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小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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 リビングのソファでハルがごろごろしながらテレビを見ていた。流れているのは一昔前の洋画だった。宝探しのために、敵を追い払いながら危険と隣り合わせの遺跡を探検している。
 リモコンを弄ってしまい戻し方がわからないまま、英語音声で流れるそれを眺める。何を言ってるかはわからないけれど、目まぐるしい主人公の動きに魅了されていた。どうやったら、あんな風に動けるのかな。
 そこに、アキラが疲れた顔でリビングへやってきた。
「アキラ?」
 振り向くハルにひらりと手を振り、アキラは無言で台所に向かう。冷蔵庫を開けて麦茶をだし、取り出したグラスについで一気飲み。
「――あー、もうやってられっか」
 そして口から悪態がこぼれ出た。
「どうしたの、アキラ」
「あ~、こっちの話だ。お前も麦茶飲むか?」
「うん、飲む」と頷けば、アキラはもう一つグラスを出して、それぞれになみなみと注いだ。両手に持ってリビングに足を入れ「ソファに座らせてくれ」と催促する。
 ハルは身体を起こし、横にずれてアキラの座るスペースを作った。どっかりと腰を下ろしたアキラからグラスを受け取り、麦茶を口に含む。映画に目が釘付けだったから、水分を取ることを忘れていた喉に、麦茶はすっと通っていく。
「なんだ、お前。英語わかるのか?」
 映画を見て、アキラが「字幕もないじゃないか」と驚く。
 ハルは首を振って「ううん。ぼく英語わかんない。リモコン弄ってたら、こうなっちゃって」と答える。するとアキラは「なんだ。そういうことか」と小さく笑った。さっきの疲れていた顔が少し和らいているように見えた。
「アキラはわかるの?」
「当たり前だろ。英語出来なきゃ、DUCKで仕事は無理だ」
「じゃあ、この人たちがなんて言ってるか、わかる?」
「ああ、もちろんだ」
「すっごーい!」
 ハルの賞賛に「……そんな大したことじゃない」と言いながらも、アキラはどことなく嬉しそうだ。
 半分ほど中身が減ったグラスをテーブルに置き「ハル」とアキラは両手を広げた。
「こっちにおいで」
「……? うん」
 ハルもグラスを置き、アキラに近づく。
「おひざにのっていいの?」
「ああ」
 言われるがまま、ハルはアキラの膝に座った。たくましい腕が、ぎゅっとハルの腹部に回る。肩口にアキラは顎をのせ、長々と息を吐いた。
「……落ち着くな」
「アキラ? どうしたの?」
「なんでもない。しばらくこのままでいさせてくれ。もうちょっとしたら、また頑張りにいくから」
「? うん、わかった」
 何のことを言っているのか、ハルにはわからなかった。だけど、こうして抱っこされていることでアキラが元気になるのならいいかな、と思う。
「ねえ、アキラ。あの人なんて言ってるのか教えてよ」
「ああ、あれは――」
 尋ねられるまま、アキラは答えた。耳元で呟かれる声がくすぐったく脳に響いて、ハルの心拍はあがっていく。
 あれ、なんでぼく顔が熱い?
 麦茶が飲みたくなったけれど、アキラにつかまった状態では手が伸ばせそうになかった。

20のお願い(16.こっちへ来てください)

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 ハルは、ヘミングウェイから出てくる夏樹を見つけた。手には、店のロゴが入った紙袋。こっちには気づかずさっさと歩き出す夏樹に「やっほ~、なっつきぃ~!」とハルは腕を大きく振って呼んだ。
 夏樹は驚き、首を竦める。そしてハルを見つけるなり、慌てたように紙袋を後ろ手に隠した。
「夏樹、何かくしたの?」
「何って……なんでもねーよ」
 あらぬ方向を見て、近寄ったハルから目を反らす。逆に怪しさを誘った仕草にますますハルは紙袋への興味を抱いた。
「ぼく見たよ、夏樹、海咲姐のところから紙袋持ってたの。ねぇねぇ、なになに~ぃ?」
 すばやく後ろを覗きこもうと試みるハルに「わっ、バカ。ユキに見つかるだろ」と夏樹が身を翻し、紙袋をかばった。
「ユキ? ユキ今ここにいない」
「そうなのか?」
「うん。ユキはうちにいるよ。ぼくひとり」
「……なんだ。そういうことかよ。驚かせんなよ」
 ユキの不在を知るや否や、大仰に夏樹は胸を撫で下ろした。安堵する夏樹に「ねぇねぇ、ユキがどうしたの?」とハルは聞いた。ユキがいると不都合があったのだろうか。
「なんでもねーよ」
 夏樹はそっけなく答え「それよりも、紙袋の中見たいんだろ。ほら」とあっさり出し渋っていた紙袋をハルに差し出した。
「え? 見ていいの?」
「ああ」
 頷く夏樹に、ハルは顔を明るくしてさっそく袋の中を開いて覗いた。そこにはルアーがいくつか入っている。赤い色。青い色。二匹分。
「どうしたの、これ。これで夏樹、サカナ釣る?」
「ちげーよ。これは、ユキにやろうと思ってるんだ」
 三回目の質問で、ようやく夏樹は答えてくれた。
「アイツ今、バイトでロッドとか買おうと頑張ってるだろ」
「うんうん。ユキ、ちょーガンバってる!」
 歩が船長をしている青春丸でバイトを始めてから一週間とちょっと。ユキはすっかり船と海に慣れ、一生懸命働いていた。つい先日シイラを釣った時の笑顔を思い出し、ハルの心はうきうきした。
「だからさ、アイツがロッド買った時、これやろうかなって」
「失敗しても頑張ってるし、アイツがガンバってるの見てると、なんか俺も嬉しいから」
「そっかぁ。これはユキへのごほーびなんだね」
「そうだ。だからまだばれちゃいけないんだ。絶対ユキに言うなよ」
 ハルから返してもらった紙袋を手に、夏樹が口に立てた人差し指を当てた。それを見て、ハルは両手で唇を押さえる。帰ったら、すぐユキに言うつもりだったから。
「もし言ったら――」
 大袈裟に声を潜める夏樹に「……言ったら?」とハルの声もつい小さくなる。
 夏樹はにやりと笑って答えた。
「今度うちでしらす丼注文した時、しらす抜きにしてやる」
「それ、ただのごはん!」
 ぎゃー、と悲鳴を上げるハルに、夏樹も声を出して笑った。

20のお願い(15.内緒にしてください)

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 ハルは暇を持て余していた。やることもなくじっとしているのは苦痛だ。
 目の前では、アキラがノートパソコンを前に作業している。時折指を止め、画面に顔を近づけて凝視する。かと思えばまたキーボードを叩いて。
 部屋にはかこかことキーボードを叩く音だけがする。
「アキラ~っ、つまんない~!」
 とうとう耐え切れなくなり、ハルはアキラの背中にのしかかった。首に腕を回して「あそぼ~よ!」としがみつく。
 真田邸にはハルとアキラしかいない。ユキはヘミングウェイのバイトだし、ケイトはサムエル・コッキング苑で働いている。どちらも夕方になるまで戻ってこない。
 アキラは黙って、しがみつくハルの腕を掴んで無理やり引きはがした。弾みでハルは床に転がる。
「アキラ乱暴禁止!」
「そっちが勝手にしがみつくから離しただけだ」
 アキラは振り返りもしない。
「俺は今仕事中! 遊びたくても終わんなきゃ遊べないんだよ! ああ、もう! これぐらい村田とかでも出来るだろうに、アイツらは!」
「ぶー」
「むくれても駄目。遊べない」
 アキラは猫を追い払うような仕草でハルに手を振った。そっけないアキラに「ケチ」と文句を垂れながら、渋々部屋を出る。閉めた扉に背をつけて俯き「……つまんなーい」と呟いた。
 拗ね気味のハルに、廊下を歩いてタピオカが近付いてきた。ハルの足元で立ち止り羽を大きく広げる。
「ぐぁー、ぐあっ」
「えっ?」
 ハルはしゃがんでタピオカと視線を合わせた。
「タピオカ、ぼくと遊んでくれるの?」
 タピオカは首を縦に振り「ぐぁ」と鳴いた。甲斐性のないバディに代わり。今日は私が面倒を見よう。そう言っているようにハルには聞こえた。
「やったぁ!」とハルは喜び、両手を伸ばしてタピオカを抱き上げた。
「ありがとう、タピオカ」
 ぎゅっと抱きしめハルはタピオカに感謝する。
「じゃあ、一緒におさんぽいこっか。海に行く? 保っちゃんのところとかでもいいよね~」
 すっかり機嫌を直したハルは、タピオカを抱っこしたまま歩き出す。寂しい気分はすっかり消え失せていた。

「……ん?」
 ノートパソコンの横に置いていたスマホが着信音とともに震える。手に取ってみれば、ユキからのメールが届いていた。画像が添付されている。
「……?」
 首を傾げて開いてみると、そこにはケーキをほお張るハルと、隣で山盛りのハムを啄むタピオカが映っていた。
「何をやってんだアイツらは……」
 苦い顔をしてメールの本文を読む。
 ――仕事が終わったらハルたちを迎えに来てやってよ。あと、料金はアキラ持ちだって、海咲さん言ってるから、早めに来た方が……。
「………………」
 アキラは無言でメール画面を閉じた。そのままスマホは元の場所に戻し、再び仕事に戻る。代金がかさみすぎたらどうするんだ。海咲は遠慮なくケーキを振舞うだろうし、ハルもタピオカも遠慮を知らないから。
 ちくしょ、と唸りながらキーボードを叩く。その指の動きは、メールが来る前よりかなり速くなっていた。

20のお願い(14.構ってください)

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「ハル―、こっちにも水頼む」
「オッケー!」
 ユキが持つホースから水を満たしてもらったじょうろを手に、ハルが庭を横切る。真田邸の庭は四季を通じて花が咲いている。肥料などの細やかなところはケイトがするが、水やりに草抜きはユキとハルも積極的に手伝いをしていた。
 すっかり手慣れた様子でてきぱきと広い庭の世話をしている二人を、アキラはサンルームのソファで眺めている。俺も手伝えるかと申し出てたが、二人でやればすぐだからと断られた。
 ホースで水をまくし、濡れるから。そうユキに言われてサンルームへ避難している。
 動き回る二人の息はぴったりだった。なるほど、これなら俺が手伝うまでもないか。それどころか手慣れない人間が入ったら逆に邪魔になるな。
「お邪魔します」
 ぼんやり庭を見つめるアキラに、台所からウララがサンルームへ入ってきた。物腰穏やかに「そちら、座ってもよろしいでしょうか?」とアキラが座っているソファに向かい合う形で置かれたチェアを見やる。
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
 ウララはにっこり微笑みチェアに腰を下ろした。両手は揃えた膝の上に置き、姿勢正しく座っている。
 笑顔のウララに対し、アキラは内心気まずい。明るくはしゃぐハルとは違い、ウララは大人しく引っ込み思案なところがある。同じ真田邸に居候している身分だが、アキラは未だにウララの性格を掴みかねていた。考えていることが読みにくい。
 なんとなく視線を合わせにくく、アキラの目は庭へ固定された。ここにタピオカがいれば、まだぎこちない雰囲気も和らぐだろうに。もしくはハルたちの水やりが終わって、こっちに来てくれたら。
「――あの」
「な、なんだ?」
 いきなり声をかけられ、アキラは驚いて肩が跳ねた。
 ウララは相変わらずアキラを見て微笑んでいる。
「アキラさんは、ハルのこと好きなんですよね?」
「………………」
「貴方のハルを見つめる眼が、とても優しそうでありましたから」
「………………」
 アキラは唇を内側からきゅっと噛んだ。そうでもしないと反射的に叫びそうになる。俺は、傍から見たら、そんな風に見えてるのか。無意識だったせいで、指摘された今、とても恥ずかしくなってきた。
 無言を肯定と受け取り「ハルも、アキラさんのこととても好きなんですよ。よく貴方と出かけた時の話をされていますし」とウララは胸の前で両手を合わせ、楽しそうに語りだす。
「きっと貴方のことが大好きだから、なんでしょうね。わたくし、ハルが幸せそうでとても嬉しいと思います。これからも末永くハルのこと、よろしくお願いいたしますね」
 そういって深々と頭を下げるウララに、アキラは慌てて腰を浮かせた。
「お、おい! 頭まで下げるな!」
「それを申し上げられましても……。わたくしにとってハルは同郷の仲間であり、弟みたいなもの。そのお相手の方にも親身にならずしていかがしましょうか」
「わかった。わかったから! だから頭を下げるな勘弁してくれ!」
 どうしてハルの星の奴らはこう一歩ずれた奴が多いんだ。アキラは深く首を垂れるウララを止めつつ、早く水やりが終わってハルたちが早く戻るよう、庭に向かって念を飛ばした。このままじゃ、心臓がもちそうにないから。

20のお願い(13.勘弁してください)

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※夏樹が渡米していない設定でお送りしています。


「アキラ」
 のんびりした時間を過ごしていると、ハルが抱き着いてすり寄ってきた。
 甘えるハルに応えたいが、俺は堪えて「ハル、離れなさい」と肩に手を置く。
「どうして? いつもだったらアキラもぎゅーしてくれるよ?」
「そっ、それはそうだが」
 思わぬ指摘に俺は声を詰まらせた。当然だ。恋人に甘えられて嬉しくない男がどこにいる。しかし今は勝手が違うのだ。
「アイツに見つかったらうるさいんだよ」
 俺が世話になっている真田邸に、夏樹が泊まりに来ていた。今頃、ユキと楽しく談笑しているだろう。だが、心のどこかでこっちを気にかけているに違いない。俺はハルを狙っている狼みたいなものだと認識されている。だから面白くないんだろう、ハルを友人として――また弟として接しているような夏樹としては。さくらちゃんの時は半狂乱になりそうだ。
「だから我慢、な」
「ええ~っ」
 案の定ハルはブーイングをした。唇を尖らせて拗ね「いいじゃん、ぎゅーしようよぉ~」と駄々をこねはじめる。
「ぼくアキラとぎゅ~したい~、したい~、したいぃ~!」
「バカ。静かにしろ」
 大声を出したら気づかれるだろ。俺は慌ててハルの口を塞いだ。俺が借りている和室とユキと夏樹がいる洋館の部屋は離れているが、それでも慎重にならざるを得ない俺の心境を察していただきたいものだ。
「明日、ケーキおごってやるから。なっ?」
 妥協案にじろりとハルは俺を睨む。逆効果だったか? しかし物で釣る交渉以外に効果的な作戦が他には浮かばないぞ。
「もぉ、アキラはわかってないなぁ」
 口を塞いでいた手をひっぺ返し、ハルは有無を言わさず再び俺に抱き着く。
「お、おい、ハル?」
「アキラが我慢すればいいんだよ。そうすればぼくはアキラをずうっとぎゅーできるから!」
 名案を思いついたように、ハルはしたり顔で一人頷く。
 そりゃ、俺が我慢すればいい話ですよ。ハルに抱き着かれたらいつも理性と本能がせめぎ合うんですし。今だってどうにか理性を勝たせようと俺の脳内が必死なんだぞ、こら。
 ここで本能が勝ったら。そして万が一夏樹に見られようものなら――いや、ユキでもヤバいけど。
 苦悩する俺を余所に、ハルは「アキラ~」と甘えた声を出す。
 ――これはいい訓練になりそうだ。主に精神力を鍛える意味で。
 せめて二人がこちらに来ないまま寝落ちしてくれますように。まだまだ長い夜。俺はそう願わずにいられなかった。

20のお願い(12.我慢してください)

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