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ハルは、ヘミングウェイから出てくる夏樹を見つけた。手には、店のロゴが入った紙袋。こっちには気づかずさっさと歩き出す夏樹に「やっほ~、なっつきぃ~!」とハルは腕を大きく振って呼んだ。
夏樹は驚き、首を竦める。そしてハルを見つけるなり、慌てたように紙袋を後ろ手に隠した。
「夏樹、何かくしたの?」
「何って……なんでもねーよ」
あらぬ方向を見て、近寄ったハルから目を反らす。逆に怪しさを誘った仕草にますますハルは紙袋への興味を抱いた。
「ぼく見たよ、夏樹、海咲姐のところから紙袋持ってたの。ねぇねぇ、なになに~ぃ?」
すばやく後ろを覗きこもうと試みるハルに「わっ、バカ。ユキに見つかるだろ」と夏樹が身を翻し、紙袋をかばった。
「ユキ? ユキ今ここにいない」
「そうなのか?」
「うん。ユキはうちにいるよ。ぼくひとり」
「……なんだ。そういうことかよ。驚かせんなよ」
ユキの不在を知るや否や、大仰に夏樹は胸を撫で下ろした。安堵する夏樹に「ねぇねぇ、ユキがどうしたの?」とハルは聞いた。ユキがいると不都合があったのだろうか。
「なんでもねーよ」
夏樹はそっけなく答え「それよりも、紙袋の中見たいんだろ。ほら」とあっさり出し渋っていた紙袋をハルに差し出した。
「え? 見ていいの?」
「ああ」
頷く夏樹に、ハルは顔を明るくしてさっそく袋の中を開いて覗いた。そこにはルアーがいくつか入っている。赤い色。青い色。二匹分。
「どうしたの、これ。これで夏樹、サカナ釣る?」
「ちげーよ。これは、ユキにやろうと思ってるんだ」
三回目の質問で、ようやく夏樹は答えてくれた。
「アイツ今、バイトでロッドとか買おうと頑張ってるだろ」
「うんうん。ユキ、ちょーガンバってる!」
歩が船長をしている青春丸でバイトを始めてから一週間とちょっと。ユキはすっかり船と海に慣れ、一生懸命働いていた。つい先日シイラを釣った時の笑顔を思い出し、ハルの心はうきうきした。
「だからさ、アイツがロッド買った時、これやろうかなって」
「失敗しても頑張ってるし、アイツがガンバってるの見てると、なんか俺も嬉しいから」
「そっかぁ。これはユキへのごほーびなんだね」
「そうだ。だからまだばれちゃいけないんだ。絶対ユキに言うなよ」
ハルから返してもらった紙袋を手に、夏樹が口に立てた人差し指を当てた。それを見て、ハルは両手で唇を押さえる。帰ったら、すぐユキに言うつもりだったから。
「もし言ったら――」
大袈裟に声を潜める夏樹に「……言ったら?」とハルの声もつい小さくなる。
夏樹はにやりと笑って答えた。
「今度うちでしらす丼注文した時、しらす抜きにしてやる」
「それ、ただのごはん!」
ぎゃー、と悲鳴を上げるハルに、夏樹も声を出して笑った。
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