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釣りをしていると突然ハルが「ねえアキラって、カレー以外にどんな食べ物が好き?」と尋ねてきた。
「どうした、急に」
アキラは、海面に沈んだルアーから目をそらさない。すっかりアングラーの表情になっていて、魚がかかる瞬間をじっと待っていた。
「んーとね、知りたいから!」
アキラのクーラーボックスを椅子代わりに座り、ハルは「ねえ、アキラ。教えてよー」と回答をねだる。答えなければずっと駄々をこねそうなハルに「……タピオカだ」と手短に答えた。
「えっ、タピオカ食べちゃうの? ハムあげてるのはいつかアキラが食べちゃうため!?」
「ちっがう! アヒルのじゃない! デザートの方のタピオカだ!」
「……そうなの? なんで?」
「食感が好きだからだ。飽きが来ないんだよ」
「へ~ぇ……」
納得したように頷いたハルは「じゃあ、嫌いな食べ物は?」と新たな質問をぶつける。
いつにないハルの様子を訝しみつつアキラは「納豆だ。食感が気に食わん」と答えた。あの、ねばねばした感触を思い出すと、げんなりしてしまう。
「じゃあじゃあ次は――」
ハルはにこにこと笑いながら、次から次へ質問をアキラにした。誕生日。血液型。江ノ島に来る前はどこにいたか。
「……ハル。ちょっと待て」
ぷつりと集中力が途切れ、アキラはルアーを巻き戻した。まさかの質問ぜめに、面喰ってしまう。
「さっきからどうしたんだ。そんなことを聞いて」
「アキラは、宇宙人のこと調べてるんだよね。ぼくのこともそうなんでしょ?」
「ま、まあ一応、な」
アキラが所属している組織、DUCKでは地球にやってくる異星人を調査捕獲している。本部に戻れば、世界中に設置されている支部よりなんて比べ物にならない量の資料がつめこまれていた。
ハルの情報ももちろん、そこに含まれている。とはいっても生態に類するもので、プライベートにかかわるものはない。
「だから、ぼくもアキラのこと知りたいなーって思ったんだ。アキラはぼくのこと知ってるのに、ぼくはアキラのこと知らないのって、ちょっとずるいし」
「ずるいって……こっちは仕事」
「しりたいのー! 教えてよもー!」
ハルは不平等に頬を膨らませる。拗ね気味の顔に「悪い悪い」とアキラは肩を竦めて謝った。しかし言葉に反して、声音はちっとも悪びれていない。
「で、俺のあれそれ知ってどうなんだ? 嬉しいか?」
「うん、うれしい! ねえねえ今度一緒にタピオカ食べようよ。ぼくまだ食べたことないんだ~」
予定を勝手に決めて、ハルはすぐその気になってしまったようだ。タピオカタピオカ、とリズムに乗せて口ずさむ。
「……まあ、デートになるからいいか」
気持ちを切り替え、アキラは再びロッドを構えた。ルアーが空を切るように飛び、海面へ吸い込まれるように落ちていく。
アキラの表情がアングラーへ切り替わる。その横で、ハルは次にどんな質問をしようか、楽しそうに考えているようだった。
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