小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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校舎の壁に沿って校庭を歩いていた燈治の真上から「だーんっ!」と声が聞こえた。反射的に空を仰ぐと、二階の窓から身を乗り出して七代が手を振っている。かと思えば、突然窓の桟に足を乗せた。
「おまっ」
慌てる燈治に七代は笑い「抱き止めてくださいね! ――そりゃ」と宙に身体を踊らせ、飛び降りる。
「――っ!」
落ちてくる身体を燈治は伸ばした両腕で受け止めた。ずん、とのし掛かる重みを膝を曲げて衝撃を和らげ、負担なく受け入れる。
「ふふふ、壇ならやってくれると信じてましたよ」
横抱きの格好で七代は笑い、燈治の首に腕を回す。首筋にもたれ胸にすり寄る頭に、燈治は無言で七代を降ろした。身体が離れ、不思議そうに首を傾げる七代の頭へ固めた拳を振り降ろす。
ごん、と鈍い音がして「あたっ」と七代は頭を押さえ、後ろへ一歩よろめいた。
「な、何するんですか」
「いきなり飛び出してきて危ねえだろ! 受け止められなかったらどうするつもりだったんだ」
二階でも十分な高さだ。下手をすれば骨折だってあり得る。
「お前一人の身体じゃないんだしよ……。怪我したら心配する奴が大勢いるんだ。そこらへん、もうちょっと自覚してくれ」
「……ごめんなさい」
軽率だった行動に、七代は肩を落として謝った。しょげている表情に「わかればそれでいいんだ」と燈治は柔らかく笑う。さっき頭を叩いたばかりの拳を緩め、今度は優しく七代の額を小突く。
「行こうぜ。今日は花園神社の洞だろ」
言いながら歩き出す燈治を「あっ、待ってくださいって!」と七代が追いかける。急ぐ足音を聞きながら、全くこいつといると忙しくってしょうがねえ、と思う燈治の口元はそれを楽しむように笑っていた。
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下校時刻になり、帰ろうとした七代のズボンから軽快な音楽が流れた。「あ」と七代がズボンのポケットに手を突っ込み、携帯電話を取り出す。
「どうした?」
後ろの席で帰り支度を済ませた燈治が尋ねると七代は「義王からメールきました」と着信主の名前を告げた。
「鬼丸だぁ?」
出てきた名前に燈治は顔を露骨にしかめた。あまり歓迎したくない存在だ。
鬼印盗賊団の頭である鬼丸義王は呪言花札を巡り、七代と幾度も対峙してきた。だが紆余曲折の後に和解し、仲間になったまではいい。しかし義王はやけに七代と行動を共に取りたがり、彼に対する執着を見せ始めている。
恐らくはこっちと同じ想いを七代に抱いているのだろう。一度七代の隣を陣取った時、勝ち誇りしたり顔をした義王は、見ていて燈治の神経を逆撫でした。いつだって七代の隣に立っているのは自分でありたいのに。
「で、何だって?」
机から身を乗り出し、苛立ちも隠さず燈治は尋ねる。眉根を寄せながら七代はメールを読み進め「……今から寇聖に来い、だそうです」とため息混じりに答えた。
こちらの都合も考えない身勝手さに、燈治は腹を立てる。
「今から来いだぁ? 勝手なこと言いやがって」
「どうしましょう……」
「断れ」
戸惑う七代に、燈治は言い切った。どうせまた七代を独占したいが故のわがままだ。そんなものに七代がつきあう筋も道理もない。
「だけど断ったらまた御霧の眼鏡が壊されるんですけど……」
「そんなのいつものことだろ。いいからほっとけ」
「ほっとく訳にはいきません!」
すげない言い方に、七代がむっとして燈治を振り返った。
「眼鏡だってただじゃないんですよ。高いんですよ。どんどん壊されたら御霧だってたまったもんじゃないですか。近眼だって強いのに……。決めました」
開きっぱなしだった携帯を操作して、七代はメールの返信を書き出す。
「おれ、義王のところにいきます」
「おい」
それじゃ奴の思うつぼだ。燈治は反論しかけ、ぎっと七代に睨まれてしまった。
「勘違いしないでください。今回は義王にお説教しにいくんですから。ものは大事にしないといけないってちゃんと言い聞かせないとクセになっちゃいますから」
「……わかったよ」
七代は一度こうと決めたら考えを曲げない。これは無理に行かせまいとすると余計に怒らせてしまう。燈治は仕方なく引いた。
「だけど、俺も一緒についていくからな」
みすみす七代を狙っている奴の元へ一人で行かせてたまるか。面倒くさいことはとっとと終わらせるに限る。
「よっし、そうと決まればとっとと行くか」と七代の返事も聞かず、彼の背中を叩いて行動を促した。
花園神社にある春の洞へ向かう途中、燈治と七代はコンビニに寄っていた。洞の探索は隠人との戦闘もあるので、思いの外空腹になってしまう。大量に食料を買って、多すぎたと思っても余ることは皆無だった。
目についた総菜パンを持っていたカゴに入れていく燈治は、ふと菓子が陳列されている棚を見た。
しゃがんだ七代が、顎に手をやり買うものを品定めしている。視線の先にあるのは菓子類でも特に安い駄菓子。
またか、と燈治は首の後ろへ手をやった。
七代は節約だと言い、最低限必要なものしか買わない。少ししか着ないしもったいないからと学ランも買わず、こうして食べるものすらぎりぎりまで出す金額を削る。結果、七代の口に入るのは駄菓子が主だ。それでは腹もすぐに減るし、栄養だって偏る。
目の前で倒れられたら、と思うと気が気じゃないときだってある。常日頃から心配している燈治はつい、空腹のあまり倒れる七代を想像し、心臓が鷲掴みされるような痛みを感じた。
首にやっていた手で後頭部を掻き、燈治は七代に近寄った。おい、と悩み続ける七代の二の腕を掴み、引っ張り上げる。
「……壇?」
きょとんとする七代をそのまま冷蔵ケースまで連れていった。サンドイッチやおにぎり、弁当が並べられている棚を指し「好きなの選べよ」と言った。
「何でです?」
「お前いつも駄菓子ばかりだろ。奢ってやるからたまにはこういうのも食えよ」
「駄目ですよ」と七代が慌てて首を大きく振った。
「それじゃ壇のお金がもったいないです」
「俺のことは気にすんなよ。それよりお前はもっと食うべきだ」
カッターシャツの袖から覗く手首は、男にしては華奢な印象を燈治に持たせる。七代が弱いだなんて、露とも思わない。だがやはり痩せ気味の身体は見ていて不安になる。
「ええー……、でも……」
七代が遠慮するつもりなら、こっちは遠慮しない。躊躇する七代に「選ばないんなら全部買うぞ」と片っ端から燈治は商品をカゴへ入れていく。
「ちょ、ちょっと壇!?」
「言ったろ。お前はもうちょっと食べるべきだってよ」
「だからってそんな無茶は……! ああ、もうわかりましたよ!」
このままでは余計に燈治の財布が痛手を負うと察したらしく、七代が折れた。燈治の手からカゴを奪い「選びますから無茶はやめてください!」と入れられた商品を元の場所へ戻していく。
「分かればいいんだ」
多少強引な行動が功を奏し、燈治はご満悦な笑みを浮かべた。
「全く……無茶苦茶なことをして……」
むくれる七代に「お前の為を思って言ってるんだ」と燈治は相棒の頭を軽く叩く。
「ほら、早く選べよ」
これからもきちんと食べさせないとな。妙な使命感を持ち始めた燈治は、渋々商品を選ぶ七代を見てそう思った。
十二月も半ばになると、日差しが出ても寒い。それでも燈治と七代は屋上で昼食をとっていた。例え寒くても、ここなら二人でゆっくり出来る。しかし時に駆け抜けるように風が吹き抜け、身体を撫でる。冷たさから無意識に肩を竦めてしまう燈治の真向かいで、七代が「……へくちっ」とくしゃみをした。
「……千馗。お前ちゃんと服を着ろ」
すっかり温くなった緑茶を飲んでいた燈治は、呆れ気味に言う。七代の学ランを着ずに、カッターシャツにスクールベストで過ごしている。端から見たら風邪を引いても自業自得だと思われかねない。だが当の本人は「おれ平熱高いですからこれぐらい平気ですし」と我が道を進んでいる。しかし寒風でくしゃみをする辺り、全く平気というわけでもないんだろう。
変なところで強情だよな。緑茶の缶を地面に置き「いいからなんか上に羽織るもん持ってこい」と促した。
「今日体育があったしジャージがあったろ」
「別に昼休みの間ぐらい……」
「いいから。昼休み中くしゃみして下らねえ心配させる気か」
「……はーい」
燈治に引く気がないと悟ったようで、七代は渋々頷いた。食べていた総菜パンを一旦袋に戻し「じゃあすぐ戻ってきますから」と素早く身を翻し、校内へ走っていく。
「早く戻って来いよー」
そう言って送り出し、やれやれ、と燈治はため息をつく。
二人の様子を柵の上に座って眺めていた白は「……やれやれはこっちの台詞じゃ」と口元を扇で隠し呟いた。
「風邪を引かれて困るのなら、中へ入るよう促せば済むことじゃろうに。戻れとは言わぬのじゃな……」
惚けおって、と微量に苛立ちの滲む声で言い、白は七代が買ってきた昼食からこっそりくすねた駄菓子にかぶりついた。
雉明は目を覚ました。
「……」
ぼんやりとした意識で、板張りの天井をじっと見つめる。筑紫に与えられたマンションの一室では、どこか冷たさを連想させるそれよりも、随分暖かみを感じられた。
ここは、どこだろう。額を手で押さえ考える雉明の眼が、不意に大きく開かれた。同時に意識の底で蟠っていた眠気も吹き飛んでしまう。
「……千馗」
右肘を突いて上体を起こした雉明は、隣を見た。
並んで敷かれていた布団。雉明の方を向いて、七代が身体を丸め眠っていた。
雉明は信じられない気持ちで、安らかな寝顔を凝視する。布団から抜け出して七代の前へ正座し、彼の口元へ耳をそっと近づける。
規則正しく聞こえる、七代の寝息。
ちゃんと七代は生きている確認がとれた雉明は、ようやく安心した。
昨日、すべてが終わった。
呪言花札は《力》を解放し、以前のような災禍をもたらす存在ではなくなった。そして札の番人である雉明と白もまた、人に近い存在となって戻ってきた。
――七代の元へと。
まるで、夢のような話だ。これまでずっと、主を呪言花札の封印の礎として命を奪い、主を大切に思っていた人たちを悲しませてきたから。
だから、雉明は今ここにいる状況が夢だと思ってしまった。ふとした弾みで目が覚め、また呪言花札を破壊するために一日を生きるのだと。
でもこれは夢じゃない。雉明はそっと布団から出ている七代の手を上から包み込んで握りしめた。
手のひらから伝わる七代の体温は、とても温かい。彼が生きている何よりの証。
夢じゃない。改めて確かめた事実を噛みしめ、雉明は七代の温もりを愛おしく思う。
もう少しこの温もりに触れていたい。七代の手を離しがたくなってしまった雉明は、しばらく手を繋げたままでいた。彼が目を覚まし、驚いた顔をされるまで、ずっと。
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