小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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「戻ってきましたー」
暢気な声とは裏腹にふらつく足取りをした七代が、ドッグタグの扉を潜った。
彼の足音に店の隅で寝そべっていたドッグタグの看板犬が、すぐさま起きて駆け寄る。足にじゃれて出迎えられ七代は微笑み「ただいま、カナエさん」と腰を屈めてカナエさんの頭を撫でた。
すぐに身体を起こした七代はカナエさんを伴い「マスター、お願いします」とカウンター席に就く。洗った食器を拭き磨いていた澁川は静かにカップを流し台に置き、静かに頷く。
「……まだやるつもりかよ」
今日四度目になるやりとりを、燈治はテーブル席から苦々しい顔で見ていた。とっくに食べ終わって空になったカレー皿を脇に置き、椅子にもたれて腕組みをする。
澁川と話し込む七代の横顔は疲労しているように見えた。当たり前だ。ここ最近ずっと洞に潜ってはクエストを休む間もなくこなし続けている。このままでは倒れるのも時間の問題だ。ただでさえ身体が細いのに。
燈治は席を立ち、新たな依頼を選んでいる七代の隣へ乱暴に座りなおした。カウンターへ腕を伸ばし「今日はこの辺でやめとけ」と置かれていた依頼リストを取り上げる。
「あっ、何するんですか」
仕事を奪われ七代は抗議した。だが燈治も引かず「根詰めてぶっ倒れたら元も子もねーだろ」と言い返し、リストを澁川に戻す。
澁川は何も言わず、リストを受け取った。黙っているが、澁川も七代の体調をおもんばかっているんだろう。
どうして自分の価値を七代は自覚しないのか。ほら、ここにも心配してくれる人がいるのに。
「お金が足りない今ががんばり時なんですって」
「それでも駄目だ。いい加減休め」
「任務にも差し支えますし」
「俺が同行すれば百人力だろ」
「でも……」
しかし頑として七代は首を縦に振らない。燈治は苛々し始める。俺だって、マスターだって心配している。穂坂や飛坂や、倒れたらお前のことを心配する奴がたくさんいる。それなのに、どうしてそこまで無理をするんだ。
何より――一人で全部抱え込もうとしている性根が気に食わない。
ならばこっちも強引に事を進めさせてもらおう。
「いいから休め」
燈治は立ち上がり、七代の肩を掴んだ。引っ張られ目を白黒させる七代に「送ってってやるから今日は帰るぞ」と返事も聞かず店を出る。
「ちょ、まって、おれはまだ――」
「いいから帰っぞ!」
「……気をつけてな」
隻眼を柔和に細め、騒がしくドアを潜る二人を澁川は見送る。きゅうんと鼻を鳴らし寂しそうなカナエさんを見下ろして「今度来たときは何か栄養のつくものを七代に出すか……」と呟いた。
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珍しく立場が逆になった。燈治は欄干に凭れて屋上の景色を眺める七代を見つけた。ぼんやりとしている背中は動かない。
「よぉ」と声をかけ近寄ると、ぴくりと肩を上げた七代がこちらを向いた。いきなり呼ばれた目が丸くなる。
「壇」
「羽鳥先生、驚いてたぜ。まさかお前が現国サボるなんてよ」
「おれだってそういう気分の時ぐらいありますよ」
溜息混じりに言い、七代は顔を前に戻す。近付いて隣に立った燈治は、頬杖を突く横顔の物憂さに眉を潜める。
うまい言葉が思い浮かばず黙ったまま冬の風に吹かれた。こんな時自分の口下手がもどかしくなる。
「……すいません」
七代が頬杖を外して身体ごと燈治に向き合った。
「八つ当たりしてしまいました?」
「八つ当たり?」
「モヤモヤしているからってそれを人にぶつけるのは違いますよね」
苦笑する七代の表情は、常日頃見せている芒洋とした柔らかさが欠けていた。それを埋めるように寂しさが表情に映る。
「本当に、どうでもいいことなんですよ。取るに足らないことなので……。後でちゃんと羽鳥先生にも謝ってきますから。だから」
もうちょっとだけたそがれさせてください。苦笑いのまま七代は言った。暗に一人にさせてほしい、と言葉に滲ませている。
覚えのある感情が燈治の胸によぎる。七代が転校した当初は、屋上にやってきた彼をそれとなく教室に戻らせるよう促していた。七代をきらっているわけではない。ただ近くに誰かがいることが煩わしくて。
相棒を自負していても、まだ七代と出会ってから一ヶ月と半分しか経っていない。心の内側の踏み込めない部分もあるのだと認識し、複雑な心境になった。
ここで無理をしても傷つけてしまうだろう。燈治は「わかった。でも風邪引くからあんまり長居すんなよ」と一度七代の肩をぽんと叩いた。そのまま頭を小さく撫で離れる。
「それから覚えておけよお前には俺がいる。もっと頼って……くれよ」
七代が小さく頷く。名残惜しさを感じつつ、燈治は校舎へ戻った。
扉を潜り、後ろを振り向く。再びぼんやり景色を眺める七代に、今度の休憩時間も会いに行こうと燈治は強く思った。
ベッドに寝転がっていた燈治は、起きあがって端に座り直す。おろした踵で床を突きながら、掌に収まっていた携帯のフリップを開いた。
画面を注視する燈治の親指がボタンに触れては離れていく。ボタンを一つ押せば、七代との通話が繋がるがこれからする会話のやりとりを思うと、寸前で躊躇してしまう。
だけど、迷い続けていたら目標が達成できない。ぐじぐじ悩むのは男らしくねえ。意を決し、燈治は通話ボタンを押す。
耳に当てた携帯の受信部から呼び出し音が流れ、程なく「壇?」と七代の声が聞こえた。二日と聞かない日はないのに、どうしてかとても緊張する。
「どうかしたんですか?」
「いや、大した用じゃねえけど」
思っていることとは裏腹な言葉が口を出た。いや、実際些細なのかもしれないが、燈治からすればかなり重大なことだ。
上擦りそうになる声を低くするよう努め「明日お前暇かなって思ってよ」と言った。何のつもりもない、至って普通に聞こえるように。
「明日ですか? 暇ですけど」
対して七代はのんびりした、いつもの調子で答えた。その後ろには白がいるらしい。誰と話しておるのじゃ、と尋ねる声がする。
見物客がいるような感じに、燈治は本題を出す前に怯む。しかし、ここで引いたらまた同じことをする時に引っ込み癖がついてしまう。
「あー、その、なんだ」
曖昧に言葉を濁し、ゆっくり深呼吸をする。
「明日お前が暇だったら、どっか連れてってやろうかと、思ってるんだが。ほら、言ったろ? お前をいろんな所に連れてってやるって。……だから、明日つき合えよ」
深く吸った息を吐き出すついでに、ようやく言いたかったことが言えた。面と向かっていたら気楽に言えるのに、電話越しだと何故か緊張してしまう。電話だと、相手の反応が表情からうかがえないから。思いついたのが学校だったなら、すぐに七代の腕を引いて直で聞けただろう。
しかし七代の反応はやっぱり変わらなくって。
「え? もしかしてデートのお誘いですか!?」
電話越しでも息巻いている様子が伝わる。
即座に「行きます!」と色よい返事を貰え、身体の力が抜けてしまった。
「よっしゃ。じゃあ行きたい場所考えとけよ。こっちでもいくつか選んでおくから」
「はい!」
いくつか軽いやりとりをし、通話を切る。電話越しでも伝わるはしゃぎように燈治は分かりやすい奴だな、と笑みを堪えながら携帯を閉じた。
だけどやっぱこれからは、直に聞くようにするか。やっぱりアイツの反応は直接見たいから。そう思いながら燈治は七代を連れていく場所はどこにしようか考えることにした。
七代のはしゃぐ姿を想像する燈治の心はすでに明日へと飛び、自然と頬は緩んでいた。
ある休日。燈治は意外な人物から呼び出しを受けて新宿駅まで来ていた。
待ち合わせ場所は西口。到着した燈治は壁際でぼんやりと雑踏を眺める姿を見つけ「雉明!」声をかける。
声に気づいた雉明が、燈治を振り向いた。心なしか、元気がないようだ。
「急に呼び出して、すまない」
顔を合わせるなり神妙な表情で謝る雉明に「いや、構わねえけどよ」と燈治は首を振った。
「でもいきなりどうしたんだ? 千馗にも知らせずに来てほしい、なんてよ。もしかしてお前、千馗に何も言わずここまで来たのか」
「……ああ」
冗談半分でした質問に頷かれ、燈治は眉を跳ね上げる。雉明が七代に黙って出てくるなんて。
雉明は羽鳥家に七代、白ともども居候している。元々呪言花札の番人である雉明は、最後の主でもある七代をとても大切にしていた。何をするにも七代を一番に考え、行動する。だから今回の行動は珍しい。
「マジかよ……。そこまでして、一体何の用事なんだ?」
「……この前、誕生日を祝ってもらった」
ぽつりと雉明が呟いた。脈絡ない話の飛びに「お、おう」と燈治は目を丸くする。
「初めてのことでとても嬉しかった……。千馗も贈り物してくれて」
「そ、そりゃあよかったな……」
燈治はこっそり物憂い溜息を吐いた。こっちは誕生日にプレゼント、とかしてもらったことがない。まだ七代と共にその日を迎えたことがないのだから仕方ないけども、やはり羨ましく思ってしまう。
「おれも七代の誕生日を同じように祝いたいから、聞いてみたんだ。そうしたら千馗もおれと同じ誕生日だったみたいで……」
言葉を区切り、雉明は睫を伏せる。落ち込んだ様子に燈治は察した。
「要はせっかく千馗の誕生日だってのに、何も贈れないのが悔しいんだな」
「……そう、だと思う…………」
「アイツもなあ……前もって言っておきゃいいのによ」
後頭部を一つ掻いて、燈治は鴉羽神社の方向を睨んだ。七代は肝心なときに自己主張をしてくれない。彼の誕生日を祝いたい人間は沢山いるだろうに。同時にこんな機会に七代の誕生日を知ってしまった燈治もまた歯噛みする。聞かなかったこっちも落ち度はあるが。
「千馗は贈りたい気持ちだけで十分に嬉しい、と言ってくれたけど。おれはやっぱり千馗に贈り物をしたい。だけど、おれはまだ千馗の好きなものが何かわからないから」
雉明が燈治の目をまっすぐ見て請う。
「一緒に来てくれないだろうか。――千馗への贈り物を選んでほしい。壇なら千馗の好きなものをおれよりも知っているんだろうから、教えてほしい」
「……なるほど。そりゃあ千馗と一緒に行けねえよな」
燈治はにっと笑った。
「わかったつきあってやるよ。その代わりあげたときの奴の反応、ちゃんと教えてくれよ?」
「わかった」
真面目に頷く雉明に燈治は笑って「楽しみにしてるぜ」とその肩を叩く。そして「じゃあ早速行くか!」と促し二人は雑踏へと足を踏み入れた。
体育に備えて体操服に着替えるため、女子が隣の教室へと移動する。じゃあね、と手を振って同じように出ていった弥紀を見送り、七代も着替え始めた。
「今日の体育は何でしょうねー」
「野球だろ」と後ろで学ランを脱いだ燈治が言った。
「それは壇の希望じゃないですか。壇は本当野球大好きっ子ですねえ」
体育だけは絶対にさぼらず喜々として参加する燈治に、七代は苦笑を漏らす。まだ体育で野球をするかどうかすらわからないのにあのはしゃぎよう。まるで子供みたいだ。
でも七代も体育は嫌いではない。嬉しそうな燈治の表情を見ているだけで幸せな気分になれるから。
スクールベストを脱いで机に置く。もたもたしながらカッターシャツのボタンを外していると「まだか?」とすでに着替え終わった燈治が七代の前に回り込んだ。そして視線が七代の腹部に向けられる。
「……お前、ちゃんと食ってるのか?」
「はい?」
ジャージを手に取った七代が「やだなぁ、食べてますよ」と答える。うまい棒とかですけども。そう心の中で付け加える。バカ正直に答えたときには燈治からのお叱りを受けること間違いなしだ。
「本当かよ」
案の定燈治は疑う。腕を伸ばし、七代の肌がむき出しになった腰を掴み腹を揉んだ。
「うひゃっ!?」
「っち。ぜんぜん肉ついてねえじゃねえか、肉。これ見ろよ、薄すぎるだろ」
「じ、自分の身体ですからわかってますよ。ってか……そんな触らないでって……ふわっ」
わき腹に撫でて細さを確かめる燈治の手の感触がくすぐったい。七代は身を捩って「もう止めてくださいってばぁ!」と空気を読まない不謹慎な手を叩く。
「あぁ?」と行為を阻まれ睨む燈治に、頬をほんのり上気させた七代が「周り! 周りを見てくださいって!」と言った。
周囲で着替えていた男子生徒たちがこちらを一斉に注視している。二人のやりとりに、教室が水を打ったような静けさになっていた。中には七代の上擦った声に頬が赤くなっているのもいた。
「っ」
目立ちすぎてしまった状況に、燈治は手を離す。解放され、はあっと息を吐いた七代は「もう……触るんだったら二人きりの時にしてくださいよ」と言い、着替えを続行する。
七代の発言を受け、同級生たちがざわついた。二人の関係を探るように、また視線が集中する。
お前らには関係ねえ。好奇の視線を睨みつけて抑え込み、燈治は「さっさと着替えろよ」と七代を急かした。
もう、さっきみたいなことはしないと心に誓う。
七代との時間を誰にも邪魔されたくなかったから。
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