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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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 夕方。
 何をするでもなく稲荷像の側で沈む夕日を見つめていた鍵は、羽鳥家の方から近づく足音を耳で拾った。いつもよりどこか慎重なそれに振り向いて、笑う。
「おや、坊。外で夕食を取るおつもりで?」
「違いますって」
 両手で盆を持っている七代が「鍵さんたちのごはんを持ってきたんですよ」と言った。乗せられた皿から漂う匂いに「おや」と鍵はにやりと笑う。
「もしかして今日は私の好物だったりしますか?」
 すると「当たりです」と七代が目を丸くした。
「とはいえ、今日はおれが作ったものなので、ちょっとおいしくないかも……」
 清司郎に教わりながら作ってはいるんですけど、と口をもごもごさせながら、七代は稲荷寿司の乗った皿を稲荷像の前に置く。そしてその横に「これはおくちなおし」とおはぎの皿を乗せた。
「ありがとうございやす、坊。稲荷寿司もおはぎもいただきやすよ。どちらもとてもおいしそうだ」
「……ありがとう」
「おや、私は礼の言われることをした覚えはないんですがねえ」
 いたずらっぽく鍵は笑う。それにつられて七代も笑った。
「それで……あれ、鈴は?」
「ああ、子犬ちゃんでしたら白殿と街に出ていやすよ」
「また白は……」
 七代はここにはいない呪言花札の番人に対し、溜息を吐いた。もうすぐ夕食前だというのに、またジャンクフードを食べに行っていることをどう窘めようか考えている。
「まあ、坊。そんな怒らないで。せっかくのいい顔が台無しだ」
 にっこり笑って鍵が宥める。すると憮然としていた七代の顔は、一気に得も言われないようなものへ変わった。
「……なんか、鍵さんに言われると、背中がむずがゆくなりそう……」
 怒気が抜かれたらしく、七代は稲荷像の反対にある狛犬像に近づき、同じように皿を並べて置く。そして小さな徳利も備えた。
「ありがとうございやす、坊」
 一仕事終えた七代に鍵は言った。
「坊はいつも私たちによくしてくれる」
「いつも洞で助けてくれるのに、こっちから何もしないのはダメでしょう。助けてもらったからこちらも礼を尽くす。当たり前のことじゃないですか」
 当然のことのように言う七代に、思わず鍵は笑った。
「そういうところが坊の良いところなんでしょうね」
 そしてその実直さが、この神社に良い空気を運んでくれる。それは神使は信じる思いに力が増し、そこにいる者の心も洗ってくれるような、清浄な風のようだ。
「坊、こっちにきてくださいや」
 鍵は、七代をそっと手招きする。近づく彼に「ほら、今日は夕焼けが綺麗ですよ」と空を指さした。
 空を見上げた七代は、伸びやかに染まる朱色の空を見て「本当だ……」と感嘆した。素直な反応に、やっぱり鍵は思ってしまう。
 この人の心が、このまま変わらないでいて欲しい――と。
「……ねえ鍵さん。しばらくここで一緒に空を見ていていいですか? 白が帰ってくるのも待ってなきゃいけませんし」
 聞かれ、鍵はすぐに「もちろん」と頷いた。
「構いませんよ。坊がいれば、ただ空を見るだけの時間も楽しくなりそうだ」
 快諾に、七代は顔を綻ばせる。
 それを見た鍵は、白と鈴の帰りが遅くなるように、と心の隅で思いながら「じゃあ、もっと見えやすいところに行きやしょうか」と煙管を手に、笑った。


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