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朝に目を覚ました燈治が最初に見たのは、こちらをのぞき込む七代だった。珍しいな、千馗が俺より早く起きるなんてよ。いつもだったらこっちが起こす立場なのに。ぼんやり起き抜けの頭で考えながら「おはよーさん」と少し眠気の残る声で言った。
「おはようございます」
対して七代は溌剌としている。朝からやけに元気だ。
「なんだ、今日はやけに早いな」
欠伸をし、燈治は身体を起こし、枕元に置いた携帯を取った。画面を見れば七時半と表示されている。普段なら確実に七代は傍らに敷かれた布団で寝こけている時刻だ。一緒に暮らしだして一ヶ月と少し。これまでは燈治が七代をいつも起こしていた。
まさか今日は雨か? 心配してカーテンを開けたが、晴れ晴れとした青空が広がり、差し込む日光が目を刺激する。
眩しさに目を細め手で庇を作る燈治に「がんばって早起きしちゃったんです」と七代が両手に腰を当て胸を張った。
「だって今日は燈治さんの誕生日じゃないですか!」
「あ? あ、ああ……そういやそうだったな」
七代の言葉で燈治は自身の誕生日が正に今日だと思い出した。だがもういちいち喜ぶ歳ではない。それにただ一つ年齢を重ねるだけのこと。感慨もなく呟く燈治に「反応が薄いですねー」と七代が不服そうに唇を尖らせた。
「そういうの無頓着なのは駄目ですけど……まあ今日は特別ですからね、大目に見ましょう」
「そりゃどーも。で、どうしてそれが千馗が早起きする理由になんだ?」
俺の誕生日だからって張り切ってくれるのは嬉しいけどよ。胸の奥がくすぐったくなりながら燈治は尋ねた。OXASに在籍している七代は期待の新人として多忙な日々を送っている。たまの休みには昼過ぎまで寝ているのが当たり前だった。祝いたいと頑張る七代の気持ちはありがたいが、しっかり休んでもほしい。
「わかんないですか? せっかくの誕生日なのに、布団でごろごろとか時間がもったいないじゃないですか。ちゃんと、きちんとお祝いしたいんです」
「……そっか。ありがとな」
七代にそこまで言われるのは悪くない。満更でもない顔で燈治は「じゃあ、どうお祝いしてくれるんだ」と続けて尋ねた。
「えっとですね」と七代は目を輝かせて応える。
「ケーキはもう予約してるんですよ。それでプレゼントは――」
立てた人差し指を七代は自身に向けた。
「おれ」
「……」
「っていうのは置いておいてー、何かリクエストがあれば応えますよ」
怪訝な顔でまじまじと見つめる燈治に発言を撤回し、焦った七代は即座に提案する。
「何か欲しいものがあればそれでもいいですし、行きたいところがあれば今日は全部おれ持ちで行くのもありですし」
「お前持ちって」
七代は常日頃から節約して、貯蓄している。その努力を無に帰すような発言に「そこまでしなくてもワリカンでいいだろ」と軽く窘める。
しかし七代は「それとこれとは話が別ですから!」と拳を固めた。
「だって燈治さんの誕生日じゃないですか。おれが貯めているのはここぞって時に使うためです。そのここぞって時が今なんですからこれは譲りませんよ」
「ったく、お前はよ……」
妙なところで七代は頑固だ。息巻く恋人に、燈治は思わず苦笑を漏らす。だから、手放したくないんだコイツを。
そうだ――欲しいもの、あるじゃねえか。
思いつき、燈治は手を伸ばして七代の手首を取った。引っ張り「こいよ」と囁いてベッドに乗せる。抱きしめて、すぐ傍まで近づいた唇に軽く吸いつく。それだけのことなのに、とても興奮して勃ってしまいそうだった。
「別に無理して金を使う必要なんざねえだろ」
突然の挙動に「え?」と反応が鈍った七代を押し倒し、燈治は獰猛に笑った。
「おれが欲しいもんは最初っから目の前にあるんだよ」
「……はい?」
燈治を見上げる七代の目が丸くなった。
「さっき言ったこと、忘れたとはいわせねえぜ。おれがプレゼントだ――ってな」
「う、え……って、まさか本気にしたんですか?」
途端にうろたえ出す七代に燈治は「朝から晩までってのも悪かないだろ」と悪戯っぽく笑う。だが本気の目で熱く七代を見つめた。
誕生日にずっと恋人と肌を重ねあうのも悪くねえ。改めて燈治は思い、七代の頬を掌で撫でる。
「リクエスト、応えてくれるんじゃなかったか?」
「う……」と七代が戸惑った視線で呻いた。視線が落ち着きなく彷徨う。
「おれがプレゼントとか……いいんですか? 安上がりすぎません?」
「バーカ、そりゃ逆だろ」
燈治は頬を撫でていた手で、七代の額を弾いた。
どんなものにも代えられない一番大切で、大事な存在。こうしていられるのすら燈治にとっては何よりも僥倖だ。
「いいから頷けって」
「………………」
しばしの沈黙の後、恥じらいつつ七代は頷いた。
燈治は満面の笑みで頷き返し、恋人の唇にキスを落とす。何度も口づけを繰り返し燈治の手が窓に伸び、開けたばかりのカーテンを閉める。
ベッドの上で二人の吐息が甘く絡まり、身体や視線は熱を帯びていく。
七代と居られる幸せを噛み締め、燈治は今日という日をずっと長く感じていられように、そっと願った。
千馗と幸せになれよ!!
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