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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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熟語で100のお題
00 洗脳

※村田捏造注意


 手の上でスプーンを一回転させ、しらすカレーをすくう。口に運べばほどよい辛さが喉元を通り抜けた。
 胡坐をかいた村田の前にあるのは、モニターが数台。かつてと同じように、江ノ島のさまざまな場所を映し出している。天候もよく、暖かな日差しが落ちる仲見世通りでは住人や観光客で賑やかだ。
 他も特に騒ぎが起きている様子はない。平和そのもの。
 ――ぶっちゃけ、ヒマだ。
 カレーを食べながら、村田は周囲を見回す。後ろでは田中が同じように食事をとっていた。彼の巨体に、座っているスツールがやけに小さく見える。その反対側では鈴木、佐藤と顔なじみが揃っている。ただ一人、本部に戻ってしまったかつての上司以外は。
 村田は以前江ノ島で起きたバミューダシンドロームの件を思い出す。そして、上司――アキラのことを。

 後ろから銃を突きつけた時、振り返った上司は信じられないものを見るような目をしていた。これまで宇宙人は警戒すべきだ、敵だ、と声高に言っていたのが嘘みたいにJF1を擁護している姿が滑稽に見えた。これは、宇宙人に洗脳されたものの眼だ。――そう、思っていた。
 だが、それも今では違っていたのではないかと考えている。
「あ」
 モニターの一つに映った二つの人影に、村田は目が釘付けになった。
 ヘミングウェイ内部に取り付けられたカメラの映像。そこに上司とかつての監視対象だった宇宙人が揃って来店した。まるで仲の良さを見せつけるように、宇宙人が上司の腕に手を絡めている。上司も上司で恥ずかしそうにしながらも、振り払う素振りを全く見せない。そしてそれを周りはごく当たり前のように受け入れている。
 二人は店主の案内で、カウンター席に座った。仲良く隣同士。手早く注文を済ませ、談笑している。
 笑う上司の表情に、かつてJF1を毛嫌いしていた頃の面影は欠片もなかった。険がとれた感じとでも言うんだろうか。肩の力が抜けて緩んだ顔をしている。
 村田は、上司もそんな風に笑うんだと初めて知った。組織ではいつも厳しい顔をして、とにかく任務をこなし上を目指すことしか考えていないような人だったから。
 角が取れ、柔らかな視線を向ける先にはあの宇宙人。楽しそうに話す宇宙人の声に耳を傾け、相槌を打っている。
 銃を上司に突き付けた時、驚きの表情を見て村田は「これは完全に宇宙人に洗脳されたな」と思っていた。しかし今は、それが違うと考えている。
 これは洗脳って言うより、魅了されてるって感じ、だよな。
 すっかり宇宙人に心奪われてしまった上司が映るモニターから村田は顔をそむける。これ以上見てたら、せっかくのカレーが甘さで台無しになりそうだったから。

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 食器洗いはケイトの手伝いで慣れている。それでも割らないよう、ユキはゆっくり丁寧に食器を洗う。
 バスプロになる為渡米した夏樹と入れ替わるように始めた、ヘミングウェイのバイト。半年近く経って、最近じゃ海咲に聞かなくとも自分で判断して出来ることが増えてきた。まだ失敗もするけれど、めげずに済んでいる。失敗したら、同じことを繰り返さないよう学んでいけばいい。
 一仕事を終えたユキは手を拭き、乾いた布巾で洗った食器を拭いていく。
 そこに足元へ歩いてきたタピオカが、ユキの脛をとんとん、とくちばしで突いた。
「タピオカ?」
 怪訝な顔をしてカウンターの中に入り込んだアヒルを見下ろす。タピオカは羽を広げて「グァッ」と一鳴き。ハムをよこせのサインだ。しかしタピオカがこの行動を見せるのはアキラのみ。それを見て、こちらに注文を受ける流れにいつもなっている。いつもとは違う状況にユキは不思議に思い、テーブル席に顔を向けた。
 アキラとハルが並んで座っている。ハルが手に持っているのは、アキラのスマホだ。未知の機器にハルの目は興味一杯の視線を注いでいる。
「すっごーい、これってつりもできるんだ」
「まぁ、本当のつりとは全く勝手は違うが……」
「でもやってるんでしょ?」
「仕事でどうしても行けないときにな……。こういうので憂さ晴らしするしかないんだよ」
 げんなりと頬杖をつくアキラの顔を覗きこみ、ハルはにっこり笑った。
「アキラ、いつもお仕事がんばってるもんね。えらいっ」
「そ、そうか……?」
「うんうん。えらいえらい」
 スマホをテーブルに置き、ハルはアキラの方を向いて、ぱちぱちと拍手をした。ハルなりの賞賛に、アキラは悪い気がしないようだ。不機嫌な表情が薄れ、ハルにやさしく微笑みかけている。
 ――なるほど、タピオカがこっちに来た訳だ。ユキは納得した。タピオカは空気が読める優秀なアヒルだ。アキラに呼びかけても、二人の邪魔をしてしまうと悟ってこっちに来たんだろう。だって、アキラ今、すっごい表情緩んじゃってるし。
 ユキは忍び笑いを浮かべながら、ちょっと待っててと手ぶりでタピオカに合図した。了解した、と言わんばかりにタピオカがまた羽を広げる。
 冷蔵庫からサンドイッチ用のハムを取出し、薄切りにする。タピオカが発揮した気遣い分、すこし多めに皿へ盛った。
「はい、タピオカ」
 カウンター近くのテーブル下に置かれたハムの皿に、タピオカは喜んでさっそく一枚ずつ食べ始める。丸っこい頭を撫で、カウンターに戻ったユキは、改めてアキラとハルを見る。
 二人はまだ話し込んでいた。ユキの視線に気づく様子もない。
 幸せそうだな、二人とも。最初は警戒し合っていたのが嘘みたいだ。
 願わくば、このままでいてくれますように。
 これがずっと続きますように。
 ユキはそっと願った。
 ハルの幸せだと――きっとみんなも幸せになれるから。俺や夏樹や、ばあちゃん。さくらちゃん、ハルのことを知ってる人たち。
 ――アキラだって。
 見ているユキの胸がじわりと暖かくなってきた。
 これが幸せってことなのかな。そう思いながら、ユキは途中だった食器拭きへと戻っていった。

20のお願い(20.このままでいてください)

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 ※夏樹が渡米してない。アキハルバカップル成立後前提でお送りしています。


 この状況はどうした。
 しんと静まり返ったユキの部屋。真ん中では仁王立ちをしている夏樹。ベッドに座ってなりゆきを見守っているユキ。そしてアキラは夏樹の前で座っていた。なぜか、後ろ手にタオルを巻かれた状態で。油断をしていたせいで、抵抗する前に動きを封じられていた。
 アキラは夏樹を見上げる。腕組みをして見下ろす夏樹の目は笑っていない。いや、マジで俺なにしたの。身に覚えないんだけど。
「――正直に答えろ」
 抑揚がない声で夏樹が言った。
「どうしてハルはさっき、お前を見て部屋を出たんだ」
「そりゃ……まあ、その、なあ?」
 アキラは視線を泳がせる。

 さっきまで部屋にはハルもいた。今日は四人同じ部屋で雑魚寝をする予定だった。
 夏樹、ユキ、ハル、アキラと寝る順番を決めた時、それに異を唱えたのがハルだった。
「ぼく、ユキと夏樹の間がいいなぁ~」
「ハルは、アキラの隣がいいんじゃないの? なぁ、アキラだってそう思うだろ?」
 ユキから同意を求められ「……そ、そりゃ、まあ」とアキラが口ごもりながらも肯定する。
 その時アキラを見つめたハルの頬が、不意に赤く染まった。もじもじと照れてアキラから視線をそらす。
「うう~、でもぼく、今アキラの側にいると、いろいろ思い出して胸がきゅーってなっちゃうから」
 そのままハルは恥ずかしがり、ベランダへと出て行ってしまった。
 ハルの投げた言葉は爆弾となり、夏樹のお兄ちゃんセンサーを煽ってしまったらしい。なぜかタオルで腕を縛られ今に至る。

 どうしてハルが恥ずかしがったのか、アキラは理由はわからないでもなかった。最近ようやく羞恥心とやらが芽生えたらしい。時にべたつくような触れ合いをすると、ハルは顔を真っ赤にしてこちらの胸を押し、密着の度合いを少なくしようとする。
 これまで抱き着くのにも臆してこなかったのを見てきている。だから逆に恥ずかしがるハルは新鮮だった。酷いことをしているわけではない――決して。
「……その反応は心当たりがあるって感じだな」
「どうしてそうなる。それにちょっと待て。どうして俺は今縛られているんだ」
「話の途中で逃げられても困る」
「これ、さっき見た映画に影響されてるだろ。やめとけ。お前だとマジでシャレにならん」
 娘のためならどんなことだって厭わず救出に向かう内容の映画を思い出し、アキラは冷や汗を流す。画面の中で暴れていた父親と、目の前の夏樹の雰囲気が重なって見え、焦ったアキラはユキに助けを求めた。
「おい、ユキ。夏樹をどうにかしてくれ」
「ごめん。こういう時の夏樹って、ヘタに止めるともっと怖いから」
「そりゃ俺だって重々承知済みだ。だけどな、おい。この場合俺がかわいそうだと思わないのか、なあ」
「う~ん…………」
 しばらく考え込み、ユキはすまなそうに眉尻を下げる。
「…………ごめん」
「お前って本っ当に優先順位がわかりやすすぎるよな! わかってたけど!」
 ケイトとハルが最優先。その次に夏樹。きっと俺はその後だ。いや、さくらちゃんがその前に来るのか。どちらにせよ、ユキの中での俺の優先順位は低い。孤立無援の状態に、アキラはがっくり項垂れる。その頭上に「アキラ」と冷たい夏樹の声が降り注いだ。
「もう一度言う。――正直に答えろ」
 容赦ない追及の声。答えを吐くまで許さないだろう夏樹の構えに、アキラはうんざりとため息を吐いた。
 もうこのシスコンとブラコン兼ね備えた男、なんとかしてくれ。


20のお願い(19.正直に答えてください)
ちなみに見ていた映画は96時間。
あの映画、お父さんマジ強いですよね……。

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 台所で、割烹着姿のケイトがスツールに座っていた。テーブルに置かれたボウルの中には薔薇の花びらが山盛りになっている。それを一つずつ手に取って、丁寧にがくを取り除いていた。
「ケイト、何しているの?」
「あら、ハル」
 そこにやってきたハルへ顔を上げ、ケイトは「今ね、ジャムを作る準備をしているの」と教えた。
「ジャム?」
 ハルは目を丸くする。ジャムって言うのは、林檎やオレンジ、苺、果物からできるものだと思っていた。
「花って食べられるの?」
「もちろん。そうだ、ハル手伝ってくれる? 一緒にジャム作りましょ」
「うん! ぼくケイトのお手伝いする!」
 ハルは台所へ降り、ケイトの隣に立った。ボウルの中にある薔薇を、好奇心できらめく瞳で見つめる。これが、どんな風になっていくのか。今から楽しみになってしまう。
「花にね、がくがついているでしょう?」
 ケイトは切り取った薔薇の下についている緑を指で示し、ハルに伝える。
「これを取るの。じゃないとジャムが美味しくならなくなっちゃうから」
「わかった!」
 元気よく返事をし、ハルはケイトの言う通り花びらについたがくを取り除いていく。楽しそうに、鼻歌を歌いながら。ちょっとリズムは外れているけれど、聞いていると元気が出てきそうだ。
「ねえ、ケイト。がくを取ったらどうするの? 難しい?」
 待ちきれないようにハルが次の工程を聞きたがる。
 ケイトは首を振って「大丈夫、簡単よ」と作り方を教えた。水で煮込み、砂糖やレモン汁、粘り気を出すためのペクチンを入れる。
「すっごーい! 簡単にできるんだね!」
「ちょっと時間はかかるけどね。でも時間をかけた分だけ、おいしくなるのよ」
「すごいね……」
 感嘆し、ハルは自分の掌にある花びらを見つめた。
「ねえ、ケイト。これちょっともらっていーい? ぼくも作ってみたいな」
「あら、いいわね」
 素敵な提案にケイトは喜んで賛成した。
「じゃあお鍋を二つ用意して作りましょう? 私も手伝ってあげるから。美味しくできたら、ユキやアキラさんにも食べてもらいましょう」
「うん! ぼく、がんばって作る!」
 頬を赤く染めて、ハルは首を縦に振る。
 ハルったら、とっても嬉しそう。再び聞こえてくるハルの鼻歌に耳を傾け、ケイトは優しく微笑んだ。

20のお願い(18.手伝ってください)

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 任務で派遣された先のホテルの部屋へ戻ってくるのと同時に、スーツのポケットに入れていたスマホが震えた。両手から片手にタピオカを抱き直し、スマホを取り出す。
 画面にはユキからの着信が入っていた。笑顔のユキとハルが映った画像も同時に表示されている。
「――もしもし」
「アキラ!」
 すぐ着信に出たアキラの耳に、ハルの声が届いた。いつもと変わらない明るさに、アキラは自然と微笑んだ。
「ハルか。またユキのスマホ借りたのか?」
「うん! だってアキラとお話ししたかったんだもん。今日もお仕事だった?」
「そうだ。でも終わったから」
 言いながら、タピオカを床に下ろす。羽ばたきながら軽やかに着地する後姿を見つめながら、アキラは片手でネクタイを緩めた。
 解いたネクタイを放ったベッドに座り「それで、今日はどんなことがあったんだ?」と話の続きを促す。
 最近、よくハルがユキのスマホを借りて着信を入れてくる。そして、今日あったことを話し聞かせてくれる。話題は尽きず、たまに二つの事柄がごっちゃになり、内容が把握し辛い時もあったが、たいていハルの好きに話させている。アキラにとって、ハルの声は聴くだけで一日の疲れがとれる清涼剤みたいなものだ。
「じゃあ、聞いて聞いて! あのね、今日はユキと釣りにいったんだー。そしたらね、さくらも来て――」
 今日も楽しそうなハルの話に、アキラは相槌を打ちながら耳を傾ける。ゆっくり背中からベッドに倒れこむと、思いのほか身体が疲労で重たく感じた。
 柔らかなベッドに、耳元からハルの声。これは油断したらすぐに寝落ちてしまいそうだ。このままではハルの声が聞こえなくなってしまって、もったいない。ただでさえこうして離れているのだから。
 アキラは欠伸をかみ殺し、すぐに身体を起こす。備え付けの小さな冷蔵庫から、取り出したミネラルウォーターを飲んだ。少しでも眠気を飛ばして、ハルの声をしっかり聴けるように。

20のお願い(17.聞いてください)

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