなんだろう。
 こっちだって封札師の仕事をこなしている。最近は筋肉だってついてきている、はずだ。
 なのに借りた服はおれにはぶかぶかだった。襟元からは鎖骨が大きく見えるし、腕を伸ばすと奴の場合二の腕までだった袖が、こっちは肘のあたりまで続く。全体的に余っている。
 くそう。胸囲一メートル超えてるからってこれは卑怯なんじゃないの。ベッドの上でおれは微妙に複雑な気分になった。まあ、実際逞しいんだけど。おれを抱きしめる腕の強さとか。苦しくて辛くて思わずしがみついた背中の広さとか。
 って何思い出してるんだおれは。
 頭の中でリフレインするのは、昨日壇の部屋に来た時からの記憶。部屋に来るか? と誘われて感じた予感は見事に的中して、おれはまんまと壇においしく――かどうかは疑問だけど、いただかれてしまった。
 まあ、そのことについて反論はない。ちょっとは手加減しろよコラ、とは思ったりしたけども。ちゃんと気持ち良かった、し。うん。
 でもこうして壇に借りた服が、おれだとここまでぶかぶかになっちゃうなんて。これは同じ男としてやっぱり悔しいと思うのですよ。やっぱり、筋肉とか欲しいし。腹筋だって六つに割れてる方がかっこいいじゃない。
 身体が怠くてベッドでうだうだしているおれの耳が、扉の開く音を拾う。わざわざ近くのコインランドリーまで洗濯しに行った男のご帰還だ。
 おれは足元で蟠っていた毛布を掴み、頭から被る。まだ頭の中で昨晩のことがぐるぐる回っているから、顔を合わせるのが恥ずかしい。
 しかし毛布を頭まで被ったのは失敗だった。壇が普段から使っているものだから。
 だ、壇の匂いがしてよけいに落ち着かない……。
「ただいま」
 部屋の扉が開いて、壇が入ってくる。そしてベッドへ近づいてくる足音。洗濯物を入れてるんだろう袋を床に置く音と続いて、ベッドが端に腰をかけた壇の重みに軋んだ。
「……なんだ、まだ寝てんのな」
 実はもう起きてますけどね。今はちょっと壇の顔が見れないかな。顔赤いし。布団に染み込んだ壇の匂いに、まあ、その。身体というか、主に下半身がやばいと言うか。
 寝返りを打つふりをして、おれは壇に背を向けた。ばれませんようにばれませんように、と心中で唱えながら寝息を立てる芝居を打つ。
「ま、最近忙しいみてえだし、しばらく寝かしとくか」
 下手な芝居だったけど、幸い壇には気づかれなかったみたいだ。ふと髪を掻き回すように頭を撫でられ、背筋がちょっとぞくぞくする。でも堪えないと。
 頭を撫でる手が下に動いて、首筋に到達する。つつ、と指先がなぞり、ある一点を押された。
「……っ」
 やばい。声が出かけて、おれは奥歯を噛んだ。壇が押した箇所には、昨晩その本人につけられた痕がある。後ろからされた時、やけにきつく吸われた覚えがある――っていやいやいやいや、思い出すなおれ。
 痕を確かめるようにもう一度同じ場所を押し、壇の手が離れる。ほっとしたのもつかの間「俺ももうちょっと寝るか」と壇があくびする。
 耳元でまたぎしりと音がした。薄く目を開けるとあの逞しい腕がおれを挟んでる――と思ったら抱きしめられた。そのまま引き寄せられて、おれの背中と壇の胸がぶつかった。
 これはいわゆる抱き枕ってやつか。いきなりされたから、心の準備が出来ていなかったおれは情けない声を上げかけてしまった。実際はびっくりしすぎて声が出せなかったんですけども。
 驚きに固まる俺のつむじの辺りに壇の息がかかる。くすぐったくて、わざとやってんのかと言いたくなった。うう。こいつ狙ってんじゃないのかな。何か的確に弱点突かれてる。
 ずるい。壇はずるい。なんかどんどんずるい男に進化してる。昔の一々俺の言葉を真に受けてうろたえるあいつはどこに行っちゃったの。今猛烈にあの頃の壇を懐かしく思うよ。おれだってその時は余裕たっぷりだったのに、今ではもう見る影もなく、壇の一挙一動にあわてふためいている。
 もうすっかり余裕のなくなったおれは、これからも翻弄されちゃうんだろうな、と思う。それを言ったら「お前だって散々俺をからかってきたつけだろ」って返されそうだけど。
 壇のTシャツを着て、壇の匂いがする毛布がかかってて、後ろから本人に抱きしめられて。これでもか、と言うほど壇まみれになってるおれはそこで思考停止した。これ以上考えていたら、絶対知恵熱出る。
 背中からじんわり伝わる壇の体温が心地良い。波のように眠気が感覚を鈍くし、瞼が重くなる。眠りの前兆に抗わず、おれは身体の力を抜いた。
 今度起きるまでずっと、ずるくても大切な壇の温かさを感じたいと思いながら。



うちはくっついた後の燈治は余裕たっぷり、そして余裕ない七代を推したい所存です。

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