小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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ドッグタグのテーブル席で燈治は、一目見れば分かるほどに苛々していた。せっかく頼んだカレーライスを味わう余裕もなく、小刻みに震える手でスプーンを握りしめている。
ここには当然のごとく七代と共に来た。本来なら彼との楽しい一時を過ごせるはずだったのに、どうしてどこかしら邪魔が入るんだろう。燈治は真向かいを――正確にはその右を睨みつける。
「……どうして人参ばかり入れてるんですか?」
燈治と同じく頼んでいたカレーライスを食べながら、七代は皿の端に増えていく人参を眺めて尋ねた。
「決まってるだろ。オレ様が食いたくねえからだ!」
器用に人参だけを次々に七代の皿へと移し、鬼丸義王が胸を張った。親指で己の胸元を指さすが、矛らしく口から出た言葉は全く自慢にならないことだった。
「好き嫌いしたら大きくなれませんよ。――しょうがないなあ」
七代は困り顔で笑うがそれだけで、押しつけられた人参を口に運ぶ。義王を甘やかす七代に、甘やかすとつけあがるぞソイツはよ、と燈治は、露骨に顔をしかめた。
苦虫を噛みつぶした表情に義王が、ふふん、と鼻で燈治を笑った。七代に世話を焼いてもらっているのに、一周の優越感を持っているのか。燈治の苛々が更に増し、スプーンを置く。こんな状況でカレーを食べたって美味しくない。
「……おい千馗。いい加減少しは怒れ」
大げさにため息を吐いた燈治に対して人参を飲み込んだ七代が「はい? 何をですか?」と七代と小首を傾げる。これが本気でとぼけているのだから始末が悪い。募る苛立ちから、指先でテーブルをこつこつ叩く。
「義王にだよ」とはっきりと燈治は言った。
「何大人しくソイツの苦手なもん食ってんだよ。お前がびしっと言わねえといつまで経ってもちょっかい出されるぜ。それでもいいのかよ」
「んんー。別に困ってはないですけど……」
「だとよ、鈍牛」
勝ち誇ったように七代の言葉尻に義王が乗る。七代へ身体を傾け、肩に腕を回して引き寄せた。
もう我慢の限界だ。
燈治は椅子を乱暴に引いて立ち上がった。
「いい加減にしろよ。千馗が甘やかしてるからってなぁ、図に乗ってんじゃねえよ」
「はっ、ひがんでんじゃねーぞ。羨ましいならテメエもやってみろってんだ」
「ぁあ!?」
剣呑な視線が絡み合う。もうそろそろ、七代はテメエのモノじゃねえと分からせる必要がありそうだ。これ以上余計なちょっかいを出される前に。燈治は固めた拳を掌に叩きつける。
挑む目つきに、義王も七代から手を離し立ち上がった。
一触即発の空気に七代は食べる手を止め、困ったように燈治と義王を交互に見遣る。どうしよう。これは止めなきゃやばいかな。しかし「こっちにおいで、千馗君」と空気を読まない涼やかな声がカウンターから、腰を浮かしかけた七代を呼び止めた。
絢人がにこやかに手招きをしている。
「いがみ合っている場所だと、せっかくのマスターの料理も味が台無しじゃないかな。こっちで美味しく食べた方がいいだろう?」
「……でも、止めた方が」
「放っておけ」
絢人とは対角線状のカウンター席に座っていた御霧が、ため息混じりに眼鏡を押し上げる。燈治たちの方は見向きもせず、関わりたくない空気を醸し出していた。
「どうせ止めたところで余計に状況が悪くなるだけだ。なら、一度徹底的に放置して様子をうかがうべきだろう」
「おや、意見があったね」
微笑む絢人に御霧は「嬉しくない」と眉間に皺を寄せた。
「でも鹿島の言うとおりだよ。ここは僕がフレンチトーストをおごるからこっちにおいで」
「二人がそこまで言うなら……」
七代は食べ途中だったカレーライスを持って、音を立てずにカウンターへ移動する。取り合いの元凶がいなくなったのにも気づかず、燈治と義王はにらみ合ったままだった。
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