小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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純吾が休みの日は、いつも一人暮らしをしている優輝のアパートにくる。そして料理や洗濯など、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。一度それを目の当たりにした大地は「……通い妻」と呟いていたけど、実質その通りっぽい感じがする。
言っておくが、俺が強制した訳じゃない。純吾が望んでしていることだ。やれることは自分できっちりやる、が信条の一つである俺は、純吾にも『ひとりでやれるから』と言った。だけど待っていたのはとても悲しそうな純吾の反応だ。しょんぼり肩を落とす様は、まるで言うことを聞いたのに、ご主人様に誉めてもらえなかった犬みたいだった。あんなの見たら、断れないだろうが。
だから俺は純吾の好きにさせている。やっぱり見るんだったら悲しい顔より、楽しい表情がいい。
今日の夕ご飯は肉じゃがだ。それからもちろん茶碗蒸し。台所からする匂いは食欲を増長させるには十分で、俺は今からご飯の時間が待ち遠しくなった。ラグの上で寝っころがっていた腹が鳴って、食事を催促してる。でもガマンガマン。空腹は最高の調味料なんだから、ここで堪えたら後の食事が数倍旨くなる。
でも、でも……つまみ食いだってしたい。あんなにおいしそうな匂いをさせておいてご飯の時間までお預けなんてちょっとつらい。
矛盾した思いに床を転がっていると「優輝?」といつの間にか純吾が部屋の戸口に立っていた。
「そんなに転がったら、目が回っちゃうよ」
「その前に空腹で目が回りそうだけどな……」
うつ伏せの状態で止まり、肘を突いた俺は純吾が持っているものに、思わず身体を起こして座りなおした。
「それ、出来立てか!?」
「うん。味見してほしくて」
純吾は俺の前で正座し「はい」と持っていた器を渡した。箸が添えられた器の中には、ほかほかと湯気を立てている出来立ての肉じゃが。
なんてナイスタイミング。俺は「ありがとう!」とさっそく箸をつける。
うん、うまい。相変わらず和食は純吾のお得意料理だ。味といい、じゃがいものほくほく具合といい、俺の中で最高の地位を築き上げる。もちろん一位は茶碗蒸しだけど。
「おいしい?」
「うん、うまい!」
「……よかった」
ほっとして純吾は空になった器を受け取り「もうちょっと待っててね」と立ち上がる。
「待つ待つ! 楽しみにしてるからな!」
台所へ引っ込みかけた純吾が、半歩後戻りして俺を見た。
「ジュンゴも、ご飯の後楽しみにしてるね」
「…………お、おう」
小さく口元をゆるめ、純吾は今度こそ台所へ戻っていった。わかっちゃいたが、やっぱり照れる。
ご飯が終わったら、俺に尽くした分、純吾はこっちに甘える。
まあその内容は色々な訳で。俺としては全然かまわないけれど、それぐらい純吾はこっちに尽くしてくれるし。
だけどさっきみたいに宣言されると、やっぱりちょっと恥ずかしいな。前のことを思い出した俺は、かーっと頬が熱くなるのがわかった。
うわ、すっごい、恥ずかしい。
俺は近くにあったクッションを抱えると、また床に転がった。せめてご飯の後風呂にはいるときは念入りに身体を洗っておこうと心に決めた。
言っておくが、俺が強制した訳じゃない。純吾が望んでしていることだ。やれることは自分できっちりやる、が信条の一つである俺は、純吾にも『ひとりでやれるから』と言った。だけど待っていたのはとても悲しそうな純吾の反応だ。しょんぼり肩を落とす様は、まるで言うことを聞いたのに、ご主人様に誉めてもらえなかった犬みたいだった。あんなの見たら、断れないだろうが。
だから俺は純吾の好きにさせている。やっぱり見るんだったら悲しい顔より、楽しい表情がいい。
今日の夕ご飯は肉じゃがだ。それからもちろん茶碗蒸し。台所からする匂いは食欲を増長させるには十分で、俺は今からご飯の時間が待ち遠しくなった。ラグの上で寝っころがっていた腹が鳴って、食事を催促してる。でもガマンガマン。空腹は最高の調味料なんだから、ここで堪えたら後の食事が数倍旨くなる。
でも、でも……つまみ食いだってしたい。あんなにおいしそうな匂いをさせておいてご飯の時間までお預けなんてちょっとつらい。
矛盾した思いに床を転がっていると「優輝?」といつの間にか純吾が部屋の戸口に立っていた。
「そんなに転がったら、目が回っちゃうよ」
「その前に空腹で目が回りそうだけどな……」
うつ伏せの状態で止まり、肘を突いた俺は純吾が持っているものに、思わず身体を起こして座りなおした。
「それ、出来立てか!?」
「うん。味見してほしくて」
純吾は俺の前で正座し「はい」と持っていた器を渡した。箸が添えられた器の中には、ほかほかと湯気を立てている出来立ての肉じゃが。
なんてナイスタイミング。俺は「ありがとう!」とさっそく箸をつける。
うん、うまい。相変わらず和食は純吾のお得意料理だ。味といい、じゃがいものほくほく具合といい、俺の中で最高の地位を築き上げる。もちろん一位は茶碗蒸しだけど。
「おいしい?」
「うん、うまい!」
「……よかった」
ほっとして純吾は空になった器を受け取り「もうちょっと待っててね」と立ち上がる。
「待つ待つ! 楽しみにしてるからな!」
台所へ引っ込みかけた純吾が、半歩後戻りして俺を見た。
「ジュンゴも、ご飯の後楽しみにしてるね」
「…………お、おう」
小さく口元をゆるめ、純吾は今度こそ台所へ戻っていった。わかっちゃいたが、やっぱり照れる。
ご飯が終わったら、俺に尽くした分、純吾はこっちに甘える。
まあその内容は色々な訳で。俺としては全然かまわないけれど、それぐらい純吾はこっちに尽くしてくれるし。
だけどさっきみたいに宣言されると、やっぱりちょっと恥ずかしいな。前のことを思い出した俺は、かーっと頬が熱くなるのがわかった。
うわ、すっごい、恥ずかしい。
俺は近くにあったクッションを抱えると、また床に転がった。せめてご飯の後風呂にはいるときは念入りに身体を洗っておこうと心に決めた。
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回帰エンド後っぽく
「優輝、なに見てるの?」
本を読んでいた優輝にやってきた純吾が声をかけた。
顔を上げた優輝は「さっき本屋で買ったんだ」と表紙を純吾に見せる。愛くるしい子猫が載せられた表紙に「かわいいね」と純吾が顔を綻ばせた。
「ジュンゴもねこ見たいな。いい?」
「いいよ。隣に座る?」
「うん」
うなずいて純吾は優輝の隣へ並んで座る。見やすいように触れあった脚へ雑誌を広げて置いた。
「もしじっくり見たいページがあったら言うんだぞ」
「うん」
わくわくしている純吾に、優輝はジュンゴは本当に猫が好きなんだなあと実感した。この雑誌を買ったのも猫を可愛がる純吾を思い出したからだ。もし今通りかからなくても、後で貸すつもりだったからちょうどよかった。
雑誌は中身も充実していた。子猫の愛くるしさを見事に表現する構成についじっと見つめてしまう。子猫たちがじゃれあう姿は優輝の心を和ませた。
飼ってみたい気持ちも膨らんでいく。だが生憎今の環境では動物を飼うのは無理があった。いつか一人暮らししようと長期的な計画を立てている。アパートを探したり、一人暮らしに必要なものを揃えるとなると、結構な額になる。
でもアパートはペット可のところを探すつもりではあった。どこからともなく純吾が拾ってきそうだから。かつて重傷を負った猫のために奔走した純吾を思いだし、優輝は忍び笑う。
純吾は熱心に雑誌を見ているだろうな、と優輝は横を見た。
しかし優輝の予想は外れた。
「……?」
横を向いていると思っていた純吾は、雑誌ではなく優輝を見ていた。すぐ近くで視線が絡み、お互い驚いたように瞬きをする。
ジュンゴの横顔を見つめるつもりが、まさかこっちが見つめられていた?
気づいた優輝は恥ずかしくなって身体を引く。
しかし純吾の手が後ろから伸び、優輝の肩を抱いた。
引き寄せられて、純吾の顔がすぐ近くに見える。
「…………っ」
唇が触れ合い、優輝の肩が竦んだ。
キスされたのはほんの一瞬。目を丸くする優輝の肩からすぐ手を離し「ここもうちょっとみていい?」と純吾は何事もなかったかのように言う。
全く悪びれてない純吾に優輝は首を傾げた。さっきキスされたのって気のせいだろうか。いやいや、唇の感触がしたじゃないか。でもジュンゴ全くその点に触れないし。色々な考えが一瞬脳内をよぎるが、まあいいか、で優輝は片づけてしまった。下手に勘ぐり混乱するよりは、精神安定上ましだろう。
「あ、優輝。この猫じゅんごみたい」
純吾が嬉しそうに紙面を指さした。無邪気に楽しんでいる姿に優輝は内心どきどきとしている心臓を宥めながら「そうだな」と同調した。
「優輝、なに見てるの?」
本を読んでいた優輝にやってきた純吾が声をかけた。
顔を上げた優輝は「さっき本屋で買ったんだ」と表紙を純吾に見せる。愛くるしい子猫が載せられた表紙に「かわいいね」と純吾が顔を綻ばせた。
「ジュンゴもねこ見たいな。いい?」
「いいよ。隣に座る?」
「うん」
うなずいて純吾は優輝の隣へ並んで座る。見やすいように触れあった脚へ雑誌を広げて置いた。
「もしじっくり見たいページがあったら言うんだぞ」
「うん」
わくわくしている純吾に、優輝はジュンゴは本当に猫が好きなんだなあと実感した。この雑誌を買ったのも猫を可愛がる純吾を思い出したからだ。もし今通りかからなくても、後で貸すつもりだったからちょうどよかった。
雑誌は中身も充実していた。子猫の愛くるしさを見事に表現する構成についじっと見つめてしまう。子猫たちがじゃれあう姿は優輝の心を和ませた。
飼ってみたい気持ちも膨らんでいく。だが生憎今の環境では動物を飼うのは無理があった。いつか一人暮らししようと長期的な計画を立てている。アパートを探したり、一人暮らしに必要なものを揃えるとなると、結構な額になる。
でもアパートはペット可のところを探すつもりではあった。どこからともなく純吾が拾ってきそうだから。かつて重傷を負った猫のために奔走した純吾を思いだし、優輝は忍び笑う。
純吾は熱心に雑誌を見ているだろうな、と優輝は横を見た。
しかし優輝の予想は外れた。
「……?」
横を向いていると思っていた純吾は、雑誌ではなく優輝を見ていた。すぐ近くで視線が絡み、お互い驚いたように瞬きをする。
ジュンゴの横顔を見つめるつもりが、まさかこっちが見つめられていた?
気づいた優輝は恥ずかしくなって身体を引く。
しかし純吾の手が後ろから伸び、優輝の肩を抱いた。
引き寄せられて、純吾の顔がすぐ近くに見える。
「…………っ」
唇が触れ合い、優輝の肩が竦んだ。
キスされたのはほんの一瞬。目を丸くする優輝の肩からすぐ手を離し「ここもうちょっとみていい?」と純吾は何事もなかったかのように言う。
全く悪びれてない純吾に優輝は首を傾げた。さっきキスされたのって気のせいだろうか。いやいや、唇の感触がしたじゃないか。でもジュンゴ全くその点に触れないし。色々な考えが一瞬脳内をよぎるが、まあいいか、で優輝は片づけてしまった。下手に勘ぐり混乱するよりは、精神安定上ましだろう。
「あ、優輝。この猫じゅんごみたい」
純吾が嬉しそうに紙面を指さした。無邪気に楽しんでいる姿に優輝は内心どきどきとしている心臓を宥めながら「そうだな」と同調した。
お待たせしましたー、とファーストフードの店員が注文待ちの商品をトレイに乗せて持ってきた。燈治が受け取ったそれには、たくさんのハンバーガーやポテトが一つの山みたいに乗せられていた。
「……すごいですねえ」
先にハンバーガーを両手で持って食べていた七代は目を丸くした。余りの多さに、トレイの下に敷いてあるペーパーすら見えない。どれぐらいお金かかってるんだろう。
「あ? これぐらい普通だろ?」
あっさり返した燈治は「んじゃ、いただくとするか」とさっそく手近のハンバーガーに手を伸ばす。包みを広げ出てきたハンバーガーを大きく開けた口でかぶりついた。
一口で半分近く食べられてしまったハンバーガーに、七代は自分が手に持っているモノを見下ろす。まだ半分もなくなっていない。どうやらおれの三口分と壇の一口分は同じ容量みたいだ。
七代が唖然としているうちに、ぱくりぱくりと燈治はあっと言う間にハンバーガーを一つ平らげてしまった。そして今度はポテトに手を伸ばす。
「壇の普通はおれのとはちょっと違ってるみたいですけど」
小さくかじったハンバーガーをよく噛んでから飲み込み、七代は言った。そもそも注文する量が違いすぎる。
しかし燈治は「俺からすれば、お前の少食の方が気になるぜ」と指についたポテトの塩気をなめながら言った。
ハンバーガーやポテトでぎっしりの燈治のトレイに比べ、七代のは一番安いハンバーガーに最小サイズのシェイク。それだけしか乗っていない。
「いや……少食と言うよりケチってるんだっけか」
「ケチとは失礼ですね。節約と言ってください」
七代はむっとした。封札師は洞探索用の武器や、OXASに提出する書類作りのための資料など色々入り用になる。澁川に仕事を紹介して貰っているが、それでも必要なものを買えばすぐになくなってしまうのが現状だ。削れるものは削って、資金を少しでも浮かせたい。
考え込む七代の表情から節約を止めるつもりはないと読んだらしい。燈治は「だからってこういうことまでケチんな。そんなんじゃいつか倒れるぞ」と苦々しい顔をした。
「でも……」
「これ、食えよ」
突然七代のトレイに燈治がポテトを丸ごと入れた。
「え、これ壇のじゃ……」
「俺はたくさんあるからいいんだよ。いいから、さっさと食え」
「でも……」
人様のモノを貰うなんて、と恐縮する七代に燈治は「もうそれはお前のモノだからな。ちゃんと残さず食えよ」と話を切り上げてしまった。呆然とする七代を余所に、また新たなハンバーガーへと取りかかる。
黙々と食べる燈治はもう反論は聞かないと暗に言っているようだった。七代は強引だなあ、と小さくため息をつき両手をあわせる。
「……じゃあ、いただきます」
「おう」
ハンバーガーをトレイに戻し、ポテトを一本摘んだ。先端から口をつけ、少しずつかじっていく。
――ハムスターみたいだな。
ちらりと七代の様子をうかがった燈治は、小動物のような仕草を連想する。頭の中で浮かんだ一生懸命食べるハムスターが目の前の七代とぴったりうまく重なり、思わず上がってしまった口元を燈治は口元をハンバーガーを食べるふりで隠した。
「……すごいですねえ」
先にハンバーガーを両手で持って食べていた七代は目を丸くした。余りの多さに、トレイの下に敷いてあるペーパーすら見えない。どれぐらいお金かかってるんだろう。
「あ? これぐらい普通だろ?」
あっさり返した燈治は「んじゃ、いただくとするか」とさっそく手近のハンバーガーに手を伸ばす。包みを広げ出てきたハンバーガーを大きく開けた口でかぶりついた。
一口で半分近く食べられてしまったハンバーガーに、七代は自分が手に持っているモノを見下ろす。まだ半分もなくなっていない。どうやらおれの三口分と壇の一口分は同じ容量みたいだ。
七代が唖然としているうちに、ぱくりぱくりと燈治はあっと言う間にハンバーガーを一つ平らげてしまった。そして今度はポテトに手を伸ばす。
「壇の普通はおれのとはちょっと違ってるみたいですけど」
小さくかじったハンバーガーをよく噛んでから飲み込み、七代は言った。そもそも注文する量が違いすぎる。
しかし燈治は「俺からすれば、お前の少食の方が気になるぜ」と指についたポテトの塩気をなめながら言った。
ハンバーガーやポテトでぎっしりの燈治のトレイに比べ、七代のは一番安いハンバーガーに最小サイズのシェイク。それだけしか乗っていない。
「いや……少食と言うよりケチってるんだっけか」
「ケチとは失礼ですね。節約と言ってください」
七代はむっとした。封札師は洞探索用の武器や、OXASに提出する書類作りのための資料など色々入り用になる。澁川に仕事を紹介して貰っているが、それでも必要なものを買えばすぐになくなってしまうのが現状だ。削れるものは削って、資金を少しでも浮かせたい。
考え込む七代の表情から節約を止めるつもりはないと読んだらしい。燈治は「だからってこういうことまでケチんな。そんなんじゃいつか倒れるぞ」と苦々しい顔をした。
「でも……」
「これ、食えよ」
突然七代のトレイに燈治がポテトを丸ごと入れた。
「え、これ壇のじゃ……」
「俺はたくさんあるからいいんだよ。いいから、さっさと食え」
「でも……」
人様のモノを貰うなんて、と恐縮する七代に燈治は「もうそれはお前のモノだからな。ちゃんと残さず食えよ」と話を切り上げてしまった。呆然とする七代を余所に、また新たなハンバーガーへと取りかかる。
黙々と食べる燈治はもう反論は聞かないと暗に言っているようだった。七代は強引だなあ、と小さくため息をつき両手をあわせる。
「……じゃあ、いただきます」
「おう」
ハンバーガーをトレイに戻し、ポテトを一本摘んだ。先端から口をつけ、少しずつかじっていく。
――ハムスターみたいだな。
ちらりと七代の様子をうかがった燈治は、小動物のような仕草を連想する。頭の中で浮かんだ一生懸命食べるハムスターが目の前の七代とぴったりうまく重なり、思わず上がってしまった口元を燈治は口元をハンバーガーを食べるふりで隠した。
頃合いを見計らって、ガスの火を止めた。最近は冷え込むから、今日は鶏肉と野菜のトマト煮を作ってみた。後は余熱で放っておけば出来上がるだろう。と鍋のふたを閉じる。炊飯器はあと数分で白米が炊きあがるし、冷蔵庫にはサラダが相棒の帰りを待っている。
一通りの準備を終え、燈治はギャルソンタイプのエプロンを取った。手を洗い、食器棚においていた携帯電話を開く。液晶画面には着信やメールはない。残業はないようだが、それでも帰りが待ち遠しくなってしまう。料理をする回数が増えて、その全てはもうすぐ帰ってくる相棒のために作っているようなものだったから。
「ただいま帰りましたー」
玄関の扉が開く音と共に、待ち望んでいた声が聞こえた。燈治は即座に玄関へ向かう。薄手のカーディガンにマフラーを首に巻いて、仕事から戻ってきた七代が「美味しそうな匂いがしますね」と寒さで赤くなった鼻をひくつかせた。
「ごくろーさん」
七代の鞄を受け取り燈治が「風呂か飯、どっちに……」と尋ねかけ、七代の腹部から空腹を訴える音がして笑った。
「飯にするか」
「……お願いします」
空きっ腹をさすり、頬を染めた七代はそそくさと靴を脱いで玄関をあがった。その背中に燈治は「手ぇ洗って着替えてこいよ」と声をかける。
「その間に飯の準備しておくから」
「はーい」
洗面所へ向かう七代にこっそり笑い、燈治はまず七代の荷物を置きに二人の部屋へ向かう。さぁ、すぐに残りを準備しないとな。
居間の中央で存在を主張するこたつに、室内へ足を踏み入れるなり七代は目を輝かせた。
「こたつ! こたつです!!」
七代は子供みたいにはしゃぐ。
「寒くなってきたからな」
炊き立てのご飯を乗せた盆を持って燈治は「ほら、飯にするから座れって」と七代を促した。はい、と大きくうなずき、七代はこたつに入る。暖かさに背中を丸くして手も突っ込み「みかんもありますか?」とわくわくした眼差しで燈治を見た。
「ちゃんと買ってあるから安心しろ」
「やった!」
「でもその前にきちんと飯食えよ。また仕事が立て込んでるんだろ。しっかり食って体力付けねえとぶっ倒れるぞ」
「はーい」
いただきます、と手を合わせ七代は燈治の用意した夕食を食べ始める。にっこり「おいしいです!」と絶賛されて、燈治は胸の奥がこそばゆくなった。
七代と暮らし初めて大分時がたつ。
燈治は大学に通いながらドッグタグのバイトをこなし、七代は封札師の仕事に忙しい毎日を送る毎日だ。今日こそ早かったが、時には数週間家を離れるときもある。寂しくないといえば嘘になる。だが、彼の帰る場所に自分が入れることを燈治は嬉しく思っていた。一番最初に七代へ「お帰り」と言えるのだから。
それに。
「――こら、千馗」
二人きりの場所、いろんな七代の姿を独り占めしてみられる幸せもある。
「起きろよ。んなところで寝たら風邪引くぞ」
燈治はこたつで横になった七代の枕元でしゃがみ、軽く肩を揺すった。疲れとこたつの暖かさですっかり眠る体勢に入ってしまっている。
無防備な寝顔はあどけない。キスをしたくなる衝動を抑え「寝るならちゃんと布団に入って寝ろ。敷いてやるから」と起こしにかかる。
七代は口をもごもご動かし「みかん……」と瞼を閉じたまま軽く頭を浮かせた。
「もう十分食べただろ」
こたつ板で山になったみかんの皮。このペースで食べられたら数日後にはもう一箱買わなければなくなってしまう。
「食べられないなら……ねる……」
七代の頭がことりと床に沈む。
「おいっ……ってもう寝たのかよ」
早いな、と燈治は後頭部を掻いた。これでは一人で歩かせるのは無理だろう。仕方なく燈治は七代の脇の下へ手を入れ、こたつから引っ張りだした。背中と膝裏に腕を回し、横抱きにする。
七代はすうすうと気持ちよさそうに寝息をたて、燈治の胸へ頭を凭れさせる。首筋がやけにおいしそうに見えた。
ったく無防備すぎるのも考え物だな。燈治は苦笑して七代の額にキスを落とした。
ま、起きてるときにゆっくりとな。燈治は愛おしそうに笑みを浮かべると、七代を寝かせるため居間を出た。
燈治が主夫ですね。
それっぽい壇主を書いてみた
十月最後の日。
昼食を終えて短い昼寝にしゃれ込もうとした壇燈治は、構内へ続く扉の向こうからばたばたと騒がしい足音を聞いた。さび付いた鉄扉が耳障りな音を立てて開く。屋上の固い石床に寝そべる燈治を見るなり、「もうひどいじゃないですか」と紙袋片手に七代千馗が開口一番で非難した。
「助けてって言ってるのわかってたでしょう?」
大股で近づき枕元にしゃがんだ七代に「俺が入ってもどうしようもねえだろ」と燈治は欠伸をかみ殺した。午前の授業が終わり、屋上に向かう燈治に七代も続こうとしたが、クラスメートの女子に阻まれてしまった。しかも一人ではなく数人で。
物腰が基本穏やかである七代は押し切れない。助けを求めるように七代が視線を向けたが、燈治はひらりと手を振って教室を後にした。
もともと教室の空気にはなじめない質だ。それに妹がいるせいか同じ年頃の女子の扱いが苦手なのもある。
七代は転校してきたばかりだが、クラスメートにはそこそこ人気がある。――主に女子から。余程のことがない限り、うまく逃げられるだろう。
「むう」とむくれ、七代は一旦立つと燈治の隣へ移動して腰を落ち着けた。
「それで」
交差した腕を枕にし、燈治は「アイツら、お前に何の用事だったんだ
?」と訊いた。
「ああ……ハロウィンですよ」
「ハロウィン?」
「壇だって知ってるでしょう? Trick or treat お菓子くれなきゃいたずらするぞのハロウィンですよ」
「いやそれぐらいは知ってるけどよ……。それとアイツらに呼び止められたのとどういう関係が……」
ある一つの可能性を思い浮かべ、燈治は目を見張る。手を突いて起きあがり「まさかお前何かされたのか?」と焦って尋ねた。
七代は個包装のチョコや飴など、駄菓子を持ってきている。それを狙って女子たちが話しかけたのではないか。
七代は小さく頭を振った。
「いえ……何かされたって言うより……逆にもらっちゃったんですけど……」と七代は中が見えるように紙袋の口を燈治に見せた。
カボチャや可愛らしくデフォルメされた幽霊やコウモリの絵が散りばめられた包装紙。マシュマロや手のひらサイズのクッキー。一目見ただけでハロウィンを連想させるものがぎっしり入っている。
拍子抜けした燈治は「……良かったじゃねえか」と呟き、再び横になる。一瞬膨れかけた不安はもう萎んでしまった。
「普通は言われた方があげるものじゃないんですっけ?」
首を捻る七代は紙袋に手を入れ、クッキーを取り出した。手のひらほどの大きさで、カボチャの形をしている。ひょうきんな表情をしているそれをじっと見つめ「ハロウィンには馴染みがないんですけど……このままもらってもいいものなんでしょうか……」と七代は少し途方に暮れた顔をした。
「いいだろ。もらっとけもらっとけ」
燈治はおざなりに答えた。何となく女子たちの意図が分かったからだ。
高校三年ともなれば来年のバレンタインデーのあたりはもう自由登校になっているだろう。それ以外でおおっぴらにプレゼントをする機会なんてハロウィンぐらいしか燈治には考えられなかった。つまり昼休みに入るなり七代に駆け寄った女子らは、彼に何らかの好意を持っている。菓子を渡してきっかけを作り、もっと話す機会がほしいんじゃないかと思った。
――これは燈治の勝手な推測でしかないが、遠からず当たっているだろう。
「まあおれとしても昼ご飯代が浮くのはうれしいですけどね。……壇も食べます?」
七代がチョコレートの包みを開けて、寝ている燈治の唇へ乗せた。押しつけるあたり拒否権なしだろ。憮然としながらゆっくり唇を開く。くちの間からチョコレートが咥内へ落ちる。まさか食べるとは思わなかったのか、チョコレートを摘んだままだった七代の指も一緒に食んでしまった。
唇に指を挟まれ「うわぁっ」と素早く手を戻した七代が、真っ赤な顔をして指をさすった。
口の中のチョコレートよりも七代の表情の方がよほど甘そうだ。見当はずれなことを考え、燈治は溶けかけたチョコレートを飲み込んだ。
十月最後の日。
昼食を終えて短い昼寝にしゃれ込もうとした壇燈治は、構内へ続く扉の向こうからばたばたと騒がしい足音を聞いた。さび付いた鉄扉が耳障りな音を立てて開く。屋上の固い石床に寝そべる燈治を見るなり、「もうひどいじゃないですか」と紙袋片手に七代千馗が開口一番で非難した。
「助けてって言ってるのわかってたでしょう?」
大股で近づき枕元にしゃがんだ七代に「俺が入ってもどうしようもねえだろ」と燈治は欠伸をかみ殺した。午前の授業が終わり、屋上に向かう燈治に七代も続こうとしたが、クラスメートの女子に阻まれてしまった。しかも一人ではなく数人で。
物腰が基本穏やかである七代は押し切れない。助けを求めるように七代が視線を向けたが、燈治はひらりと手を振って教室を後にした。
もともと教室の空気にはなじめない質だ。それに妹がいるせいか同じ年頃の女子の扱いが苦手なのもある。
七代は転校してきたばかりだが、クラスメートにはそこそこ人気がある。――主に女子から。余程のことがない限り、うまく逃げられるだろう。
「むう」とむくれ、七代は一旦立つと燈治の隣へ移動して腰を落ち着けた。
「それで」
交差した腕を枕にし、燈治は「アイツら、お前に何の用事だったんだ
?」と訊いた。
「ああ……ハロウィンですよ」
「ハロウィン?」
「壇だって知ってるでしょう? Trick or treat お菓子くれなきゃいたずらするぞのハロウィンですよ」
「いやそれぐらいは知ってるけどよ……。それとアイツらに呼び止められたのとどういう関係が……」
ある一つの可能性を思い浮かべ、燈治は目を見張る。手を突いて起きあがり「まさかお前何かされたのか?」と焦って尋ねた。
七代は個包装のチョコや飴など、駄菓子を持ってきている。それを狙って女子たちが話しかけたのではないか。
七代は小さく頭を振った。
「いえ……何かされたって言うより……逆にもらっちゃったんですけど……」と七代は中が見えるように紙袋の口を燈治に見せた。
カボチャや可愛らしくデフォルメされた幽霊やコウモリの絵が散りばめられた包装紙。マシュマロや手のひらサイズのクッキー。一目見ただけでハロウィンを連想させるものがぎっしり入っている。
拍子抜けした燈治は「……良かったじゃねえか」と呟き、再び横になる。一瞬膨れかけた不安はもう萎んでしまった。
「普通は言われた方があげるものじゃないんですっけ?」
首を捻る七代は紙袋に手を入れ、クッキーを取り出した。手のひらほどの大きさで、カボチャの形をしている。ひょうきんな表情をしているそれをじっと見つめ「ハロウィンには馴染みがないんですけど……このままもらってもいいものなんでしょうか……」と七代は少し途方に暮れた顔をした。
「いいだろ。もらっとけもらっとけ」
燈治はおざなりに答えた。何となく女子たちの意図が分かったからだ。
高校三年ともなれば来年のバレンタインデーのあたりはもう自由登校になっているだろう。それ以外でおおっぴらにプレゼントをする機会なんてハロウィンぐらいしか燈治には考えられなかった。つまり昼休みに入るなり七代に駆け寄った女子らは、彼に何らかの好意を持っている。菓子を渡してきっかけを作り、もっと話す機会がほしいんじゃないかと思った。
――これは燈治の勝手な推測でしかないが、遠からず当たっているだろう。
「まあおれとしても昼ご飯代が浮くのはうれしいですけどね。……壇も食べます?」
七代がチョコレートの包みを開けて、寝ている燈治の唇へ乗せた。押しつけるあたり拒否権なしだろ。憮然としながらゆっくり唇を開く。くちの間からチョコレートが咥内へ落ちる。まさか食べるとは思わなかったのか、チョコレートを摘んだままだった七代の指も一緒に食んでしまった。
唇に指を挟まれ「うわぁっ」と素早く手を戻した七代が、真っ赤な顔をして指をさすった。
口の中のチョコレートよりも七代の表情の方がよほど甘そうだ。見当はずれなことを考え、燈治は溶けかけたチョコレートを飲み込んだ。
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