小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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何も考えずに歩いていた。いや、無意識に考えないようしていたのかもしれない。廊下に響く足音だけが、優輝の耳に届く。やけに急いで歩いている、と今はそれを認識するだけで精一杯だった。
「――っ」
司令室と居住区を繋ぐ階段に足をかけたところで、後ろから腕を引かれた。強い力に身体は容易く引き留めた人物の胸へ閉じこめられる。
驚き顔を上げた優輝を、純吾が心配そうな眼差しで見つめ返していた。
「大丈夫だよ」
純吾があやすように優しい声で言った。ぼんやりした思考で優輝は、何が大丈夫なんだろう、と思う。
「大丈夫。怖くない。怖くないよ」
「……怖い?」
優輝は純吾の言葉に首を傾げた。
「そんなことない。……離せって」
純吾から離れるべく、彼の身体を押そうとした手が震えていた。気づかないのがおかしいぐらいにみっともなく。
優輝は自分の手のひらを不思議そうにまじまじと見つめ、ようやく自分の気持ちを自覚し始めた。俺は純吾の言うとおり、怖がっていたんだ。
優輝は純吾の身体を押していた手を降ろす。自覚してしまうと、大きな感情の波が押し寄せ、不安が増大した。
「……選ばなきゃいけないのはわかってる」
来襲しつづけるセプテントリオンを退け続け、やがて訪れる終末の時。世界が終わる前に人の意志を束ねて救う為、セプテントリオンを作り出したポラリスに会わなければならない。
優輝は悪魔使いのリーダーとして、人々の行く先を決める決断を迫られていた。
実力主義を唱える大和。
平等を目指すロナウド。
二人もまた、優輝に来てくれるよう誘いをかけている。
しかし優輝はどうするべきかまだ決めあぐねていた。
――だって俺は。
開いていた手のひらをぎゅっと握りしめる。震えている情けなさを隠すように。
「だけど俺は、一週間前まで普通に高校生やってたんだ。それがいきなり世界の命運を決める選択だなんて……荷が重すぎるだろ」
「優輝にはジュンゴがいるよ」
純吾が優輝の背中を柔らかく擦った。
「忘れないで。何があっても、ジュンゴは優輝の味方。だから大丈夫」
「本当に大丈夫だって根拠……ないだろ」
「でも護るのは本当だよ? ジュンゴ、優輝護るよ、……絶対に」
たどたどしくも、純吾は躊躇いなく誓いを口にした。そして頭の天辺に温かい感触が触れる。ほんの僅かな時間だったのに、不思議と優輝の中で不安は薄れていく。
握りしめた力が弱まり、指が解れていった。
キスを落とす25箇所 (01:頭の頂点にそっと)
こんなことをするタマじゃなかった――はずだったんだが。
燈治は自分のしたことを振り返りながら、両手で掴んでいた七代の肩をそっと押し離した。七代はぼおっと燈治を見上げている。瞬きを数回繰り返し、左手で自身の唇にゆっくり触れた。
視線がだんだん俯き「……あ」と頬が朱に染まる。あっという間に赤みは増して、耳や首筋まで広がっていく。
「あ、ああ、あの……今……」
「……悪ぃ」
うろたえる七代に、罪悪感が燈治の胸を刺した。七代の困惑も当然だろう。こっちだってするつもりはなかった。しかし、彼が不意に見せてくれた笑顔が、燈治の自制心をあっけなくぶち壊してしまった。
触れたのはほんの一瞬。だが、心臓は僅かなキスにも過剰に反応して、心拍数をどんどん上げていく。恐らく、七代も。
緊張で身を堅くした七代に、どうするか、と燈治は迷った。さらりと流せる空気ではない。肩を掴む手に、力がこもる。
「……っ」
七代が小さく肩を竦めた。戸惑いがちに燈治を見ようとし、しかしすぐに視線は伏せられて、代わりに伸ばした腕で逞しい胸を押す。
「す、すいません、壇、離してください……。このままじゃ、ちょっと」
「お、おう。悪い」
燈治は慌てて七代から手を離した。行き場のなくなった手を持て余し、仕方なく頭を掻いた。
七代は胸元へ戻した手をぎゅっと握りしめた。未だに視線を合わせてくれない。
そんなに、驚かなくたっていいじゃねえか。いきなりキスしたのは悪かったけどよ。燈治はやるせなくなって、小さくため息をつく。
それが聞こえたのか、七代の肩が縮んだ。
「あ、あの、違うんです。いやじゃ……ないんですよ?」
「じゃあ、なんで、こっち見ないんだ?」
「それは……わからないんですか? 俺の相棒を自負しているのに?」
責める口調に「悪かったな……」と口をとがらせた燈治は横を向いた。生憎人の機微を悟るには少々鈍い。いきなり降ってわいた問いだって、混乱気味の思考では答えを導き出せそうになかった。
「もう、壇は変なところで鈍いんですから……」
今度は七代がため息をついた。長々とこれ見よがしにされて、燈治は「うるせっ。お前だってそうだろうが」と七代を見て言い返す。
「大体お前は自覚ってもんが足りねぇんだよ。誰にでもほいほい優しくしやがって」
「みんな優しいから、優しく返すのは当たり前でしょう」
ようやく七代が燈治を見た。まだ熱は引いてない顔は赤いままだ。
「んなことねーだろ。お前義王見て見ろよ。絶対あれは優しいとかそんなもんじゃねーよ」
七代を虎視眈々と狙っている年下の恋敵を思いだし、燈治は苦い顔をする。
「だから……」と言いかけ、燈治の中に七代へキスをした理由がすとんと落ちてきた。
そうだ。七代は誰にでも優しく接するから。だから見ているこっちは、七代に惚れる奴が増えるんじゃないかと気が気じゃなくなってしまうんだ。ただでさえ、手強い奴がいるのに。これ以上ライバルが増えたらたまったもんじゃない。
心の狭さを認識し、燈治は自分の必死さに呆れた。同時にそこまでしても、七代を隣に置いておきたい気持ちを改めて確かめる。一人でいたがったあの頃とは、雲泥の差だ。
燈治は息を吐き出し、所在なかった両手を再び七代へ伸ばす。肩を掴み、そのまま胸元へ七代を引き寄せた。
「だ、壇?」
いきなり抱きしめられ、七代が慌てる。距離をとろうと胸を押す力を、燈治は七代の背中へ腕を回して阻んだ。
「いいから、しばらくこうしてろ」
七代の耳元で燈治は囁く。突然の包容に七代は身を堅くして「もう……強引なんですから」と不服そうだ。
「誰かに見られても、知りませんからね」
「わかってる」
いい加減腹を括らねばならない。名実ともに七代の隣にいるのは俺だと、並みいる強敵たちに思い知らせるには。
まだまだ騒がしい日は続きそうだな。甘い時間を過ごすにもしばらく苦労が続きそうで、燈治はそっとため息を吐いた。
燈治は自分のしたことを振り返りながら、両手で掴んでいた七代の肩をそっと押し離した。七代はぼおっと燈治を見上げている。瞬きを数回繰り返し、左手で自身の唇にゆっくり触れた。
視線がだんだん俯き「……あ」と頬が朱に染まる。あっという間に赤みは増して、耳や首筋まで広がっていく。
「あ、ああ、あの……今……」
「……悪ぃ」
うろたえる七代に、罪悪感が燈治の胸を刺した。七代の困惑も当然だろう。こっちだってするつもりはなかった。しかし、彼が不意に見せてくれた笑顔が、燈治の自制心をあっけなくぶち壊してしまった。
触れたのはほんの一瞬。だが、心臓は僅かなキスにも過剰に反応して、心拍数をどんどん上げていく。恐らく、七代も。
緊張で身を堅くした七代に、どうするか、と燈治は迷った。さらりと流せる空気ではない。肩を掴む手に、力がこもる。
「……っ」
七代が小さく肩を竦めた。戸惑いがちに燈治を見ようとし、しかしすぐに視線は伏せられて、代わりに伸ばした腕で逞しい胸を押す。
「す、すいません、壇、離してください……。このままじゃ、ちょっと」
「お、おう。悪い」
燈治は慌てて七代から手を離した。行き場のなくなった手を持て余し、仕方なく頭を掻いた。
七代は胸元へ戻した手をぎゅっと握りしめた。未だに視線を合わせてくれない。
そんなに、驚かなくたっていいじゃねえか。いきなりキスしたのは悪かったけどよ。燈治はやるせなくなって、小さくため息をつく。
それが聞こえたのか、七代の肩が縮んだ。
「あ、あの、違うんです。いやじゃ……ないんですよ?」
「じゃあ、なんで、こっち見ないんだ?」
「それは……わからないんですか? 俺の相棒を自負しているのに?」
責める口調に「悪かったな……」と口をとがらせた燈治は横を向いた。生憎人の機微を悟るには少々鈍い。いきなり降ってわいた問いだって、混乱気味の思考では答えを導き出せそうになかった。
「もう、壇は変なところで鈍いんですから……」
今度は七代がため息をついた。長々とこれ見よがしにされて、燈治は「うるせっ。お前だってそうだろうが」と七代を見て言い返す。
「大体お前は自覚ってもんが足りねぇんだよ。誰にでもほいほい優しくしやがって」
「みんな優しいから、優しく返すのは当たり前でしょう」
ようやく七代が燈治を見た。まだ熱は引いてない顔は赤いままだ。
「んなことねーだろ。お前義王見て見ろよ。絶対あれは優しいとかそんなもんじゃねーよ」
七代を虎視眈々と狙っている年下の恋敵を思いだし、燈治は苦い顔をする。
「だから……」と言いかけ、燈治の中に七代へキスをした理由がすとんと落ちてきた。
そうだ。七代は誰にでも優しく接するから。だから見ているこっちは、七代に惚れる奴が増えるんじゃないかと気が気じゃなくなってしまうんだ。ただでさえ、手強い奴がいるのに。これ以上ライバルが増えたらたまったもんじゃない。
心の狭さを認識し、燈治は自分の必死さに呆れた。同時にそこまでしても、七代を隣に置いておきたい気持ちを改めて確かめる。一人でいたがったあの頃とは、雲泥の差だ。
燈治は息を吐き出し、所在なかった両手を再び七代へ伸ばす。肩を掴み、そのまま胸元へ七代を引き寄せた。
「だ、壇?」
いきなり抱きしめられ、七代が慌てる。距離をとろうと胸を押す力を、燈治は七代の背中へ腕を回して阻んだ。
「いいから、しばらくこうしてろ」
七代の耳元で燈治は囁く。突然の包容に七代は身を堅くして「もう……強引なんですから」と不服そうだ。
「誰かに見られても、知りませんからね」
「わかってる」
いい加減腹を括らねばならない。名実ともに七代の隣にいるのは俺だと、並みいる強敵たちに思い知らせるには。
まだまだ騒がしい日は続きそうだな。甘い時間を過ごすにもしばらく苦労が続きそうで、燈治はそっとため息を吐いた。
「――うまいか?」
「はい、とっても!」
休日の昼下がり。居間の卓に正座で座り、七代はスプーン片手に、にっこりと頷いた。
今日の昼食はカレーライスだ。それに大きなハンバーグにフレンチドレッシングをかけたグリーンサラダ。どれもおいしくて、あっと言う間に平らげてしまえそう。
七代のはす向かいに胡座をかき、燈治が言った。
「そうか、ならどんどん食べろよ。おかわりもあるからな」
「あの、あの、チャイもまた入れてもらってもいいですか?」
「まだ煎れるのになれてねえから時間がかかるが……」
「ちょっとぐらい待てますよ!」
「わかった。今煎れてるのがなくなったら作ってやる」
「やったぁ!」
満面の笑顔をあふれさせ、七代は一口大に切り分けたハンバーグをカレーに絡めて頬張った。カレーの辛さもちょうどよく、ずっと噛みしめて味わいたい。
燈治さん、ますます料理上手になっちゃって……。
ハンバーグを飲み込み、次はごはんをとスプーンを動かしながら、七代はそっと燈治を横目で見やった。
一緒に暮らし初めてもうすぐ二年。初めはよく燈治は鍋を焦がしていた。
しかしドッグタグのアルバイトをしながら練習してきた成果が出て、今では他の料理店よりよっぽど美味な料理を作り出す。相変わらずカレーを出す頻度は高いけど。
でも、本当前と比べたらすごく上手ですよねえ。相変わらず焦がしてしまう俺とは違って。
「……」
「……千馗?」
暗い表情で食事の手を止めた七代を「どうした?」と燈治が不安そうに尋ねた。
「……いや、どうしてこうなっちゃったのかなって。本当だったら今日は俺が……」
「いや、どうなっても止めてたと思うぜ。お前の手つきは見ててハラハラして危なっかしい」
「でも、燈治さんの誕生日に作ろうと思ってたカレーを、燈治さんが作っちゃ本末転倒じゃないですか!」
そう、本来今日は七代がカレーを作るはずだった。アルバイトに大学生活。時には封札師である七代の手伝いをもする多忙な燈治に少しでも楽をさせてあげたいと、誕生日当日の家事は全ておれがやる、と七代は宣言していた。あわよくば、うまくいったのだからとそれ以降も家事を交代制にしようと持ちかけるための策略でもあった。
疲れてるだろ、と全ての家事を引き受ける燈治を、七代はありがたいと思う。だが、一緒に暮らしてるんなら、助け合いたい。
しかし結果は見ての通りだ。家事に慣れない七代の手つきはやることなすこと全てがおぼつかない。結局見かねた燈治に途中で強制的に変わられてしまった。
「うううう、おれの完璧な計画が……」
唸る七代に、燈治が半分呆れた顔をした。
「いや、どっちにしろお前の計画は実行する前から失敗が見え見えだろ。家事の下手さは俺がよおっく知ってるからな」
自信満々に返されてしまった。不器用なのは自覚しているけど、他から改めて肯定されるとふがいなさが胸に突き刺さる。
「うううう……」
「いい加減あきらめろよ」
ため息混じりにいわれ、むっと七代は「あきらめきれません」と燈治を睨んだ。
「だって、今日は燈治さんの誕生日なんですよ。それはおれにとって一番おめでたい日なんです。だからちょっとぐらいは何かしたっていいじゃないですかあ」
「……千馗」
一瞬目を伏せてから、燈治はスプーンを皿に置いた。駄々っ子のようにむくれる七代を、優しい眼差しで「お前はさ、そう難しいこと考えなくたっていいんだ」と宥める。
「でも、だからって全てまかせっきりは嫌なんですってば」
「俺がしたいからするんだ、って言ってもか?」
「だって燈治さんだって忙しい……」
「……だな。でもこれは俺が望んだことなんだ。お前が封札師を望んだように。だからちょっとぐらい忙しくても構わないし、毎日が充実してる」
「……」
「それに、誕生日プレゼントはもう一生分お前にもらってるんだ。これ以上俺は欲しがったりしねえよ」
「え……?」
一生分のプレゼントなんていつあげたんだろう。いくら記憶を探っても見つからない。
首をひねる七代に、燈治がにっと白い歯を見せて笑った。
「千馗がずっと俺の傍にいてくれるんだろ?」
「……!!」
顔を赤らめる七代に「お前がいてくれるなら、後はもう何もいらねえって」と燈治が付け加えた。
ストレートな言葉に、ますます七代の顔は赤くなった。高校生の時は七代がからかい、燈治が顔を赤くするばかりだったのに、今ではすっかり立場が逆転している。
頬が暑くて、七代はチャイの横に並べていた水の入ったグラスをつかんだ。一気に飲み干し、口を拭う。その間、燈治はにやにやと笑いっぱなしだ。
憮然としながら七代は会話を中断して、食事に集中する。口に運んだカレーはさっきより味がわからなくなってしまった。ぐるんぐるんと燈治の告白が頭の中を回って、味覚が混乱している。
「飯食ったら、あとはゆっくりしようぜ」
楽しそうに燈治が言った。
「マスターからのプレゼントでケーキもらったんだ。上等なコーヒー豆もあるし」
「……で、一生分の誕生日プレゼントであるおれは、今年どうしたらいいんですか」
半ばやけになって七代は言う。
「甘えろよ」
「甘えるって……それは燈治さんがするべきことじゃ」
「いいや、お前が甘えろ。んで、俺が甘やかしてやる」
「それはプレゼントの意味ないですよ!?」
「いいんだって。千馗は甘えたりとかあまりしないだろ。だから言うんじゃねえか。お前を甘やかせろってよ」
「……釈然としない」
これではまるで、燈治ではなく自分の誕生日みたいだ、と七代は思った。
難しい表情をする七代に「いいんだよ、これで」と燈治は笑った。出会った頃と変わってない笑顔に、七代の心は絆される。ずっと燈治の笑顔に弱かった。
「もう、仕方ないですねえ」
そっと息を吐きながら、七代は譲歩した。誕生日に堂々巡りなやりとりほど不毛なものはない。
言い分が通り、燈治が「ありがとな」破顔する。
「来年も、再来年も、ずっと先も頼む」
「……がんばります」
それでも、もう少し家事ができるように努力しよう。最後のカレーを飲み込んで、七代はそっと決意した。
壇、誕生日おめでとう!!
ウェブ拍手でリクいただいたものですー。
遅くなりましたが、どうぞ!そしてリクありがとうございました!!
あっと思ったときには遅かった。
シャドウを倒さんと頭上に振りかぶった刀が、日向の手からすっぽ抜けていく。くるくると回転し落ちた刀は、床を滑って離れた場所で止まる。
「あ……」
呆然と日向が武器を失った両手をまじまじ見つめた。
ってそんなことしてる暇ねえっての。陽介は慌ててジライヤを喚び、日向に襲いかかるシャドウをペルソナの疾風で吹き飛ばした。
吹き飛ばされたシャドウは昏倒してそのまま霧散する。しかしまだ戦いは終わっていない。残ったシャドウが、丸腰の日向に狙いをつけ、向かってくる。
「橿宮! 早く武器拾ってこい!」
陽介は大声で指示を出し、日向に向かって走った。
しかし日向は陽介の声が聞こえないのか、その場から動かない。逃げる素振りも全く見せない様子に、何やってんだ、と焦る。死ぬかもしれねえのに。
「……」
日向が己に向かってくるシャドウをひたりと見据える。人差し指でメガネのフレームを押し上げ、軽く腰を落とした。
「橿宮!?」
何するつもりだ。陽介は嫌な予感がした。それを増長させるように「いっけー橿宮くん!」と右手を大きく振りあげた千枝の発破が響く。
行けってなんだよ、行けって。混乱する陽介を余所に、右足を引いた日向が、走り出した。まっすぐ、シャドウに向かって。
陽介はぎょっとした。ペルソナも発動していない、武器も持っていない。まるで自殺行為じゃないか。無謀すぎる。
縮まる日向とシャドウの間に割って入って止めたいが、距離があるので間に合わない。陽介はそれでも走り、日向に怪我をさせたくない一心で意識を集中させた。ジライヤなら遠くともこちらの攻撃がさっきのように届く。
日向に接近したシャドウが敵意を剥き出しにして、牙をむく。
その瞬間、日向は走る勢いそのままに、床を蹴った。
「――はっ!!」
飛び膝蹴りが、シャドウの胴体に食い込む。空気を振るわせ、痛みに呻いたシャドウがその場に倒れた。
しかし日向の猛攻は続く。床に着地するやいなや、右足を軸にして、ぐるりと回る。遠心力で勢いをつけた回し蹴り。そして軸足を逆にして続けざまにもう一撃。
「――はぁああっ!!」
とどめに裂帛の気合いを込めた声と共に、シャドウの身体をまるでサッカーボールのように蹴りとばしてしまった。
シャドウは遠くまで吹っ飛び、そのまま消えてしまう。同時に陽介の緊張も一気に抜け落ちていった。
脱力して、へなへなと膝を突く。相棒、お前いつから里中になったんだ。
うなだれる陽介を余所に、飛ばされた武器を拾った千枝が「すっげー!」と日向に駆け寄った。
「橿宮くん前よりすごい様になってたよ! やっぱスジあるって!」
「そうかな」と武器を受け取り日向は口元を僅かに緩めた。
「ここまで出来たのも、里中のおかげだから」
「あと長瀬くんのおかげだよね」
「ああ、サッカー部でとことん鍛えてもらったからな。里中にも、お陰で今みたいに武器がなくても何とかなりそうだ。ありがとう」
「へへっ……」
誉められ、嬉しそうに千枝は鼻の下をこすった。
「いつでも里中道場開いたげるから、また特訓しようね!」
「ああ」
「うんうん、橿宮くんならさ、もっと修行したらドーン! ってなるから!!」
「ドーン、か。……じゃあ、がんばる」
がんばるってなにをだよ!?
脱力したまま話を聞いていた陽介は、内心つっこみを入れてしまった。このままでは相棒が里中二号になってしまう。そして、俺への突っ込みがいろいろ厳しくなる。橿宮は涼しい顔してえぐるようにそれをしてくるから。
このままではマズいと思うが、どことなく嬉しそうな日向の顔に邪魔するかどうか陽介は迷い葛藤した。
遅くなりましたが、どうぞ!そしてリクありがとうございました!!
あっと思ったときには遅かった。
シャドウを倒さんと頭上に振りかぶった刀が、日向の手からすっぽ抜けていく。くるくると回転し落ちた刀は、床を滑って離れた場所で止まる。
「あ……」
呆然と日向が武器を失った両手をまじまじ見つめた。
ってそんなことしてる暇ねえっての。陽介は慌ててジライヤを喚び、日向に襲いかかるシャドウをペルソナの疾風で吹き飛ばした。
吹き飛ばされたシャドウは昏倒してそのまま霧散する。しかしまだ戦いは終わっていない。残ったシャドウが、丸腰の日向に狙いをつけ、向かってくる。
「橿宮! 早く武器拾ってこい!」
陽介は大声で指示を出し、日向に向かって走った。
しかし日向は陽介の声が聞こえないのか、その場から動かない。逃げる素振りも全く見せない様子に、何やってんだ、と焦る。死ぬかもしれねえのに。
「……」
日向が己に向かってくるシャドウをひたりと見据える。人差し指でメガネのフレームを押し上げ、軽く腰を落とした。
「橿宮!?」
何するつもりだ。陽介は嫌な予感がした。それを増長させるように「いっけー橿宮くん!」と右手を大きく振りあげた千枝の発破が響く。
行けってなんだよ、行けって。混乱する陽介を余所に、右足を引いた日向が、走り出した。まっすぐ、シャドウに向かって。
陽介はぎょっとした。ペルソナも発動していない、武器も持っていない。まるで自殺行為じゃないか。無謀すぎる。
縮まる日向とシャドウの間に割って入って止めたいが、距離があるので間に合わない。陽介はそれでも走り、日向に怪我をさせたくない一心で意識を集中させた。ジライヤなら遠くともこちらの攻撃がさっきのように届く。
日向に接近したシャドウが敵意を剥き出しにして、牙をむく。
その瞬間、日向は走る勢いそのままに、床を蹴った。
「――はっ!!」
飛び膝蹴りが、シャドウの胴体に食い込む。空気を振るわせ、痛みに呻いたシャドウがその場に倒れた。
しかし日向の猛攻は続く。床に着地するやいなや、右足を軸にして、ぐるりと回る。遠心力で勢いをつけた回し蹴り。そして軸足を逆にして続けざまにもう一撃。
「――はぁああっ!!」
とどめに裂帛の気合いを込めた声と共に、シャドウの身体をまるでサッカーボールのように蹴りとばしてしまった。
シャドウは遠くまで吹っ飛び、そのまま消えてしまう。同時に陽介の緊張も一気に抜け落ちていった。
脱力して、へなへなと膝を突く。相棒、お前いつから里中になったんだ。
うなだれる陽介を余所に、飛ばされた武器を拾った千枝が「すっげー!」と日向に駆け寄った。
「橿宮くん前よりすごい様になってたよ! やっぱスジあるって!」
「そうかな」と武器を受け取り日向は口元を僅かに緩めた。
「ここまで出来たのも、里中のおかげだから」
「あと長瀬くんのおかげだよね」
「ああ、サッカー部でとことん鍛えてもらったからな。里中にも、お陰で今みたいに武器がなくても何とかなりそうだ。ありがとう」
「へへっ……」
誉められ、嬉しそうに千枝は鼻の下をこすった。
「いつでも里中道場開いたげるから、また特訓しようね!」
「ああ」
「うんうん、橿宮くんならさ、もっと修行したらドーン! ってなるから!!」
「ドーン、か。……じゃあ、がんばる」
がんばるってなにをだよ!?
脱力したまま話を聞いていた陽介は、内心つっこみを入れてしまった。このままでは相棒が里中二号になってしまう。そして、俺への突っ込みがいろいろ厳しくなる。橿宮は涼しい顔してえぐるようにそれをしてくるから。
このままではマズいと思うが、どことなく嬉しそうな日向の顔に邪魔するかどうか陽介は迷い葛藤した。
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