小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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公園でぼおっと雉明はベンチに座っていた。うららかな春の陽気を体に受け、桜を眺める。風が吹くたびはらはらと舞い落ちる桃色の花弁がとても綺麗だった。
「ただいま」と公園に雉明を待たせていた七代が駆け足で戻ってきた。両手に、何やら持っている。
「おかえり、七代」
「雉明は辛いの平気ですか?」
唐突に聞かれ、雉明は切れた息を整えている七代をきょとんと見上げる。
「からい……大丈夫だと、思う」
「そうですか。じゃあ、これどうぞ」
そう言って雉明は七代から紙の包みをもらった。両手に収まりそうな大きさで、ほんのり熱い。
「カレーパンなんです。カルさんの試作品で、おれはお得意様だから特別よー、って」
「カレーパンなら、壇に渡すべきではないんだろうか」
雉明はよく学校の屋上で昼食をとっていた燈治の姿を思い浮かべた。彼はとても高い確率で、今雉明が持っているようなカレーパンを食べていた。聞けば、大好物だと快活に笑っていた。だからこれは自分よりも壇にあげるべきなんじゃないかと雉明は考える。
「壇はどうせ後でいやっていうほど食べるんですから、ちょっとぐらい遅れたって構いやしませんよ」
七代は悪戯っ子のようにくすくす笑い「ほら、食べないとさめちゃいますよ」と雉明をせかした。そして自分の手に残っていた包みを開き、出てきたカレーパンを一口かじる。
雉明は七代に倣い、包みを開いて同じように食べてみた。
「……おいしい、な」
少し辛めだが、それが旨みを引き出している。燈治が好むのもよくわかった。
「おいしいですね。これはカルさんにすぐ店でも出してくれるように言わないと」
「ありがとう七代。いつも君はおれによくしてくれる」
「いやだな、お礼だなんて。それによくするのは当たり前じゃないですか」
あっという間にカレーパンを平らげた七代は、にっこりと笑った。
「おれにとって、雉明は大切なんですから」
「大切」
「そう、だから喜んでもらいたいし、どんな些細なことでもいい幸せになってもらいたい。そう思うのは間違いじゃないと思うんです」
「わかる気がする」
雉明も七代に対して同じようなことを思っている。呪言花札の執行者としていらない重荷を背負わせ、辛い目に合わせてしまった。だからこれからは、その辛さなどなくなってしまうほどに幸せであってもらいたいと思う。
「あ、しまった」
残った紙の包みを握りつぶしていた七代が、困ったような声を上げる。
「どうしたんだ七代」
「これぎゅってしたら、袋の油が手についてしまって、ポケットのものが取れないんだ。雉明、悪いけどおれの代わりに取ってくれないか?」
視線で上着のポケットを見つめる。雉明は「わかった」と言われるがままポケットに手を入れる。そうして取り出したのはやっぱり紙の包みだった。しかし今度は綺麗に和紙で包装されている。
「これをどうしたらいい?」
「それは雉明のものですよ」
「……え?」
「今日は雉明の誕生日でしょう? だからプレゼントです」
「おれに……」
雉明はまじまじと七代からの贈り物を見つめた。
七代が満面の笑みで「誕生日おめでとう」と心からの言葉を贈る。
「君はずるいな……七代」
雉明も微笑みそっと贈り物を握りしめた。
「おればっかり幸せにしてくれる。おれだって君を幸せにしたいのに」
「じゃあ、今度のおれの誕生日、雉明のプレゼント期待してますね」
わかった、と雉明はうなずく。
幸せとはこういうことを言うのだなと、胸に宿った温かさを感じる雉明の頬を春風がそっと優しく撫でていった。
雉明誕生日おめでとう!!!
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回帰エンド後です
引っ越しの荷物はそれほど多くはなかった。電化製品はこちらで買うつもりだったし、もし向こうに忘れ物があったとしても宅急便で送ってもらえば済む話だ。
少ないとはいえ、開いた段ボールに置き場所を決めかねている荷物の数々で、部屋は片づいていない。これからゆっくり整頓し、必要なものを揃えていくつもりだ。
新たな住処。作業の手を止めた優輝は、部屋の真ん中に座りぼんやりと辺りを見回した。今日からここが俺の家。まだ見慣れない間取り。窓からは当たり前だけど前とは違う風景が見える。
「――優輝」
引っ越しの手伝いをしていた純吾が、部屋に入ってきた。
「休憩しよう」
「おっ、もしかして純吾が持ってきてくれたのか?」
「うん」
純吾は水筒と紙袋を手に、優輝の前に座った。紙袋からは饅頭が出てくる。
「これなら、手が汚れないよ」
「ありがとな!」
喜んで純吾からの差し入れを受け取り、優輝はさっそく包みを開けて頬張った。程よく口に広がるあんこの甘さに「やっぱ疲れた時には甘いものだよな!」と優輝は満足した表情をする。
「まだあるから食べてね」
言いながら純吾は水筒から冷やした番茶を注いで、優輝に手渡した。甲斐甲斐しく世話をしてくれる純吾に「ありがとう」と優輝は笑う。
「引っ越しの手伝いまでしてくれてさ」
「ジュンゴがしたかったことだから。ジュンゴ、優輝が名古屋に来てくれてすごく嬉しい」
「そっか? ありがとな。がんばって名古屋の大学受かった甲斐があったよ」
優輝は春から名古屋の大学に通う。同時にジプスの民間協力人として、大和の補佐につく予定だ。名古屋からなら、大阪や東京との距離があまりかわらない。
「ジュンゴ、お休みの時優輝にご飯作りに行くよ。茶わん蒸しとか……他にもいっぱい作るよ」
「そりゃ嬉しいな。……じゃあさ、これやるよ」
優輝はデニムのポケットを探り、取り出した鍵を純吾に手渡した。鍵にはデフォルメされた猫のキーホルダーがついている。
「これ、ここの合鍵なんだ。ジュンゴなら信用できるし、俺がいなくてもそれで開けて勝手に入っていいから」
「……いいの?」
「ジュンゴだけだからな」
優輝は悪戯っぽく片目をつむる。渡された合鍵を掌に乗せ、まじまじと見つめていた純吾の顔が喜色満面になった。
「ありがとうございます。ジュンゴうれしい」
純吾はぎゅっと鍵を握りしめた。
「今度たくさんおいしい物作るね。食べたいものあったら、教えて?」
「いいけど……。食べきれないほどに作るなよ?」
釘を刺しつつも、優輝は満更でもないように笑った。
朝目が覚めると、部屋中が美味しそうな匂いで満たされていた。重たい瞼をこすり、のっそり起き上がった優輝は、まず鼻をひくひくさせる。ほのかに甘い卵焼き。かりっかりに焼かれたソーセージ。ちょっと酢飯の匂いもする。
匂いを嗅いでいるだけでも食欲が大いに刺激され、優輝のおなかが、ぐぅ、と音を立てる。
すきっ腹の朝にこれはいけない。口の中で溢れそうになった涎を飲み込み、優輝はたまらず布団から抜け出した。すぐ隣にある台所への扉を開けると、予想通りの人物がそこに立っていた。
「ジュンゴ」
「あ……優輝。おはようございます」
純吾が振り返り、起きたばかりの優輝を見て「まだ眠そうだね」と微笑む。
「うん。でもおいしそうな匂いさせてるからさ。起きちゃった」
優輝は、ガスコンロの前でフライパンを使う純吾の隣に立った。あらびきウインナーが、じゅうじゅうと音を立てている。純吾がフライパンを転がす度、こんがり焼けたいい匂いが広がっていく。
すぐ脇には、きれいに四角くまかれた卵焼きの皿。他にもポテトサラダや、から揚げ。三角のお揚げは、恐らく稲荷を作るためのものだろう。
「これ、朝ごはんか? やけに豪勢だな」
おいしそうだけど、ちょっと胃もたれしそう。そう思いながら、出来上がった料理の数々を指をくわえて見つめる優輝に「ううん」と純吾は首を振った。
「今日すごくいい天気。外では桜も咲いてるよ」
「へえ、名古屋の桜はまだ見たことないからな」
「うん、とてもきれい。だから優輝とお花見したいなって、思って。だから、お弁当」
「そりゃいい!」
優輝は破顔した。天気のいい日に咲き誇った桜の下。純吾の手作りお弁当を頬張りながら見上げる花は最高だろう。
しぶとく居残っていた眠気が、一気に覚めた。優輝は目を輝かせて「顔洗ってくる!」と息巻く。
「準備してくるから、お弁当は任せた!」
「うん、おいしく作るね」
にっこりと純吾が笑う。こっちが寝ている間にがんばってくれていたんだよな。優輝は何だか嬉しくなってきて、踵を浮かせた。優しい恋人の頬に唇を押し当てる。すぐに離れた唇の感触に、純吾は目を丸くしていたが、すぐに笑顔を弾けさせた。
今日はとても楽しい一日になりそうだな。純吾の笑顔を間近で見つめ、優輝も負けじと笑い返した。
何気なく並び立っていた日向を見た時、陽介は気づいてしまった。相棒の横顔を見る自分の目線が、少し上がっている。ほんの数か月前までは、同じ高さだったのに。
「ちょ、おま……」
「――ん?」
戦慄く声に、陽介を見た日向が首を捻る。
陽介は掌を水平にした右手をまず自分の頭上に合わせ、そのまま日向へと移動させた。まっすぐ移動した先には、日向の額。僅かな、しかし明確な差を前に「お前、何で身長伸びてんの?」と後ずさった。
「身長ぐらい伸びるだろ。成長期なんだから。それに個人差だろこういうのって」
「そりゃそうだけど……!」
至極当然の反論をされ、陽介は口ごもる。日向は当たり前のことを言っているが、それでも陽介は相棒と一緒の目線でいたいと思っていた。もし橿宮の身長がまだまだ伸び続けたら、同じものでも違って見えるんじゃ。
そこまで考え、陽介は己の狭量さが情けなくなってきた。身長すらも同じじゃなきゃダメだ、なんて。わがままいってごねる子供でもあるまいし。
陽介は深くため息を吐いて、両手で顔を覆うと、そのまま座り込んでしまった。できることなら、少しの間道端の石みたいに誰にも気づかれないような存在になりたい。時折実感してしまう己の惨めさを、密かに捨て去れたら。
「どうしたんだ、花村」
しゃがみ込んだ陽介を気遣う日向の声が、すぐ近くで聞こえる。背中を擦られ「そんなに俺に背が抜かされたのがショックだったのか……?」とすまなそうに言われてしまった。
違うんだって。悪いのは、俺なの。自分で勝手にショックを受けて、自分で勝手に落ち込んでいるだけだから。だから、お前に慰められる資格もないわけで。それでも陽介は何も言わず、背中を擦ってくれる日向の優しさに触れていたいと思った。
女々しすぎんだろ。陽介はあまりの情けなさに、少し泣きたくなってしまう。
とりあえず、明日から牛乳や小魚をとるようにしよう。そう心に決め、伏せていた顔を上げる。そして日向に「もう大丈夫だ」となるべくいつも通りの表情になるよう、笑って見せた。
部屋で大地がのんびりすごしていると、テーブルにおいていた携帯がなった。発信者の名前は鳥居純吾。携帯を手に取り「珍しい」と大地は驚いた。
純吾は優輝にはよく電話をするが、大地には殆どと言っていいほどない。優輝とは共に行動することも多いから、たまに用事があれば、純吾と通話がつながっている携帯を借りれば済むことで。
直にこっちにかけるなんて、と大地は恐る恐る開いた携帯の通話ボタンを押した。
「も……もしもし?」
「あ? ダイチ? こんにちは」
「はいはいこんにちは~っと。これ、優輝の携帯じゃないけど大丈夫かね?」
とりあえず大地は先回りして尋ねた。万が一、かけ間違いの可能性もあるかもしれない。しかし純吾は「大丈夫だよ。ジュンゴ、ダイチに携帯かけた」と答える。どうやら純吾自身の意志で、大地の携帯にかけたようだ。
「いったいどうしたの、優輝じゃなくて俺に電話って」
「うん……」と携帯の向こうで純吾が恥ずかしそうに話を切り出してきた。無意識に、大地は身構える。
「あのね、ダイチに優輝の食べ物の好き嫌い教えてほしいな」
「へ? そら、いいけどさ……。聞いてどうするの?」
「うん、ジュンゴもっと優輝にジュンゴの作ったもの、食べてもらいたくて……」
通話の向こうで顔を赤らめる純吾が、ありありと思い浮かぶ。好きな人の為に努力する姿はいじらしく大地は請われるまま優輝の好き嫌いを教えた。しっかりとメモに書き留めるペンの音が聞こえる。
覚えている限りを伝え終わると「ありがとうございます」と純吾は礼を言った。
「ジュンゴ、がんばるね」
「おー、がんばれがんばれ」
それじゃあ、と通話が切れ、大地は携帯を閉じた。遠距離恋愛を展開している二人だ。ささやかだが協力してやりたい気概ぐらい大地にもある。純吾もまた、優輝との距離を縮めようと、会う度に優輝へ料理を振る舞っていた。優輝もまた純吾の料理じゃないと物足りないと言っていたし、効果は抜群だろう。
「……ん?」
ふと引っかかるものを感じた。
もしかして優輝の奴、ジュンゴに餌付けされてないか……?
「………………ま、いっか」
実害はないのだから放っておこう。大地は疑問をないものとして放り投げた。世の中には知らないほうが幸せなこともあるのだ。例え、幼なじみがまんまと純吾の張った罠にかかったとしても、だ。恐らくつっこんだら怖い目を見そうな気がする。
再び携帯がなった。今度は優輝からだ。
こっちは遊びのお誘いかなと思いつつ通話にでて、聞こえてくる幼なじみの声に、内心、すまん、と手を合わせて謝罪した。
純吾は優輝にはよく電話をするが、大地には殆どと言っていいほどない。優輝とは共に行動することも多いから、たまに用事があれば、純吾と通話がつながっている携帯を借りれば済むことで。
直にこっちにかけるなんて、と大地は恐る恐る開いた携帯の通話ボタンを押した。
「も……もしもし?」
「あ? ダイチ? こんにちは」
「はいはいこんにちは~っと。これ、優輝の携帯じゃないけど大丈夫かね?」
とりあえず大地は先回りして尋ねた。万が一、かけ間違いの可能性もあるかもしれない。しかし純吾は「大丈夫だよ。ジュンゴ、ダイチに携帯かけた」と答える。どうやら純吾自身の意志で、大地の携帯にかけたようだ。
「いったいどうしたの、優輝じゃなくて俺に電話って」
「うん……」と携帯の向こうで純吾が恥ずかしそうに話を切り出してきた。無意識に、大地は身構える。
「あのね、ダイチに優輝の食べ物の好き嫌い教えてほしいな」
「へ? そら、いいけどさ……。聞いてどうするの?」
「うん、ジュンゴもっと優輝にジュンゴの作ったもの、食べてもらいたくて……」
通話の向こうで顔を赤らめる純吾が、ありありと思い浮かぶ。好きな人の為に努力する姿はいじらしく大地は請われるまま優輝の好き嫌いを教えた。しっかりとメモに書き留めるペンの音が聞こえる。
覚えている限りを伝え終わると「ありがとうございます」と純吾は礼を言った。
「ジュンゴ、がんばるね」
「おー、がんばれがんばれ」
それじゃあ、と通話が切れ、大地は携帯を閉じた。遠距離恋愛を展開している二人だ。ささやかだが協力してやりたい気概ぐらい大地にもある。純吾もまた、優輝との距離を縮めようと、会う度に優輝へ料理を振る舞っていた。優輝もまた純吾の料理じゃないと物足りないと言っていたし、効果は抜群だろう。
「……ん?」
ふと引っかかるものを感じた。
もしかして優輝の奴、ジュンゴに餌付けされてないか……?
「………………ま、いっか」
実害はないのだから放っておこう。大地は疑問をないものとして放り投げた。世の中には知らないほうが幸せなこともあるのだ。例え、幼なじみがまんまと純吾の張った罠にかかったとしても、だ。恐らくつっこんだら怖い目を見そうな気がする。
再び携帯がなった。今度は優輝からだ。
こっちは遊びのお誘いかなと思いつつ通話にでて、聞こえてくる幼なじみの声に、内心、すまん、と手を合わせて謝罪した。
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