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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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 七代千馗と言う男は浪費が嫌いらしい。可能な限り買い物は控えるし、使えるものは何でも使って、節約していく。
 揚句に初動調査に貰えるモノは多い方がいい、と鴉乃社学園の制服支給を断り、その分の代金を懐に入れたらしい。七代の上の服装が常にカッターシャツとスクールベストなのはそのせいか、とその話を聞いた燈治は感心するよりも呆れた。寒い冬場に薄手の格好。風邪をいつひいてもおかしくない。
 ただ七代も厳しい冬の寒さは身に染みているらしい。時たまこんなことが起きる。


 珍しく遅刻をせずに教室に入った燈治は、ふと後ろに殺気を感じた。
 すかさず上体を捻り、こちらに突進してくる標的を捕捉する。そのまま横に移動しながら身体ごと後ろへ向き直り、手を前に出す。
「おはようございま――うわっ」
 両手を大きく横に広げ飛び込んでくる七代の頭を、燈治は手で押さえた。
「いきなり、何するんですか」
「こうしなきゃお前が抱き着くからだろっ」
 むくれる七代に、燈治は押さえ付ける手から力を抜かないまま言った。まだ七代はこちらに向かって力をかけている。ここで手を離したら、あっという間に距離を詰められてしまうだろう。
「いいじゃないですか。友情を深めあいましょうよ」
「友情を深めんのに、隙を見て抱き着くとかはねぇだろ!」
「だって寒いですもん!」
「ジャージ持ってるだろ! それでも着てろ!」
「忘れました!」
「お前なぁ!」
 ぎゃあぎゃあ教室内に騒ぐ二人の声が響き渡る。嫌がおうにもクラスメートの視線を集めてしまい、燈治はもう帰りたくなってきた。
 七代が転校してきて知り合ってから数週間の間、どれだけ不意打ちで抱き着かれてきたか。最初はやられていた燈治もだんだん七代の気配を察知し、こうして阻止する成功率も徐々に上がってきている。
 朝から気力を削がれ、はあ、と溜息をついた燈治は往生際の悪い七代に対し口を開いた。
「俺に抱き着いて暖を取ろうとすんな。寒いなら上に何か羽織れ」
「えええ、だって面倒臭――じゃなくておれは壇ならその広い胸で受け入れると思ったから」
「嘘つけ。今お前面倒臭いって言いかけただろ。聞こえてるぞ」
「――ちっ」
「だからってあからさまな舌打ちすんな」
 再び燈治の口から溜息が零れる。このままだと七代は引き下がらないし、こちらも腕が疲れてきた。
 燈治は真っすぐこちらに向けてくる力を受け流すように、七代を押さえていた手を横へ流した。突然緩んだ力に「おわぁ」とよろめいた七代が、つんのめり転びかける。
 七代の攻撃をかわした燈治は教室後ろにある自分のロッカーから、ジャージを取り出して投げた。体勢を整え「何するんですか。危ないじゃないですか」と怒る七代の頭にそれが覆い被さる。
「それでも着とけ。ちったぁ寒くねえだろ」
「……」
 手を伸ばし頭を覆っていたジャージを取った七代は、まじまじとそれを見る。無言で着込み、チャックを上げた。身長はそんなに変わらないが、七代のほうが細いせいでぶかぶかに見える。
「……壇」
 余った袖を折り曲げて、七代が壇を見た。
「これ、汗くさいけどちゃんと洗濯しましたか?」
「は……?」
 昨日体育があってロッカーに突っ込んだままだから、確かに洗濯していないけども。
「何か壇の匂いがする」
「――――っ!?」
 言われた言葉がことんと壇の中に理解として落ちる。ふふふ、と襟元を鼻に埋める七代に顔が赤く染まった。
「お、ま、――そんなこと言うんだったら脱げっ! 返せっ!!」
「やーですよー」
 今度は燈治から伸びる手をひらりとかわし、七代は舌を出す。
「ではでは、ありがたくお借りしますね」
 あはははは、と笑い声を残し、さっさと教室を出ていった。入り口で入れ違いになった弥紀に「穂坂さん、おはようございます」すれ違い際に挨拶する。
「七代くんおはよう。――壇くんもおはよう」
「おう」
「今日も朝から仲良しだね」
 花が綻ぶように笑う弥紀に、燈治は「穂坂はあれで仲良しって見えるのか?」と尋ねた。あれはどう見ても七代におちょくられている。
「仲良しだよ」
 弥紀が断言した。
「それに壇くんがもし七代くんのこと好きじゃなかったら、話し掛けたりとかもしないと思うから」
「……」
 図星を突かれ、燈治は複雑な顔で口を覆う。
 そもそも燈治は教室の空気に馴染めない人間だった。家族を心配させまいと毎日登校しているが、教室よりも圧倒的に屋上で一人いる時間が多くて。教室に戻る度ちくちくと刺さるクラスメートの視線が思いの外痛かった。それは七代が来てからもあまり良くなる兆しはない。自分からそうなるようにしたのだから、仕方ないことだと燈治は割り切っている。
 それでも教室にいる時間が増えたのも事実で。それを引き起こしている七代に影響されているのも肯定するべきだろう。クラスメートの視線も前より気にならなくなった。
 全く七代千馗という男は、つくづく人の生き方を短時間で変えてくれる厄介な存在だ。燈治は少しずつ、だが確実に変化する己に苦笑する。
「……ま、そういうことにしておいてやるか」
 肩を竦めて仲良しだということを肯定した燈治に、うん、と弥紀が楽しそうに笑った。


仲良し風味で。

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