忍者ブログ
小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 アキラがトランクケースに荷物を詰めていた。江ノ島で数日の休暇を過ごし、また明日から任務で忙しくなる。
 出発は明日。今晩は早めに床へ就いておかなければ。
「――アキラ」
 準備を終えてトランクケースの蓋を閉めたところで、部屋の扉が開いた。隙間から室内をうかがうようにハルが覗いている。
 ハルを振り返り、アキラは小さく笑って手招きをした。
 部屋に入ったハルは、アキラの後ろで立ち止り用意が済んだ荷物を見て、眉を悲しそうに寄せた。
「……今度はいつ、江ノ島に来れる?」
「わからない。上司次第だな」
 トランクケースを壁際に寄せ、アキラはため息混じりで答えた。与えられた任務を達成しても、また次に新たな指令が送られる可能性は大だ。こうしている間にも、地球にやってきた異星人が増えているかもしれない。
 曖昧な答えに、ハルはしゅんと肩を落とした。
 水がなくなってしまった花みたいに、萎れてしまいそうな恋人をアキラはどう言葉をかけるべきか考えあぐねた。いくら頭の中の辞書を探っても、貧相な語彙しか見つからない。
 困った挙句、アキラは腰を上げ、立ち尽くしていたハルを抱きしめた。
「そんな顔をするな。一生の別れじゃあるまいし。仕事が落ちついたら、また戻ってくる」
「でもアキラいないの……ぼくさみしい」
「俺だってさみしいさ。でもな仕事も疎かにしたくないんだよ」
 JFXの件もあり、宇宙人であるハルに心を許したアキラは特例として規則を破った罰則を免除されていた。だが一部の目はまだ宇宙人と繋がりを持つアキラに対して厳しい。
 頑なな奴らの態度を軟化させるには、こちらがのし上がるのが一番。非の打ちどころがない仕事ぶりを見せ、幹部に昇格し文句を封じさせる。
 しかしハルに我慢しろなんてわがままは言えない。
「だから、寂しくなったら連絡しろ。出られなくても、絶対にこっちから連絡しなおす」
 しばらくして、ハルがこくりと頷いた。
「わかった……がんばってね、アキラ」
 胸を押さえてハルは笑う。痛む心を隠し、応援してくれるいじらしさにアキラは強くハルを抱きなおした。

20のお願い(11、そんな顔をしないでください)

拍手[0回]

PR

※夏樹が渡米していないというIF的な要素を含んでいるよ。それを踏まえて見てね。


 ある日の夕方。夏樹は店の手伝いを終えた後、ランニングウェアに着替え日課のランニングに出かけた。軽くストレッチをこなし、さっそく始める。
 今日はどのコースで行こうかな。頭の中で夏樹は走る道順を思案した。江ノ島を周回したり、江ノ島大橋を渡り、海沿いを走ったり。他にもいくつかコースがある。毎日同じ場所ばかり走っていてもつまらない、と夏樹なりに模索していた。
 考えた末、今回は江ノ島大橋を渡ることにした。緩く速度を維持しながら、足を進める。
「……ん?」
 江ノ島大橋の半ばまで来たところで、夏樹は見知った背中を見つけた。楽しそうにスキップをしている背中へあっという間に追いつき「ハル」と声をかける。
 ぱっと振り返った少年――ハルが「あっ、夏樹!」ときれいな花みたいに笑う。
 夏樹はハルに合わせて歩き「どうしたんだ、もう夕方だぞ」ときいた。
「おかいもの! アキラにね、これ買ってきてくれって頼まれたんだー」
 ハルは元気よく答え、夏樹に持っていたメモを渡した。
 受け取ったメモには、ガムや栄養ドリンクなど買うものを箇条書きされていた。その下には『レシートは捨てないこと。後で領収書として本部に送りつけるから』と付け加えられている。あの男はきっちり所属している組織から料金をふんだくるつもりらしい。
「おつかいはわかったけどさ……」
 メモをハルに返した夏樹は渋面になった。もうすぐ日が暮れる時間で、すぐに外は暗くなるだろう。江ノ島にはコンビニがない。近場でも江ノ島大橋を渡らなければならず、歩くとすればそれなりの時間がかかってしまう。
「一人じゃ危ないだろ。せめてユキと一緒に行けよ」
「ユキはケイトとお夕飯の準備してるから。今日はねグラタンなんだって。上におっきなハンバーグを乗せてくれるんだ~」
 楽しそうに献立を話すハルに、ますます夏樹は心配になった。ハルに危機感がないのが、さらに不安を掻きたてる。
 夏樹にとってハルは、気心の知れた友人であり、また世話のかかる弟のようでもあった。だからついついさくらやさつきと同じく、ハルに対しても面倒を見てしまう。そして今回も。
「俺も一緒に行っていいか? 心配だし」
「ほんとう!? ありがとう夏樹!」
 こうして夏樹はトレーニングをやめ、ハルと並んで歩く。
「……ったく、アキラのヤロー。仕事が忙しいからってハルを使いっ走りさせやがって……」
 アキラに対し文句を言う夏樹に「夏樹ぃ~、笑って笑って」とハルはにっこりした。
「ぼくね、うれしいんだ~」
「嬉しい?」
「うん。ぼくはアキラのお仕事お手伝いできない。だけどおつかいはできる。これ買ってきたらアキラはうれしい。アキラがうれしいとぼくもうれしい。だからね、アキラが頼ってくれてぼくうれしいよ!」
 危ないかもしれないのに。そうアキラを苦々しく思っていた夏樹は、ハルの素直な気持ちに毒気を抜かれた。
「お前がそんなんだから、アキラもよっかかるんだろうな……」
「あ、あとね! 好きなお菓子一個買ってもいいって言ってくれたんだよ。なに買おうか迷っちゃうよ」
「ああ……、ご褒美もあるんだな……」
 使いっ走りさせるだけじゃないんだな。そりゃハルもはりきる訳だ。妙に夏樹は納得してしまう。
「夏樹? どうしたの?」
 不思議そうに首をかしげるハルに「なんでもない」と誤魔化し、夏樹はその背中を軽く押した。
「ほら、早く行くぞ。帰りも送ってってやるから」
「夏樹とおかいもの初めて! 今度はユキやアキラとも行きたいね!」
 無邪気に提案するハルに、夏樹は「そうだな」とまるで弟を見守るような優しい目をしていた。


20のお願い(10、頼ってください)

拍手[0回]



 両手で包んだ頬は柔らかく、さらさらしていて、ちょっぴり冷たかった。
 ほんの少し手首に力を入れるだけで、上向けられる顔。スミレのような淡い紫色をした瞳が、こちらを見ている。
「アキラ?」
 これからどうなるか、興味津々の視線が突き刺さる。行動を仕掛けたアキラは純粋な眼差しに、目を泳がせた。
 そうなんだよな。外見こそ高校生ぐらいだが、中身はまだ幼い子供に近い。未成熟な心を持つハルに、やたらむやみに触るのは教育上よくないのか。アキラはつい、親視点で物事を見てしまった。
 身体が固まり黙ってしまったアキラに「どうしたの、アキラ。ぼくの顔に何かついてる?」と尋ねた。
「いや、そういう訳じゃ」
「じゃあ、この手はなに?」
 ハルがアキラの両手に触れた。頬と同様に、やっぱりほんのり冷たい。しかしアキラはハルの温度を感じている余裕がそぎ取られていく。ここはやっぱりゴミがついていたということにして、さっさと手を離してしまおうか。いやしかし、ここまで来たからには行動に移さねば。今度はいつ機会が巡ってくるかわからないんだぞ。
 悩むアキラに「もしかしてアキラ、ぼくとちゅーしたい?」とハルが核心をついた。
 そのまさかだった。図星をつかれ、アキラはびくりと肩を震わせる。
「……どうしてそう思うんだ?」
 平静を装いつつ、アキラは根拠を聞いた。
「この前テレビで見たよ。スーツのお兄さんが、きれいなお姉さんにアキラとおんなじことしてた。その後ちゅーしてたよ。だからアキラもぼくとちゅーする?」
「しても……いいのか?」
 念を押してしまうアキラは、自分が情けなくなった。だが、無理やりしてハルに嫌われてはならない。
「うんっ、いいよ。ぼくアキラとちゅーしたい!」
 ハルの返事は明快だった。色よい返答に、アキラはほっと胸をなでおろす。
 許可も得た。アキラはさっそく行動を実行に移しかけ――すぐに困ってしまった。
「……ハル」
「うん?」
「こっちを見ないでもらえるか?」
 ハルは瞼をぱっちり開けて、アキラのキスを待っていた。だがアキラからすると、突き刺さる視線のせいで、最後の一歩が踏み出せない。
「どうして?」
「緊張するんだよ。……それにその、あれだ。マナーだよマナー。こういう時は目を閉じるのが決まり事ってもんなんだ」
「ふぅん……、地球っていろんな決まりごとがあるんだね」
「そうだ。だから瞼を閉じろ、ハル」
 思いつくまま理屈を並び立てるアキラに、ハルは頷き「はいっ」と瞼を閉じる。
「これでいーい?」
「ああ。……あと一つ」
「もう一つ? なに?」
「口を閉じて。黙ってくれ。口が開いてちゃ、触れられないからな」
 そう言ってアキラはそっと首をかがめ、ハルの顔に顔を伏せた。

20のお願い(9、見ないでください)


拍手[0回]

(4、せめて事前に言ってくださいの続き)


 ハルといる時間、自分の表情が通常より数倍緩んでいるのは自覚気味だ。だからこそ黙って江ノ島まで来たジョージ・エースには見られたくなかった。
 わかっている。DUCKがもつ監視能力は、そこらの組織よりずば抜けていることも。外出を控える今だって、どこかに設置している監視カメラでこちらの様子を眺めているに違いない。
 機嫌を損ねそっぽを向いた恋人に対し、平身低頭で謝る姿を見て、上司は何を思うだろう。後でわざわざしなくてもいい報告が入りそうで、アキラはうんざりした。こっちが困り果てるのがそんなに楽しいか、ちくしょう。
「アキラの嘘つき。今日スカイツリー連れてってくれるって約束してくれたのに」
 せっかくのデートが流れて、すっかりご機嫌斜めになったハルは、アキラに背中を向けてソファに乗っていた。背もたれに身体を預け「ぼく楽しみにしてたのに」とふてくされる。
「いや、だからその、悪かった」
 所在無くアキラは両手をもてあそび、ハルの隣に腰を下ろす。宥めるため肩に伸ばした手は、邪険そうに振り払われた。
「ハル」
「楽しみにしてたのに……」
「悪かったって。今回はどうしても駄目なんだ。さっきも言っただろう、今出たら監視がつくような状態で楽しめるか?」
「ぼく、気にしないもん。前だってアキラがぼくを監視してたのとおんなじでしょ?」
「だから、今日のは俺も含まれてるんだってば」
「アキラ、観念して出かけたら?」
 ダイニングのテーブルで、成り行きを見守っているユキを「お前、他人事だと思って」とアキラは忌々しく睨む。しかしユキは「いいじゃん。ハルは構わないって言ってるんだし」とあっさり受け流す。
「だがしかし……」
 このまま出かけても、監視がついてると思ったら十分に楽しめそうもない。いっそ抜き打ちでやってくれたら、とアキラは連絡をよこしたジョージ・エースを恨んだ。こんな状況になるのを見越してやってるんじゃないだろうな、あの人は。
「……頼むハル。今度、来週行こう。今日行けなかった分、他にも色々連れてってやるから。なんだったらお前の好きなものも買ってやる。言うことだってなんでも聞く、だから今日は勘弁してくれ」
 ずっと顔をそむけていたハルが、懇願するアキラをちらりと見た。
「……じゃあ一緒にお風呂入ってくれる?」
「……わ、わかった」
「それでぼくと一緒に寝てくれる。毎日」
「毎日? 風呂もか!?」
「アキラ、なんでも言うこと聞くって言ってたよね」
 ユキの援護射撃が横から入り、アキラは呻く。本当にお前はいついかなる時もハルの味方だよな。わかってたけど。
 ハルの訴えるような視線も加わり、アキラはなすすべなく諸手をあげた。
「わかった。わかったから!」
 降参したアキラに「やったぁ!」とようやくハルはふくれっ面をやめた。
「今日から一緒にアキラとお風呂だー!」
 両手を大きく広げ喜びをアピールするハルに、ぐったりとアキラが肩を落とす。
「やくそく!」
 小指を立てたハルに「あー……、はいはい」とアキラが同じように小指を絡める。
 監視されているデートか、毎日理性を総動員して恋人と一緒に入浴と就寝か。どっちがマシだったんだろう。苦悩するアキラを余所にハルは「ゆーびきーりげんまん――」と楽しそうに歌っていた。


20のお願い(8、約束してください)

 

拍手[0回]



 最近、タピオカは恋人に夢中だ。本部にいる間、暇さえあれば上部にあるプールで二匹、仲睦まじい時間を過ごしている。
 水面で恋人に寄り添って浮かぶタピオカに、アキラはいつまで続くかわからないからなとたかをくくっていた。しかし、だんだんとアキラより恋人といる時間が長くなっていくタピオカに、焦りを隠せなくなってくる。こっちは長年バディとして組んできたのに。相棒よりも、ぽっと出の恋人を選ぶのかタピオカよ。アキラは切なくなってくる。
 落ち込むアキラの口から、ため息が幾度もこぼれた。
「もう、アキラ~。ため息よくないよぉ」
 江ノ島西浦。喧騒から離れた堤防で釣りをしていたハルが、注意した。
「笑って笑って。そっちのほうが楽しいし~」
「放っておいてくれ……」
 胡坐をかいて座り、アキラはおざなりににルアーを投げたロッドをやる気なく持つ。今回、江の島への同行を断られたショックを未だに引きずっていた。
「タピオカめ……。まさかあのまま、あのアヒルの卵産むつもりじゃないだろうな……」
「えっ、タピオカ、メスなの? つがいできた?」
「ああ、メスで――つがいだかどうだか……。俺はまだ認めたつもりじゃないけどな」
「アキラ、タピオカに子供出来るのうれしくない?」
「嬉しいか嬉しくないかって言うのなら、まあ嬉しいですけど。まだ……複雑だな」
「複雑? どうして?」
「……こっちのが長い間共に過ごしてきたはずなのに、あっという間に他の相手にかっさらわれた気分だな」
 思考しながらハルへ答えていくうち、アキラは在りし日に夏樹が抱えてきた感情の一端が分かった気がした。家族として大事にしていくつもりが、他にさっさと相手を見つけてこられたら、そりゃふてくされたくもなるわ。
 魚を釣るつもりもないまま海中を漂うルアーを、リールを巻いて引き寄せる。そのまま片づけを始めるアキラに、ハルが近づいた。
「アキラ、釣りやめる?」
「ああ、気分が乗らない。お前だけでもしてろ。ここにはいるから」
「……ううん。ぼくもやーめたっ」
 ハルがリールを巻いていく。海面から出たルアーをつかまえ、アキラの隣に座った。ロッドを傍らに置き「よいしょっ」とアキラに寄り添う。ぴったりと身体をくっつけ、アキラの腕に両手を絡ませた。
「ハル?」
「へへー。タピオカのまね! こうしてぎゅーって寄り添ってたら、アキラさみしくない!」
 ハルは、名案が浮かんだ子供みたいに得意げな笑顔を見せた。アキラはきょとんと瞬きをして、つい吹き出してしまう。未だにハルは、こちらの予想を上回るような行動を取ってくれる。
「アキラ?」
 唇に拳を当て笑いをこらえるアキラに、ハルが首をかしげる。
「いや、なんでもない」
 どうにか表情を取り繕ったアキラは、ハルに「……ありがとうな、ハル」と礼を言った。タピオカの感触とはかけ離れているけど、さみしさは確かに薄れたから。


20のお願い(7、放っておいてください)

拍手[0回]

カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
リンク
プロフィール
HN:
千早
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
P R

Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]