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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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一日過ぎましたけどクリスマス小話です
時間軸はエンディング後



 ドッグタグで開かれたパーティーが終わり、店内はわずかな熱気を余韻として残し、静けさを取り戻していた。さっきまでの賑やかさが嘘のようだ。
「はぁ、楽しかったですね」
 余韻を惜しむような息をつき、七代が一つに固められたテーブルの皿を重ねて纏める。
「だな」と厨房から出てきた燈治が、七代の手伝いに入った。明るい緑のエプロンは、彼がドッグタグのアルバイトには行っている証だ。
「ま、あのメンバーじゃ騒がしくならない方がおかしいだろうしな」
「嘉門とか、ミカみゅんさんとかいますもんね……。ミカみゅんさんは幸徳路に怒られてましたけど」
「その点じゃ鹿島も大変だな。パーティ中、ずっと鬼丸とアンジーを注意したところしか見た覚えがないしよ」
「御霧のアレはもう性分だと思いますけどね……」
 パーティの出来事を楽しく語り合い、片づけた食器を二人して厨房に持っていく。入れ違いで「俺は店内の掃除をしてこよう」と澁川が店内へ足を向けた。
「壇はそのまま洗い物を頼む。千馗は……ゆっくりしていてもいいんだが」
 従業員でもないのだから、と含んだ澁川の言葉に「いいんです」と七代は首を振った。
「マスターには今日ここを貸し切りにしてもらったお礼もありますし。それに何かじっとしているのもったいないから。これぐらいはさせてください」
「……そうか」
 澁川は目尻に皺を寄せ「では、店内の掃除が終わったらコーヒーを煎れて待っていよう」と厨房を後にした。恐らく、澁川なりに気を使ってくれたんだろう。
「……だってよ。さっさと洗って終わらせるか」
 腕まくりをする燈治に「はい」と明るく笑って七代もそれを真似る。
 水場はそんなに大きくない。だから役割を分担して片づけを始めた。燈治が食器を洗い、七代がそれを布で拭いて、大きさごとに分けて重ねていく。
「でもよかった。突然パーティにするって決めたのに。皆来てくれて」
 手が滑って皿を落とさないよう、慎重に拭きながら七代が言った。今回のパーティーはほんの数日前に決められた。急に決めたものだから、仲間にはメールでクリスマスに来れそうな人はドッグタグへ、とメールを送るのみ。
 いきなりだったし、来られない人もいるかも、と七代は前もって計画しなかったことを悔やんでいた。だがそれは、まったくの杞憂で終わった。
 当日、ドッグタグへ次々に集まる仲間たち。誰一人欠けることなく集まり、誰もが楽しい時間を過ごした。
「そりゃ、お前からのお誘いだからな」
 泡立てたスポンジを手に燈治は軽く肩を竦める。
「何があっても、どんなに遠い場所にいても来るだろ」
「来るだろって……そんな軽く」
 発言を疑う七代に、燈治は「アンジーは来ただろ。あいつ外国にいたのに」と返した。
 メールをよこした翌日に日本に到着したアンジーは「ダッテ、チーフのお誘いダモン!」と言っていた。無邪気な笑みは毒気が抜けそうなほどに朗らかだった。
「それに地方で任務だったはずの武藤だって、来たじゃねえか」
 まだ任務は終わっていないけど、と言いながらも七代に誘われたから時間を縫ってやってきたいちる。明日も早いから、と言いながらもぎりぎりの時間までパーティに参加してくれた。
「新幹線の時間に間に合ってるといいですけど。……もっと色々話したかったな」
「また任務が終わったらゆっくり話せばいいだろ」
「ですね」
 話しながら、互いに手を動かし続ける。言葉は途切れずに会話は続いて、気がつけばもう洗い物は終わってしまった。
 タオルで手の水気を拭き取る燈治に「これ、どこにしまえばいいですか?」と綺麗になった食器を見て七代が尋ねる。流石に店員ではない最後まで七代にやらせる訳にもいかない。燈治は「俺がするから」と言い渡し、さっさと食器を棚にしまい始めた。
「お前は店に戻れよ。マスターが待ってるからな」
 店内の掃除も終わったんだろう。店に続く扉から、煎れたての香ばしいコーヒーの香りがした。
 しかし七代は「行くのなら一緒がいいです」と首を振り動かない。物腰は穏やかだが、七代は結構頑固だ。だから燈治もそれ以上行かせようとせず「じゃあさっさと片づけるから待ってろよ」と返した。
「はい」とほっとした顔で七代が頷く。食器を片づける燈治を見ながら、壁にもたれた。
「……今頃みんな、思い思いにすごしているんですよね、クリスマス」
 七代が宙を仰いで、ふと呟く。
「義王はこれから御霧とアンジーと手下どもでバカ騒ぎだ!って張り切ってましたし。会長も弥紀と一緒に行っちゃいましたし」
「お前……」
 大皿を仕舞い、燈治は七代を振り返る。
「もう飛坂は生徒会長じゃないぞ」
「おれにとっては、会長はいつまでも会長なのです」
「……ま、気持ちは分かるけどな」
 高校時代の呼び方が抜けない七代に思わず同調し、燈治はふと思った。こうして普通に七代と話しているけれど、これはもの凄いことなんじゃないかと。
 去年の今頃、燈治はずっと悩んでいた。どうすれば七代を死なせずにすむのか。そればかり考えてた。
 彼に課せられた呪言花札の執行者の末路――。封印の為の死。燈治にとってはどんなものにも変えられない大切な者を喪ってしまう現実にあがいていた。
 本当に、本当に怖くて――。
「――燈治さん」
 顔が強ばってしまった燈治の元へ七代が近づき、ぽんぽん、と背中を叩いた。
 にっこりと七代は微笑む。
「呪言花札のことは全部終わったんですよ。――おれは、ちゃんと燈治さんの隣に、いますよ」
「――だな」
 もたれかかる七代の髪が頬に触れる。柔らかなその感触に、燈治の頬は自然とゆるんだ。
「俺にとっては、こうしてお前がそばにいるだけで十分クリスマスプレゼントだな」
「うん」と七代は嬉しそうに笑う。
「おれも……ですよ」
 無言で瞼を閉じる七代に応え、燈治は彼の顎を右手ですくい上げその口を優しく塞ぐ。
「ん……」
 身じろぐ七代が少し苦しそうな声を上げた。そして下からは、ぱたぱたという物音。
「――ん?」
 唇を離し、燈治と七代は揃って下を見た。
 カナエさんが、行儀よく座り尻尾を振って二人を見上げている。吠えずに待っていたのは、カナエさんなりの気遣いだろうか。
「……」
 それでもやっている行為の意味を理解しているようなカナエさんに、七代は頬を染め、ぱっと身体を離す。犬に見られたぐらいで、と燈治は少し不満だったけど、すぐに考え直した。後は帰ってから続きをすれば問題はない。
 カナエさんが立ち上がり、七代の足にすり寄った。甘えるカナエさんを優しく抱き上げる七代に「戻るか」と燈治がエプロンの紐を解いた。
「マスターも待ってるしな」
 ぽん、と軽く七代の頭を叩く。
「そ、そうですね……」
 つ、続きはまた後で。
 そうとても小さな声で呟き、七代は燈治に背を向けてさっさとカナエさんを抱き上げたまま澁川の待つ店内へと向かった。そそくさと去る七代の耳は、真っ赤になっている。
「……考えることは一緒だな」
 燈治は小さく笑い、脱いだエプロンを手に七代の後を追う。
 店内に広がるコーヒーの匂いを吸い込んで、燈治はこれから過ごす二人の夜に思いを馳せた。
 仲間で過ごすのは楽しい。だけど、やっぱり特別な日は七代と二人きりで過ごしたくもある。
 せっかくの両想い。長い時間をかけてそれを確かめたいから。



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 七代から居場所を聞いた燈治は、ドッグタグへ向かった。マスターの元で受ける依頼を決め、それから洞へ探索に行く手はずになっている。
 しかし今日は、ドッグタグの入り口に仁王立ちしている少女が燈治の行く手を阻んだ。扉の前を陣取り、腕を組んだ少女――輪は、燈治を見つけるなり不機嫌を露わにする。
「……んだよ、日向。そこにいたら中に入れねえだろ」
「当たり前だっ! 入れないようにしてるんだからなっ!」
「……はあ?」
 輪が取る行動の意味が分からない。燈治は七代と共に行動している時間が多いせいか、自然にドッグタグの常連客になっていた。しかしそれまで輪が今回の行動を取ったことはなかった。
「どういう意味だよ、そりゃ」
「絢人と、あの眼鏡から聞いたんだからなっ」
 意図を聞く燈治を敵意剥き出しで睨み、輪はまくし立てた。
「お前、千馗サンを苛めてるんだろ! たまには千馗サンが痛がるようなこと、無理矢理させてって言うじゃないか! そんなこと、ボクの殿候補にさせるなんて絶対許さないからなっ!」
「あいつら……」
 子供相手に何を吹き込んでいるんだ。燈治はドッグタグにいるだろう情報屋二人に呆れる。
「否定しないってことは……やっぱり本当なんだな!」
 黙る燈治に、輪はますます疑いを深めてしまった。組んでいた腕を解き、燈治へ指を突きつける。眼の色が、直情的な怒りを映して燃えていた。
「覚悟しろ! 今このボクがお前に引導をたたきつけてやる!」
「あー、もう違う! 俺は千馗を苛めたりなんてしてねえよ!」
 どうして七代を傷つけなければならない。燈治としてはその逆でいつだって彼を護りたいと思っている。
「だいたい、それが本当だって千馗に聞いて確かめたのかよ。もう中にいるんだろ」
 燈治は輪に尋ねた。輪が入り口で燈治の前に立ちふさがっているのは、七代がいる中へと通さないためだろう。
「そ、それは……」
「返事に困るってことは、聞いてないんだろ」
 言葉に詰まってしまった輪に、燈治は言った。
「……ってことは、香ノ巣や鹿島の情報を鵜呑みにしてそのまま突っ走ったってところか」
「ううう、うるさいっ!」
 図星を突かれた輪の顔が真っ赤になる。自棄になったように「絢人の情報は確かなんだぞ!」と喚いて胸元のブレザーへ手を伸ばした。
「だから、間違ってなんかないんだ!」
 内ポケットから手製の火薬玉を取り出し息巻く輪を「あのな、日向」と燈治がやや温度の冷めた声で言う。
「確かに香ノ巣や鹿島の情報網は凄いと俺も思う。けどな、その与えられた情報を鵜呑みにするのはよくねえと思うぜ」
 今もなお解決の兆しが見えない呪言花札の件に、燈治はいつも出てくる情報に振り回されていた。聞くもの見るもの、その全てが馴染みがないもので、時には挫けそうになった。だけど、七代がいたからこそ自分なりに考え、自分なりの答えを見つけられたと、燈治は思っている。
 学んだのは、情報をただ盲目に信じるのではなく、きちんと探り、真実を見つけること。それが今の輪には欠けているように思える。
「もし、千馗の口から香ノ巣たちの言っていることが聞けたら俺もちゃんと認めて謝るさ。けどな、それもないのにただ責めるのは筋じゃねえだろ」
「……お前」
「――輪、早く戻らないとせっかくのフレンチトーストが冷め……って壇?」
 輪の後ろで扉が開き、騒ぎの原因が顔を出した。一足触発の空気でにらみ合う、剣呑な雰囲気に「……えっと」と困った表情で輪と燈治を交互に見やる。
「もしかしておれ、邪魔しました?」
「いや、助かった」
「ならいいですけど……」
 七代は心配そうにその場から動かない輪の肩に手をおいた。
「輪、外は寒いですし中に入りましょう。何があったか知らないですけど、ビックリしたんですよ。いきなり外へ飛び出していっちゃうから」
「――コイツとだなんて、絶対嫌だっ!」
 輪は七代の手を振り払い、燈治に向かって思いっきり舌を出した。そして何処へと走り去ってしまう。
「あっ」と止める声を掛ける間もなく、姿が見えなくなった輪に、七代は困惑しきった表情を燈治に向ける。
「何があったんです? ……もしかして苛めてたりとかしてないでしょうね」
「違うっての……」
 輪に続き、七代にまで疑いの眼で見られ、燈治はうんざりした。今日は厄日かと呪いたくなる。
「ったく本当騒がしい毎日だよな……」
 後ろ頭を掻きながら、燈治はため息を吐く。面倒なことになりそうな事態に、どうしようかと燈治は自分なりに考え始めた。



続きます


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 洞を出ると、外はすっかり暗くなっていた。気温も下がり、吐く息が、仄かに白い形に濁りすぐ溶けて消えていく。
「――――へ……くしっ!」
 いくら常に体温が高くとも、急激な気温の変化にはついていけなかったらしい。先頭を歩いていた七代が突然立ち止まってくしゃみをし、大きく震え上がった。
「七代君、大丈夫?」
 心配する弥紀を笑って振り向き「あっ、これぐらい平気で……」と言いかけるが、言葉は途中で途切れ、またもやくしゃみへと変わる。
 七代は強く鼻を啜り「……です!」と取り繕う。しかしくしゃみをするところを、ばっちり見ていた燈治と弥紀からすれば、説得力は皆無だ。
 七代は、冬場でもカッターシャツにベストと薄手の出で立ちだ。平気だと言われてそうですか、と納得するほうが難しい。
 案の定、弥紀が眉を寄せた。
「しっかり暖かくしないと駄目だよ。七代君、この前も風邪引いたんだから」
「全くだぜ。せっかく治ったってのに、またぶり返したらどうするんだよ」
 ここぞとばかりに燈治も追随する。いつも寒々強い格好をしている七代にはいい加減、きちんと服を着込んでもらいたい。
 二人に口を揃えて言われ旗色が悪くなった七代は「う……」と黙り込んだ。
「で、でも……お金が」
「もったいねえとかそう言う問題じゃねえだろ。それで風邪引いてみろ。薬とか病院とかそっちので金がかかってばっかりになるぞ。逆に無駄遣いになるじゃねえか」
「…………うう」
「それに、風邪引いたらみんな心配するよ」
「…………」
 心情に訴えるような二人の言葉は効果抜群で、七代はうなだれる。
「わ、わかりました。今度の休みにちゃんと服買っておきます……」
 上がった白旗に「うん、それがいいよ」と弥紀が嬉しそうに笑った。
 渋々納得した様子の七代を、燈治は見て、千馗の場合、服一つでも骨が折れる、と息をついた。こう言うとき、弥紀の存在はとてもありがたい。俺一人だったら、もっと苦労していただろう。
 いつかは、俺一人でもきちんと説得できるようになりたいけどな。こっそり燈治が決意を固めていると、冷たい風が三人の間を通り抜けた。
「さ、寒いね……」
 手を口元にやり、弥紀が息を吐く。
「みんな風邪を引かないように、早く帰ろう」
「……だな」
「じゃあここでお開きにしますか。気をつけてかえってくださいね」
「うん、じゃあね二人とも。また明日」
 小さく手を振り、弥紀が一足早く街の雑踏へ消えていく。それを見送り「じゃあ、おれもこの辺で……」と別れを告げかけた七代の手首を、燈治は掴んだ。
「ちょっと待て」
「……はい?」
 首を傾げる七代の手首を握ったまま、燈治は空いた手でポケットを探った。
「どっかの自販で温かいもんでも買えよ」
 無理矢理上に向けた七代の掌に、ジュース一本分の小銭を燈治は乗せた。
「え……でも」
「いいから、人の好意は受けとれっての」
「……はい」
 渡された小銭を握りしめ「じゃあ」と七代はもう片方の手で自身の手首を掴んでいた燈治のそれを握り返す。
「壇も一緒に飲みましょうよ」
「はあ? 俺が飲んだらお前の分が減るだろうが」
 そもそも七代のために渡したのに、どうしてこっちも飲むことになるんだ。
「だって、その分壇といられるし……」
 それに、と伺うような視線を七代は燈治に向ける。
「服買いに行くのいつにするか決めないと」
「千馗、お前……俺を付き合わせようとしてんのか?」
「……だめ、ですか?」
 七代が燈治の気が乗らないような口調に、顔を曇らせた。
 燈治はすかさず「馬鹿だな」と七代の頭を小突く。
「付き合うに決まってんだろ」
「……はい」
 曇っていた表情が和らぎ、七代は燈治の手を握りなおした。
「じゃ、じゃあ、どこか暖かいところに移動して時間決めましょう。服をどこで買うか決めないと行けませんし」
 ぐいぐい引っ張られる力に抗わず、燈治は歩き出す。少し強めに手を握る七代を、燈治は常にない柔らかな眼で見ていた。


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 うちの生徒会もまだまだだわ。
 巴は目の前の光景を、腰に手を当てて見下ろし溜息を吐いた。重く不満を滲ませるそれに、後ろでそわそわとしている生徒会役員である男子生徒が小さく息を飲む。
 年末に引き継ぎを済ませ、生徒会長を引退した巴だが、何故か年が明けて三学期が始まってからも、こうして助けをも止められてしまう。これぐらいのこと、自分たちで対処しなさい、と咎めても「俺たちには出来ません」と言い張られていまい、いつもこちらが折れる羽目になってしまう。
「仲がいいね」
 巴の横で同じ光景を見ている弥紀が小さく微笑んだ。
「弥紀……、笑い事じゃないのよ」
 巴は再び溜息を吐いた。加えて頭痛までしてくる。午後からの授業で小テストがあるのに、これでは実力が奮えないではないか。
 しかし弥紀はのんびりした口調で「でも、とっても気持ちよさそうだよ」と言った。
「何だか、子犬が身を寄せあって寝ているみたい」
「……本当にそうだったらいいんだけど」
 巴は目の前でのんきに寝ている男二人を見た。
 七代と燈治が、複数に見られているとも知らず、ぐっすり寝ている。ぴったりと身体をくっつけあい、燈治の腕を七代が枕代わりにして。
 二人ともとても幸せそうに寝息を立てている。
 これを発見したのは後ろで右往左往している生徒会役員だった。起こそうにも、相手は学園で注目の的になっている男二人。加えて燈治は七代の邪魔をする存在は誰であろうが、睨みつけて威嚇する。凶暴な獣のような目に射竦められてしまうだろう恐怖に腰が引け、こうして巴に連絡してしまった。
「全く……あたしはもう生徒会引退したのに……、この馬鹿二人のせいで」
 忌々しく二人を見下ろす巴に「でも頼ってもらえるのって、信頼されている証拠なんじゃないかな。巴はすごく立派に生徒会長を務めあげたんだから」と弥紀が言った。
「もうすぐ卒業だし、もうちょっとしっかりしてほしいわね。……でも、コイツ等相手じゃ仕方ない、か」
 七代も燈治も一筋縄じゃ行かない人物だ。自分でさえ時たま言いくるめられるのに、二人が寝ているだけの状態でおろおろするようでは、まず戦う前から負けてしまうだろう。
 巴は制服のポケットから紐のついた呼び子を取り出した。
「弥紀。……そこのアンタも耳を塞いでなさい」
 指示を出し、耳を塞ぐ弥紀たちを確認した巴は、大きく息を吸い、呼び子を口にくわえる。そして廊下の端までけたたましく鳴り響く笛の音に、寝ていた二人の驚く声が重なった。


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 燈治が教室を出ると同時に「あの……穂坂」と七代が声を潜め、隣の席から少し身を乗り出した。まるで他に聞かれたくないような姿に、終わった授業の教科書をしまっていた弥紀は小首を傾げる。
「どうしたの?」
「え、えっと……ちょっと聞きたいことがありまして……」
「うん、いいよ」
 弥紀はにっこり笑ってうなずき、身体ごと七代の方を向いた。彼の役に立てるのは弥紀にとってとても嬉しいことだ。
 快諾する弥紀に、七代の顔つきが安堵したものへと変わる。そして七代もまた弥紀の方を向いて座り直し、膝の上の手をぎゅっと握った。
「ええと……、あの、ですね」
「うん」
「穂坂は……よく会長と遊んだりとかも、するんですよね」
「うん。お買い物に行ったり、巴の家に遊びに行ったりもしてるよ」
 唯一無二の親友である巴とは、休日でも一緒に行動している時が多い。巴と一緒だと、何もかもが楽しく、とても心が満たされている気持ちになれる。
「そうなんですか……。それで、どんな風に約束を取り付けてたりとかしてるんです?」
「えっ、うーん、どうなんだろう。巴と話してたら自然とどこかに行こうって話になるから、約束を取り付ける、とかそういうのはないかな」
「そ、そうなんですか……」
 七代は口元に手をやり、難しい顔をして考え込んでしまった。眉間に寄ってしまった皺を見つけ、弥紀はどうしたんだろう、と七代を見つめた。何かわたし、変なことを言っちゃったかな。
「えっと、それじゃあですね」と七代が思い切ったように顔を上げ、口火を切った。
「何か自然な誘いかたってありますかね。穂坂と会長みたいな感じになれるような」
「……もしかして、千馗。壇君を何かに誘いたいの?」
 ふと思いついた推測を口にした弥紀に「うっ」と七代が身体を後ろに引いた。あからさまな反応に「やっぱりそうなんだね」と弥紀は確信する。
 自分の考えを看破され、肩を落とした七代は「そんな、大したことじゃないんですよ……」と呟いた。
「何かおもしろいことがあるわけでもないですし、ただ単におれが休みの時も一緒にいたいなって思うだけで。でもそれじゃあ、わがままにつきあわせて申し訳ないですし……」
「だから、いい誘いかたがないかってことなんだね」
「……はい」
 観念したように頷く七代に、弥紀は「大丈夫だよ」と笑って励ました。
「え?」
 きょとんとする七代に「何の用事がなくたって、誰かに会いたいって言うの、わたしにもすごく分かるかな」と弥紀は言った。それに用事がなきゃ会えないだなんてことはなだろう。
「壇君だって、千馗と一緒に過ごしたいって思ってるよ。だから何も考えないで一緒にいたいって言えば大丈夫!」
「そ、そうですかね……?」
「うん!」
 弥紀は自信を持って答えた。燈治が七代を特別に思っているのは、こちらから見ても明白だ。だから七代に誘われたりしたら、何よりも彼といることを優先するだろう。
「じゃ、じゃあちょっと誘ってこようかな……」
 弥紀に背中を押されて勇気が出たらしい。七代が席を立った。
 にっこり笑い「行ってらっしゃい」と弥紀は手を振って送り出す。
「頑張ってね」
「はい!」
 意気込み急ぎ足で七代は教室を出る。その時にちらりと見えた横顔は、とても緊張していた。
 かわいい、と思いながら弥紀は次の授業の準備を始める。きっと次に千馗が戻ってきた時の顔は、嬉しさに輝く笑顔だろうな、と確信しながら。


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