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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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 洞を出ると、外はすっかり暗くなっていた。気温も下がり、吐く息が、仄かに白い形に濁りすぐ溶けて消えていく。
「――――へ……くしっ!」
 いくら常に体温が高くとも、急激な気温の変化にはついていけなかったらしい。先頭を歩いていた七代が突然立ち止まってくしゃみをし、大きく震え上がった。
「七代君、大丈夫?」
 心配する弥紀を笑って振り向き「あっ、これぐらい平気で……」と言いかけるが、言葉は途中で途切れ、またもやくしゃみへと変わる。
 七代は強く鼻を啜り「……です!」と取り繕う。しかしくしゃみをするところを、ばっちり見ていた燈治と弥紀からすれば、説得力は皆無だ。
 七代は、冬場でもカッターシャツにベストと薄手の出で立ちだ。平気だと言われてそうですか、と納得するほうが難しい。
 案の定、弥紀が眉を寄せた。
「しっかり暖かくしないと駄目だよ。七代君、この前も風邪引いたんだから」
「全くだぜ。せっかく治ったってのに、またぶり返したらどうするんだよ」
 ここぞとばかりに燈治も追随する。いつも寒々強い格好をしている七代にはいい加減、きちんと服を着込んでもらいたい。
 二人に口を揃えて言われ旗色が悪くなった七代は「う……」と黙り込んだ。
「で、でも……お金が」
「もったいねえとかそう言う問題じゃねえだろ。それで風邪引いてみろ。薬とか病院とかそっちので金がかかってばっかりになるぞ。逆に無駄遣いになるじゃねえか」
「…………うう」
「それに、風邪引いたらみんな心配するよ」
「…………」
 心情に訴えるような二人の言葉は効果抜群で、七代はうなだれる。
「わ、わかりました。今度の休みにちゃんと服買っておきます……」
 上がった白旗に「うん、それがいいよ」と弥紀が嬉しそうに笑った。
 渋々納得した様子の七代を、燈治は見て、千馗の場合、服一つでも骨が折れる、と息をついた。こう言うとき、弥紀の存在はとてもありがたい。俺一人だったら、もっと苦労していただろう。
 いつかは、俺一人でもきちんと説得できるようになりたいけどな。こっそり燈治が決意を固めていると、冷たい風が三人の間を通り抜けた。
「さ、寒いね……」
 手を口元にやり、弥紀が息を吐く。
「みんな風邪を引かないように、早く帰ろう」
「……だな」
「じゃあここでお開きにしますか。気をつけてかえってくださいね」
「うん、じゃあね二人とも。また明日」
 小さく手を振り、弥紀が一足早く街の雑踏へ消えていく。それを見送り「じゃあ、おれもこの辺で……」と別れを告げかけた七代の手首を、燈治は掴んだ。
「ちょっと待て」
「……はい?」
 首を傾げる七代の手首を握ったまま、燈治は空いた手でポケットを探った。
「どっかの自販で温かいもんでも買えよ」
 無理矢理上に向けた七代の掌に、ジュース一本分の小銭を燈治は乗せた。
「え……でも」
「いいから、人の好意は受けとれっての」
「……はい」
 渡された小銭を握りしめ「じゃあ」と七代はもう片方の手で自身の手首を掴んでいた燈治のそれを握り返す。
「壇も一緒に飲みましょうよ」
「はあ? 俺が飲んだらお前の分が減るだろうが」
 そもそも七代のために渡したのに、どうしてこっちも飲むことになるんだ。
「だって、その分壇といられるし……」
 それに、と伺うような視線を七代は燈治に向ける。
「服買いに行くのいつにするか決めないと」
「千馗、お前……俺を付き合わせようとしてんのか?」
「……だめ、ですか?」
 七代が燈治の気が乗らないような口調に、顔を曇らせた。
 燈治はすかさず「馬鹿だな」と七代の頭を小突く。
「付き合うに決まってんだろ」
「……はい」
 曇っていた表情が和らぎ、七代は燈治の手を握りなおした。
「じゃ、じゃあ、どこか暖かいところに移動して時間決めましょう。服をどこで買うか決めないと行けませんし」
 ぐいぐい引っ張られる力に抗わず、燈治は歩き出す。少し強めに手を握る七代を、燈治は常にない柔らかな眼で見ていた。


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