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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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 コンビニエンスストアから出た外は、思っていたより寒かった。いくら鍛えていても、夜の空気は冷たく身に堪える。身体を抱いて「寒っ」と声に出した燈治に、駐車場で待っていた七代が振り向いた。
「あ、買い物終わりました?」
「…………千馗」
 近寄ってくる七代の姿に、燈治は呆れざるを得なった。薄手のカッターシャツにベスト。それ以外には上に何も着ておらず、風邪をひいてもおかしくない。
「お前よ、もうちょっと上に何か着ろって」
「大丈夫ですって! これでも病気はしたことないんですよ。いつだって、健康そのものです!」
 七代は両手をぐっと握りしめた。確かに寒がっていないし、やせ我慢している風でもない。
 しかし。
「見ているこっちは寒いんだよ……」
 学ランの前を開けている壇でさえ、冷えた空気に最近はマフラーを巻いている。街でも道行く人は何かしら防寒具を着けていた。しかしその中で一人寒さを凌ぐものもなく、薄着の七代を見ているとこっちが寒くなってくる。
「せめて制服ぐらいちゃんと着ろって」
「ええ~、制服着ると暑いんですもん。今がちょうどいいぐらいなんですから」
「……お前な」
 文句を言う七代に、燈治はげんなりした。薄着極まる格好で尚、暑いと発言する状態が理解に苦しむ。
「ああー、その顔。信じてませんね」
 燈治の表情から的確に考えていることを読み当てた七代が「じゃあ証拠を見せてあげましょう」と突然燈治の手を取る。
「な……?」
「えいっ」
 七代がカッターの端を持ち上げ、燈治の手をそこから中へと突っ込ませた。手のひらが七代の腹部に触れ、燈治は大いに慌てる。
「おいっ、場所を考えろって!」
 ここはコンビニの駐車場だ。すぐ横ではガラス越しに店員や客がいる。あっちから見たら、燈治が外で堂々と七代の服に手を入れている変態だと疑われてしまうだろう。あらぬ誤解を受けたくない一心で、手を引き抜こうと腕に力を入れる。
 しかし壇ほどではないが、七代も腕力はそれなりにある。ぐっと手を掴む力を強め「ほらっ、冷たくないでしょう。寧ろ暖かいでしょう、おれのナカ」と燈治に聞いた。
「だから、そう言う誤解を受けるようなことを――」
「だって壇が信じてくれないのがいけないじゃないですか」
「わかった、わかったよ! 信じるから! 早く手を離せっ!」
 一息でまくし立て、燈治はやっとの思いで七代の服に突っ込んでいた手を引き抜いた。素早く辺りを見回し、こちらに注目する視線がないことに安堵する。
「……千馗、お前なぁ」
「信用しない壇が悪いんですってば」
 睨む燈治に七代は悪びれもしない。軽やかに歩きだし「ほら、早く帰りましょう!」と燈治を振り返った。
「……ったくよ」
 燈治は服の中に突っ込まれた手のひらをじっと見つめた。正直気が急いていて、感触すら分からなかった。人通りがない場所なら少しは状況が変わっていたかもしれないことを七代は理解しているのか。
「……してねえよな」
 はあ、とついたため息が白く濁って消えた。
「だーんー!」
 無邪気に七代が手を大きく振っている。子供っぽい相棒に燈治は苦笑いをして、彼の後を追うように歩きだした。

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 燈治は澁川から受け取ったコーヒーを「お待たせしました」と乱暴に絢人の前へ置いた。とってつけたような敬語。そして睨みつける顔は、とてもじゃないが喫茶店でバイトをしている人間にはあるまじき表情だ。
 しかし絢人は涼しい顔で「ありがとう」とコーヒーを受け取る。余裕たっぷりの反応に燈治は不機嫌を募らせ顔をしかめる。
 凍り付く温度を察し「え、ええと……」と七代は言葉を探しながら燈治と絢人を交互に見た。困ったように両手を首の後ろにやって「えっと……お、おれの注文したカレーはまだでしょうか」と苦し紛れに切り出す。
「お、おなかがぺこぺこで。はやく食べたいなあーって思ってるんですけど?」
「だ、そうだよ、壇。千馗君を待たせてどうするんだい。僕に喧嘩を売る暇があったら、注文をこなすべきじゃないかな。新米バイト君」
「……ってめ」
 燈治のトレイを持つ手が震える。このままじゃまずい。冷や汗をかく七代はどうしようと戸惑う。しかしキッチンから「壇」と澁川が燈治を呼んだ。
 流石に澁川の呼び出しを無視できない燈治は「今行きます」とキッチンへ言い、そして絢人をぎっと睨みつけた。
「あんまり千馗にべたべたさわんなよ。――千馗、この変態に何かされたらすぐ呼べ」
 敵意をむき出しにして絢人を一睨みし、燈治はキッチンへと引っ込んだ。
「……やれやれ。独占欲が強くて千馗君も大変だね」
 絢人は肩を竦めて、運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。
「あ、あはははははははは……。……なんかすいません」
 燈治が絢人に対しつんけんな態度をとる理由の一端を担っている自覚のあった七代は、申し訳なさから小さく頭を下げた。つき合い初めて半年は経つが、未だに燈治は絢人や義王と顔を合わせては相手を牽制している態度を取る。燈治曰く「油断してるとどこでかっさらわれるかわかんねえからな」らしい。七代からすれば無用な心配なので呆れるしかなかった。おれがそんなに揺らぎやすい男だと思っているのか。
「ふふ、僕は構わないよ。これぐらいのことで物怖じしていたら情報屋なんて出来ないからね」
 恐縮して謝る七代に絢人は優しく笑いかけた。飲んでいたコーヒーをテーブルに戻し「それに壇は見ていて飽きないよ」と続ける。
「飽きない……ですか……」
「そう。例えば……」
 絢人がそっと七代の頬へ手を伸ばした。にっこり笑う絢人に、七代の目がきょとんと丸くなった。いったい何をするつもりなんだろう。
 のばされた指の先が七代に触れる寸前、すぐ近くでひゅっと音が耳を掠める。即座に絢人は手を引き、遅れてカレーライスがまたもや乱暴に置かれた。
「ほらね。分かりやすい」
「何がだよ。つーかテメエ千馗にさわんなって言っただろ」
 面白がって笑う絢人を燈治が威嚇するように言った。からかわれていることも知らないで。
「燈治さん……」
 哀れさ半分で燈治を見上げ、七代はしょんぼり肩を落とす。
「君たちは興味深いね」と笑う絢人と何故か落ち込む七代に、当事者だったはずの燈治は、一人状況を把握しそこね首を傾げた。

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 ノックをしても返事がなかったので、燈治は七代の部屋に入った。今日は封札師の仕事も大学もないから家でのんびりしていると言っていたのに。
 燈治の疑問はすぐに解決した。先日買ったばかりの画集を開いたまま、七代は眠りこけていたからだ。こちらのノックに気づかない訳だ。
「……ったく、しょうがねえなあ」
 小さく唇をたわめ、燈治は足音を忍ばせ背を丸めて眠っている七代の傍に座った。余程疲れていたのか、七代は規則正しく寝息を立て、深い眠りについている。
 さてどうするか、と燈治は考える。七代を探していたのは暇ならどこかで外食でもと誘おうとしていただけなので、さしたる問題ではない。日頃封札師と大学生の二足の草鞋をしている七代の眠りを邪魔する気など、燈治には毛頭無かった。だが固いフローリングの床で寝ると、身体を痛めてしまう。
 彼の使う布団は燈治の部屋にある。そこまで横抱きで運んでしまってもいいが、起こしてしまう可能性を考えると少し躊躇した。
 とりあえず開き癖がつかないよう、七代が読んでいた画集を閉じて卓に置いた。ぱたん、と小さな音に反応して七代の睫が震えて持ち上がる。
「……んん?」
「お、悪い。起こしちまったか」
 肘を突いて上体を起こし、七代は眠い目を擦って謝る燈治を見上げた。まだ意識がはっきり覚醒してないらしくぼんやりしている。
「でも寝るんだったらちゃんと布団で寝ろよ。風邪を引いてもしら――」
 七代が燈治の腕を掴んだ。とろんと微睡んだ目を細め、ぐいぐい引っ張る。加減ない力に「お、おい」と燈治は七代の肩を押し返すが、一向に手は離れない。
「千馗」と困る燈治に七代は「とうじさんもいっしょにねよ?」と小首を傾げてねだられた。舌足らずの甘えた声に燈治は返す言葉もなくなる。無意識状態でやっているから、質が悪い。
「ねー、とーじさぁん」
 戸惑う燈治に七代はなおも言った。これは従うまで離してくれそうにない。頭を一つ掻き、やれやれと嘆息する。
「ちょっとだけだぞ?」
 前置きし、燈治は七代と向かい合って横になった。七代は嬉しそうに燈治の胸にすり寄る。そして逞しい腕を枕にして、再び瞼を閉じた。
「ったく……最初からそのつもりだったな」
 燈治は苦笑した。あっと言う間に寝てしまった七代の髪の毛をもう片方の手で撫で、そのまま背中へ回す。
 まあ、悪い気はしねえけどな。呟き、鼻先を七代の頭に寄せた燈治も目を閉じた。
 七代の体温は心地よく、すぐ眠りに引き込まれる。
 二人分の寝息が混じりあって、室内の空気に溶けて消えていった。

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 シャワーを浴びた燈治は台所の冷蔵庫から取り出したペットボトル二本を手に、自室へ戻った。まだ正午を回ったばかりで日は高いが、カーテンが閉められた室内は薄暗い。床には脱ぎ散らかされた二人分の服。僅かに漂う青臭い匂いが情事の後を物語っていた。
 後で換気しておかなきゃな、と思いながら燈治はベッドの縁に腰を下ろす。
「――千馗」
 毛布にくるまっている恋人の名前を呼んだ。すると、んん、と眠そうな声がして、もぞりと頭が動く。眠そうな眼が燈治を映した。
「飲みもん持ってきた。汗かいてるし飲んどけよ」
「……ん」
「どっち飲むんだ?」と燈治はお茶とスポーツドリンクのラベルが見えるように持っていたペットボトルを七代に差し出す。七代は腕を伸ばしてお茶のペットボトルを取った。肘を突いて上体を起こす七代の肩から、毛布が滑り落ちる。露わになった肌。首筋はもちろん、腕や胸――臍の近くやその下にも赤い鬱血の痕が刻まれていた。その全部を俺がつけたんだよな、と思うと燈治は気恥ずかしくなる。
 ペットボトルを開ける振りをして目を反らした。これ以上見ていたら、せっかくシャワーで流した汗をまた掻く羽目になりそうだ。
 後ろで七代がペットボトルに口をつけた。余程喉が渇いていたのか、あっと言う間に中身は半分以上減っていった。ふぅ、と一息つき「ありがとうございます」と燈治に礼を言った。さっきまでさんざん喘がせていたせいか、潤った喉でも少し声が掠れている。
「身体……平気か?」
 口に含んでいたスポーツドリンクを飲み、肩越しに七代を見て燈治が尋ねた。改めて見ても、七代の身体は所有欲独占欲まるだしの印がたくさん刻まれている。加減しなければと思いながら、途中で歯止めが利かなくなって。どれだけがっついてんだと燈治は自身の余裕なさを嘲る。
「あ……だ、大丈夫、ですよ」
 調子を訊かれ自分の身体を見遣った七代は、頬をさっと朱に染めて答えた。
「ちょっとだけその痛いところも、ありますけど。全然平気ですし」
「そ、そうか。でももうちょっと寝とけよ。どうせ今日は……泊まるんだし、よ」
「そう、です、ね。そうします」
 ありがとう、と空になったペットボトルを燈治に手渡し、七代は横になった。毛布をごそごそと肩まで引き上げ、じっと燈治を見上げる。何か聞きたそうな目つきに「どうした?」と燈治は七代の方へ座りなおして尋ねた。
「えっと、……あの」と七代はもじもじと視線をさまよわせ、やや躊躇いがちに言った。
「おれ、どうでした?」
「は?」
「その……おれ結構がりがりですし、抱き心地よくないだろうし……気持ちよかったのかなーって……」
 どうやらセックスの相手としてどうだったか、感想を求められているようだった。
 燈治はがりと頭を掻いて嘆息する。まさかそう聞かれるとは思ってなかった。ついさっきまでさんざん喘がせて揺さぶって――それでも心配になるなんて。
 返ってきた反応を、否定的に捉えた七代の顔色がさっと曇る。だから燈治は手っとり早く分かりやすい方法を取った。
 七代がもぐっている毛布を掴み、捲り上げる。露わになった痩身に刻まれた赤い痕の一つを指で押し「もうちょっとつけときゃよかったか?」と言った。肘を突き、七代の胸元へ唇を寄せ肌に吸いつく。微かな痛みと共に新たな痕を刻む。んっ、と震える七代に、また腹の奥底から引きかけていた熱が、あっと言う間に温度を上げて身体に回る。
 ベッドに乗り上げ、燈治は七代に覆い被さった。また汗を掻いてもシャワーで流せしまえば済む問題だ。今はこの鈍い恋人にこっちがどれだけ溺れているか、示す必要がある。
「どうせ泊まるんだし、いっそ枯れるまでヤるか?」
 見下ろされ瞬きをする七代に「そうなってもいいぐらいお前とヤりたいんだよ」と少し早口で言う。言葉にするのは恥ずかしかったが、それでも七代が「……そうですか」と笑ってくれたので良しとしよう。
 七代が燈治に向けて腕を伸ばした。燈治は彼の肌に触れ、お前じゃなきゃ駄目だと言わんばかりに再びその身体に溺れる。
 しばらく戻れそうにないな。口の端でくっと笑い、燈治は次に痕を刻む場所を探した。


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 今日は一人で探索しようと決め準備を終えた七代は、羽鳥家の自室を出た。ナップサックを片肩に担ぎ、「洞に行ってきますね」と台所の清司郎に声をかける。清司郎は振り向きもせず「夕飯までには帰ってこい」と素っ気なさを含んだ声で七代を送り出した。
 鳥居を潜ったところで七代は携帯を開いて仲間を呼ぶ。しかし携帯は制服のポケットにしまったまま、今日は使うつもりもない。
 皆が頼りないわけではない。ただ本来封札師は単独での任務を遂行していく。呪言花札の件が片づいても、これから七代には様々な任務が命じられるだろう。その時一人では何もできないと言う無様を犯したくない。もっと強くなって皆を守りたい気持ちも含まれている。
 今日の目的地は春の洞だ。その前にドッグタグへ寄って、依頼を受けよう。予定を組み立て歩く足が、ある姿を往来で見つけ立ち止まった。
 向こうも七代を見つけたらしく。軽く「よぉ」と手を挙げて歩いてきた。
「……壇」
「よ、奇遇だな。こんな所で会うなんてよ」
「そう、ですね……」
 タイミングが悪い。七代は己の不運を嘆いた。よりにもよって一番やっかいな相手に見つかってしまった。
 歯切れの悪さに「どうした?」と燈治が尋ねた。
「なんか、マズいって顔してるな」
「べ、別にそんなことないですよ」
 笑顔を繕ってごまかす。この場をどうにかしのいで、燈治に悟られないようにしないと。
 しかしタイミングの悪さがここに来て重なった。七代が背負うサックを目敏く見つけ「もしかして……これから洞に行くつもりか?」と燈治が眉を潜める。
 マズい。燈治のことだから、探索に向かうと知れたら絶対に着いていくと言い出すだろう。
「違いますって!」
 七代は焦りから強い口調で首を振った。それがさらに疑いを持たれるとは知らず。
「そうやってムキになるってことは行くんだな」
 確信した燈治は「ったく嘘がつけない奴だよ、お前は」と片手を腰に添え、苦笑いした。あっさりとごまかしが失敗し、七代は「別に一人でも大丈夫ですから」と拗ねて燈治から顔を背ける。
「へぇ、この前落とし穴に落ちかけたのにか? ああ、依頼の達成方法がわからなくて右往左往してたりもしてたな」
「だーかーら、それも華麗にバッチリ解決! しちゃうんですし!」
「……ふーん、言ったな」
 左手で一度顎をさすって「じゃあ俺がついてって、それが本当かどうか見届けてやるよ」と口角をあげて笑った。
「よーし、ばっちり証明しちゃうんですか……ら…………って、あ」
 しまった。七代は己の失敗を悟った。売り言葉に買い言葉で結局燈治の同行を許す形になってしまった。
「しまったぁあああ!!」
 丸め込まれてしまい頭を抱える七代に、燈治は勝者の余裕を持ってその肩を叩く。
「じゃ、決まったとこで行くか。――つれてけよ」
 口調の軽さと反し、肩に乗せた手は七代を逃さないように力が込められていた。

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