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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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 足がすうすうして心もとない。陽介は控室代わりの教室で机に座り、スカートから伸びた足をぶらつかせた。
 扉の向こうからは、学園祭の活気が伝わってきた。誰もが皆、楽しい時間を味わっている。しかし、静かな教室の中からだと、ほんのちょっぴり寂しくなった。なんだか、こちらとむこうが切り離されてしまっているみたいだ。
 本当だったら、陽介もあちら側の人間になるはずだった。日向と二人、祭りでにぎわう校内を見回って楽しい思い出を作って――。
「それがどうしてこうなった……」
 どんよりと重い気持ちでため息を吐く。これから陽介を待ち受けているのは、女装コンテスト。千枝たちの他薦によって強制参加させられる羽目になった。それを嘆いたら「元はと言えば、アンタが先輩らを無理やりミスコンに他薦したからだろうが」と完二から正論で突っ込まれている。
 そりゃ確かにその通りだけどよ。ここまでする必要あんのか。陽介は自分の足を見下ろした。下着が見えるか見えないか、ぎりぎりのラインを保ったスカートから伸びた足は、無駄毛がない。ガムテープを用意した千枝によって、無情にもはがされてしまった。何度も何度もガムテープを貼ってはがされて――。あの時の痛みは言葉では言い表せない。無駄毛と同時に、陽介は男として大事な部分もはがされてしまった気持ちになり、肩を落とした。
「里中のやつ、手加減ぐらいしろっつうの……」
 文句を呟く陽介の耳に、扉の開く音がした。顔をあげると、日向が教室に入ってきた。背筋をぴんと伸ばす日向の姿は、セーラー服だ。踝まで丈があるスカートに、かぶったかつらはおさげが二つ結わえられている。パッと見ると、一昔前の不良を彷彿とさせた。堂々としている分迫力があって、見るものを圧倒させる。
「っていうか、橿宮。お前よくそんな恰好で外歩けるな……」
「別にこれぐらい平気だ。悪いことをしているわけでもない」
「いや、悪いことしてなくたって、はっずかしいだろ、女装とかさぁ」
「あきらめろ。どうせもう逃げ場はないんだ。だったら、胸張って散って終わらせばいい」
「散るの前提なのね……」
「明らかにミスコンの前座だからな」
「ははっ、お前のそういう割り切りのいいところ、結構好きだぜ」
 いっそすがすがしくなる日向の言葉に、陽介は思わず吹き出してしまった。変なところで前向きすぎる日向に引っ張られて、沈んでいた気持ちが上昇する。
「ありがとう」と日向は真顔で礼を述べ、軽く握りしめられた右手を前に出した。じっと陽介の顔を見つめる。
 不意に見つめられた陽介は、首をひねり「どしたん?」と尋ねる。顔に何かついてるんだろうか。
「いや、さっき里中からこれを預かってきたんだ」
 日向は陽介に手の甲を上にして右手を差し出した。陽介がのばした右手に、落とされたのは色つきリップクリームだった。
 陽介は蓋を開けた。ピンク色のリップクリームに「うっわ、これぬっちゃうの?」と言った。
「口紅じゃないだけマシだと思え」
「そりゃそうですけどー……」
 ファンデーションやチークだけでもうんざりだったのに。口紅じゃないとしても、これ以上顔に何かを施すのは抵抗があった。
「しかたない。貸せ」
 渋る陽介の手から日向がリップクリームを奪った。蓋を取って、中身を伸ばし、がっと陽介の顎をつかむ。そのまま上向きにされ「おごっ」と陽介のくちから情けなくうめき声が漏れた。
「リップとはいえ、色がつくんだ。大人しくしてろよ」
 眼光鋭くして言われ、陽介の身体は固まった。これは逆らったらさらに睨まれてしまう。勝ち目はなかった。
 大人しくなった陽介の唇に日向の手によって、リップクリームが丁寧に塗られていく。数回色を重ねるようにリップクリームを滑らせた。
「よし、いい感じ」
 日向は満足したように頷いた。
「あのー、橿宮さん? 塗ったんなら手を放していただけないでしょうかね」
 リップクリームを塗った後も、日向は陽介の顎から手を離さない。頭が上向けられたままの体勢は、後ろに倒れないよう背中を反らしているため、維持するのが大変だった。
「早く」と頼み込む陽介に、日向がふと目を細めた。ん、と陽介が思う間もなく、顔が近づき一瞬だけ唇が触れた。
 キスされたと認識するより早く、日向の手が離れていく。同時にコンテスト参加者の呼び出しが黒板上のスピーカーから流れた。
「いよいよか。さっさと済ませてしまおう」
「……」
 呆然と瞬きをする陽介に「花村」と日向が頬を軽くたたいた。
「お、おう。わかってるよ。さっさと終わらせて、女装から解放されるんだ」
 陽介は座っていた机から降りて歩き出す。一瞬だけでも触れ合った感触に、女装に対する不満やコンテストへの緊張が全部吹っ飛んでしまった。代わりに心臓がばっくばくなんですけど! つかあいつは異常に漢らしすぎんだろ!
 さきに扉の前まで来ていた日向に向かって大股に歩き、陽介はセーラー服に身を包んだ肩に手を回した。
「終わったら、今度はこっちからさせろよ。女装がんばったご褒美に」
「ちゃんと逃げずに終わらせたらな」
 肩を竦めつつ、日向はあっさり了承してくれた。
 目の前にぶら下がったご褒美に、陽介も腹をくくる覚悟が出来た。潔く散って、さっさと女装から解放されよう。そして、橿宮とチッスするんだ。そう自分に言い聞かせ、陽介は日向と共に会場となる体育館へと向かった。


キスを落とす25箇所【07:赤い唇へ触れるだけの】

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