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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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「――うまいか?」
「はい、とっても!」
 休日の昼下がり。居間の卓に正座で座り、七代はスプーン片手に、にっこりと頷いた。
 今日の昼食はカレーライスだ。それに大きなハンバーグにフレンチドレッシングをかけたグリーンサラダ。どれもおいしくて、あっと言う間に平らげてしまえそう。
 七代のはす向かいに胡座をかき、燈治が言った。
「そうか、ならどんどん食べろよ。おかわりもあるからな」
「あの、あの、チャイもまた入れてもらってもいいですか?」
「まだ煎れるのになれてねえから時間がかかるが……」
「ちょっとぐらい待てますよ!」
「わかった。今煎れてるのがなくなったら作ってやる」
「やったぁ!」
 満面の笑顔をあふれさせ、七代は一口大に切り分けたハンバーグをカレーに絡めて頬張った。カレーの辛さもちょうどよく、ずっと噛みしめて味わいたい。
 燈治さん、ますます料理上手になっちゃって……。
 ハンバーグを飲み込み、次はごはんをとスプーンを動かしながら、七代はそっと燈治を横目で見やった。
 一緒に暮らし初めてもうすぐ二年。初めはよく燈治は鍋を焦がしていた。
 しかしドッグタグのアルバイトをしながら練習してきた成果が出て、今では他の料理店よりよっぽど美味な料理を作り出す。相変わらずカレーを出す頻度は高いけど。
 でも、本当前と比べたらすごく上手ですよねえ。相変わらず焦がしてしまう俺とは違って。
「……」
「……千馗?」
 暗い表情で食事の手を止めた七代を「どうした?」と燈治が不安そうに尋ねた。
「……いや、どうしてこうなっちゃったのかなって。本当だったら今日は俺が……」
「いや、どうなっても止めてたと思うぜ。お前の手つきは見ててハラハラして危なっかしい」
「でも、燈治さんの誕生日に作ろうと思ってたカレーを、燈治さんが作っちゃ本末転倒じゃないですか!」
 そう、本来今日は七代がカレーを作るはずだった。アルバイトに大学生活。時には封札師である七代の手伝いをもする多忙な燈治に少しでも楽をさせてあげたいと、誕生日当日の家事は全ておれがやる、と七代は宣言していた。あわよくば、うまくいったのだからとそれ以降も家事を交代制にしようと持ちかけるための策略でもあった。
 疲れてるだろ、と全ての家事を引き受ける燈治を、七代はありがたいと思う。だが、一緒に暮らしてるんなら、助け合いたい。
 しかし結果は見ての通りだ。家事に慣れない七代の手つきはやることなすこと全てがおぼつかない。結局見かねた燈治に途中で強制的に変わられてしまった。
「うううう、おれの完璧な計画が……」
 唸る七代に、燈治が半分呆れた顔をした。
「いや、どっちにしろお前の計画は実行する前から失敗が見え見えだろ。家事の下手さは俺がよおっく知ってるからな」
 自信満々に返されてしまった。不器用なのは自覚しているけど、他から改めて肯定されるとふがいなさが胸に突き刺さる。
「うううう……」
「いい加減あきらめろよ」
 ため息混じりにいわれ、むっと七代は「あきらめきれません」と燈治を睨んだ。
「だって、今日は燈治さんの誕生日なんですよ。それはおれにとって一番おめでたい日なんです。だからちょっとぐらいは何かしたっていいじゃないですかあ」
「……千馗」
 一瞬目を伏せてから、燈治はスプーンを皿に置いた。駄々っ子のようにむくれる七代を、優しい眼差しで「お前はさ、そう難しいこと考えなくたっていいんだ」と宥める。
「でも、だからって全てまかせっきりは嫌なんですってば」
「俺がしたいからするんだ、って言ってもか?」
「だって燈治さんだって忙しい……」
「……だな。でもこれは俺が望んだことなんだ。お前が封札師を望んだように。だからちょっとぐらい忙しくても構わないし、毎日が充実してる」
「……」
「それに、誕生日プレゼントはもう一生分お前にもらってるんだ。これ以上俺は欲しがったりしねえよ」
「え……?」
 一生分のプレゼントなんていつあげたんだろう。いくら記憶を探っても見つからない。
 首をひねる七代に、燈治がにっと白い歯を見せて笑った。
「千馗がずっと俺の傍にいてくれるんだろ?」
「……!!」
 顔を赤らめる七代に「お前がいてくれるなら、後はもう何もいらねえって」と燈治が付け加えた。
 ストレートな言葉に、ますます七代の顔は赤くなった。高校生の時は七代がからかい、燈治が顔を赤くするばかりだったのに、今ではすっかり立場が逆転している。
 頬が暑くて、七代はチャイの横に並べていた水の入ったグラスをつかんだ。一気に飲み干し、口を拭う。その間、燈治はにやにやと笑いっぱなしだ。
 憮然としながら七代は会話を中断して、食事に集中する。口に運んだカレーはさっきより味がわからなくなってしまった。ぐるんぐるんと燈治の告白が頭の中を回って、味覚が混乱している。
「飯食ったら、あとはゆっくりしようぜ」
 楽しそうに燈治が言った。
「マスターからのプレゼントでケーキもらったんだ。上等なコーヒー豆もあるし」
「……で、一生分の誕生日プレゼントであるおれは、今年どうしたらいいんですか」
 半ばやけになって七代は言う。
「甘えろよ」
「甘えるって……それは燈治さんがするべきことじゃ」
「いいや、お前が甘えろ。んで、俺が甘やかしてやる」
「それはプレゼントの意味ないですよ!?」
「いいんだって。千馗は甘えたりとかあまりしないだろ。だから言うんじゃねえか。お前を甘やかせろってよ」
「……釈然としない」
 これではまるで、燈治ではなく自分の誕生日みたいだ、と七代は思った。
 難しい表情をする七代に「いいんだよ、これで」と燈治は笑った。出会った頃と変わってない笑顔に、七代の心は絆される。ずっと燈治の笑顔に弱かった。
「もう、仕方ないですねえ」
 そっと息を吐きながら、七代は譲歩した。誕生日に堂々巡りなやりとりほど不毛なものはない。
 言い分が通り、燈治が「ありがとな」破顔する。
「来年も、再来年も、ずっと先も頼む」
「……がんばります」
 それでも、もう少し家事ができるように努力しよう。最後のカレーを飲み込んで、七代はそっと決意した。



壇、誕生日おめでとう!!

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