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朝食を終えたアキラは、英字新聞を片手にサンルームのチェアに座った。テーブルにはケイトが淹れてくれたコーヒー。香ばしい匂いと湯気が立つそれを飲みながら新聞を読むのが、最近の習慣だった。
今日もさっそく開いた新聞に目を通そうとした。しかしいきなり庭へ通じる扉が、乱暴な音を立てて開いたので驚いて振り向いた。
「ふ~っ、水やり終了~! 気持ちよかったぁ~!」
濡れた足音を立てて、全身ずぶ濡れのハルが、サンルームに入ってくる。達成感を滲ませた笑顔に、しかしアキラはしかめっ面をする。開いたばかりの新聞を慌てて閉じ、水滴を飛ばすハルから避難させるように横のソファにあるクッションの下に隠した。まだ読んでもいないのに、濡らされてはたまったもんじゃない。
「こらハル。びしょ濡れの格好のままで入るんじゃない」
たしなめるアキラに「ええ~っ」とハルはすっとんきょうな声を上げた。
「だって乾いちゃうもん。スイブンホキュウは大事なんだよ」
「にしても限度があるだろ……」
魚であるハルにとって、乾燥は天敵である。水分が足りなくなるにつれ、体調の悪化も招く。ハルの主張も理解しているが、それでもことあるごとにずぶ濡れになったら、服が足りなくなりそうだ。実際、洗濯物はハルの服が一番多い。
「スイブンホキュウなら、風呂で服を脱いでやれ」
「でも乾きそうだったからし。ホースから水が出てたしぃ」
「なんだその理屈。……ったく」
ため息をつきながらアキラは腰を上げた。ハルに指を突きつけ「そこに立ったままで待ってろよ」と指示し、キッチンへ続く扉の向こうへ消えていく。
ほどなく戻ってきたアキラは手にバスタオルを持って戻ってきた。洗濯したてで綺麗に畳まれていたものを両手で広げ、ハルに近づく。
「せめて中に入っても支障がない程度に身体は拭け」
頭からバスタオルをかぶせられ「うわっ」とハルは驚いた。アキラの手によって、毛先や肌に残る水滴が拭きとられていく。
「もぉ、アキラ! また水がなくなっちゃうからやめてって!」
「もう十分水分取れてるだろ。俺は過剰なものを拭いてやってるだけだ」
「乾いたら、アキラのせいだからね!」
「はいはい」
ハルの抗議をアキラはあっさり流した。手際よく濡れたハルを拭いていくが、服はどうしようもない。
どうするべきか。服を取りに行ってもかまわないが、その隙に逃げたハルがまたずぶ濡れになる可能性もある。かといって濡れた服を着せたままでは風邪をひきかねない。
「……仕方ないか。ハル、ほら服を取りに行くぞ」
「ぼくこれで平気だよ」
「俺が平気じゃない」
「ぶー」
「むくれても無駄だ。行くぞ」
アキラはハルの首にバスタオルをかけ直した。そして細い手首をつかみ、ハルの部屋むかうべくサンルームを出る。たどり着くまでに濡れるだろう床は、仕方ないから後でこちらが拭いておこう。
せっかく淹れてくれたコーヒーが冷めてしまうな。アキラは名残惜しそうにテーブル上のコーヒーを見て残念に思う。新聞だって読めてない。
しかしハルと付き合うには、これぐらいのことたやすく受け止めるぐらいでないと。こいつは宇宙人で無茶苦茶なところがあるから。
せっかくだから俺の見立てで服を選んでやろうか。そんなことを考え口元をあげたアキラは満更でもない表情をしていた。
5つの甘やかし【4、体を拭いてあげる】
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