小話色々。只今つり球アキハルを多く投下中です、その他デビサバ2ジュンゴ主、ものはら壇主、ぺよん花主などなど
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アキラはユキの部屋から拝借した釣り雑誌を、リビングのソファに座って読んでいた。今話題の釣りポイントや、注目されているルアーの紹介。読んでいるだけで釣りがしたくなるのはアングラーとしての性分か。
時間が空いたらちょっと行こうかな。ぼんやりアキラが考えていると、リビングにやってきたハルがアキラに気付いて「何読んでるの?」と近づいた。
「雑誌だよ。釣りの」
「釣り!? ぼくも見たい! 見せて!!」
「ユキの部屋に行けば他にもあるから行って来い」
「ぼくアキラが読んでるのがよーみーたーいーっ!」
「お前……それどっかのガキ大将理論みたいじゃないか」
アキラはあっけに取られてハルを見た。俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの。そう声高に告げるアニメキャラの顔が浮かんで消える。
「みーせーてー、アキラみせてよ~」
ハルはせがんでアキラの服をぐいぐいと引っ張る。生地が伸びたらたまったもんじゃない。アキラは「わかったからその手を離せ!」と折れた。
ハルは「わーい!」と両手を大きく広げて喜び――不意にアキラが座るソファの上に登る。疑問符を頭に浮かべたアキラの足の上に、ハルは腰を落ち着けた。
驚いて瞬きをするアキラを振り返り「これなら二人で見れるよ」とハルは名案を思い付いてしたり顔だ。アキラからすれば、これこそたまったもんじゃなかったが。
胸に凭れるハルの背中。ふわふわの髪がアキラの頬をくすぐる。腕だってちょっと動かせばハルに触れられる至近距離。――密着。密着してるっつの!!
「ねえ、アキラ。この本江の島出てる? めくってめくって」
遠慮なく体重をかけながら、ハルは催促する。
「あー……はいはい」
甘えるハルに請われるまま、アキラは雑誌のページをめくる。しかし中身はまったく頭に入らず、ひたすら感じるハルの感触の方に意識が集中してしまった。
5つの甘やかし【2、本をめくってあげる】
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※ほんのり夏ユキ風味入ってます
ヘミングウェイで釣りの雑誌を読んでいたアキラは、突然「アキラっ」と呼ばれた。反射的に声のする方を向くと、突然口元にスプーンですくったプリンを突きつけられる。目を丸くしたアキラに「はい、アキラ、あーんして」とハルがせっついた。
「……」
「あーん。アキラ、あーんして」
ハルは閉ざされたままでいるアキラの唇を、スプーンの先端で突っついた。
アキラは無言でハルの腕を掴んで横にずらし、突きつけられたスプーンを口から離した。途端に「食べてよぉー」とむくれるハルに対し「……お前が食べればいいだろう。せっかく注文したんだから」と言い返す。
アキラの口に突き付けられたプリンは、ハルが注文したプリンアラモードの一部だ。ご丁寧にハルは盛り付けられていたクリームも添えてくれている。お陰で口にクリームが少しついてしまった。唇の表面を舐めた舌に、甘い味が乗る。
「でもユキも夏樹に同じことしてたよ?」
「……は?」
「夏樹、すっごく嬉しそうに笑ってた」
いぶかしむアキラにハルはめげない。位置をずらされたスプーンを再びアキラの口へ近づけた。
「だからぼくも同じことするっ。はい、あーん」
「アイツら……、せめてハルに見つからない場所でしろよ……」
ただでさえ影響を受けやすいところがあるのだから。いや、でももっと際どいところ見られないだけでもまだマシなんだろうか、この場合。悩むアキラにハルは「もう、食べてよぉ~」と引かない。言うことを聞かなければずっと真似し続けてそうだ。
やれやれ、と内心肩を竦めつつ、アキラはハルの行為に甘える。閉ざした唇をそっと開くと、ハルの手によって運ばれたプリンの味が咥内に広がった。クリームも一緒だから甘味が強い。
俺はもう少し甘さ控えめが好みだな。アキラはそう思いつつも、
「アキラ、おいしかった?」
「……まあ、な」
俄かに緊張した面持ちで尋ねるハルに笑ってほしくて、つい頷いてしまった。
「やった~! ぼくうれしい~っ!」
喜ぶハルに、アキラは目を細める。そしてハルからスプーンを取ると、お返しと言わんばかりにプリンを掬って「ほら」とその口元へ近づけた。
5つの甘やかし【1、食べさせてあげる】
ヘミングウェイで釣りの雑誌を読んでいたアキラは、突然「アキラっ」と呼ばれた。反射的に声のする方を向くと、突然口元にスプーンですくったプリンを突きつけられる。目を丸くしたアキラに「はい、アキラ、あーんして」とハルがせっついた。
「……」
「あーん。アキラ、あーんして」
ハルは閉ざされたままでいるアキラの唇を、スプーンの先端で突っついた。
アキラは無言でハルの腕を掴んで横にずらし、突きつけられたスプーンを口から離した。途端に「食べてよぉー」とむくれるハルに対し「……お前が食べればいいだろう。せっかく注文したんだから」と言い返す。
アキラの口に突き付けられたプリンは、ハルが注文したプリンアラモードの一部だ。ご丁寧にハルは盛り付けられていたクリームも添えてくれている。お陰で口にクリームが少しついてしまった。唇の表面を舐めた舌に、甘い味が乗る。
「でもユキも夏樹に同じことしてたよ?」
「……は?」
「夏樹、すっごく嬉しそうに笑ってた」
いぶかしむアキラにハルはめげない。位置をずらされたスプーンを再びアキラの口へ近づけた。
「だからぼくも同じことするっ。はい、あーん」
「アイツら……、せめてハルに見つからない場所でしろよ……」
ただでさえ影響を受けやすいところがあるのだから。いや、でももっと際どいところ見られないだけでもまだマシなんだろうか、この場合。悩むアキラにハルは「もう、食べてよぉ~」と引かない。言うことを聞かなければずっと真似し続けてそうだ。
やれやれ、と内心肩を竦めつつ、アキラはハルの行為に甘える。閉ざした唇をそっと開くと、ハルの手によって運ばれたプリンの味が咥内に広がった。クリームも一緒だから甘味が強い。
俺はもう少し甘さ控えめが好みだな。アキラはそう思いつつも、
「アキラ、おいしかった?」
「……まあ、な」
俄かに緊張した面持ちで尋ねるハルに笑ってほしくて、つい頷いてしまった。
「やった~! ぼくうれしい~っ!」
喜ぶハルに、アキラは目を細める。そしてハルからスプーンを取ると、お返しと言わんばかりにプリンを掬って「ほら」とその口元へ近づけた。
5つの甘やかし【1、食べさせてあげる】
朝、目を覚ましたユキが洗面所で顔を洗っている。江ノ島に来て朝釣りをするようになってから、早起きも苦ではなくなっている。今日も家事を済ませたら、海に繰り出すつもりだ。
「おふぁよ~」
冷たい水で眠気を覚ますユキに、「おふぁよ~」と眠い目をこすりながらハルがやってきた。まだ半分寝ているハルの足取りは、おぼつかなくて危なっかしい。
「んんぅ~、ねむいよぉ~」
舌足らずな口調で言い、ハルはユキの身体にもたれかかった。力の抜けているせいで、抱きつかれる時よりも重く感じる。ユキは慌ててハルの両肩を掴んで支える。
「うわっ、ハル! ちゃんと立てって」
「んんぅ……ん……」
「寝るなよ!」
洗顔を終えたばかりで濡れているユキの顎から落ちた水滴が、ハルの首筋に落ちた。ぴくりとハルの肩が跳ねたが、それだけで目覚める気配は見せない。
「あー、もう……」
ユキはハルの上体を片腕で支えながら、洗面所の壁にかけてあるタオルを後ろ手に探った。どうにか掴んで引き寄せたタオルで顔を拭いた。
「ハル。おいハル。起きろって」
ユキはハルを起こすべく、強めの口調で呼びかけた。しかしハルは目を覚ますどころか、寝息を立てている始末だ。支えられているから倒れないと判断したのか、すっかりユキに身体をゆだねている。
「ったく、しょうがないな……」
ハルに振り回されているのは慣れている。これでも一緒に暮らし始めたころと比べたら、大人しいものだ。達観しつつハルの体の向きを変え、わきの下に腕を入れる。そして引きずるように洗面所を出た。そのまま台所まで出て、リビングのソファまで連れて行く。
すっかり眠ってしまったハルを寝かせ、一仕事を終えたユキは小さく息を吐いた。
「やらなきゃいけないこと多いのに、なんだか疲れた……」
花の水まきに朝食の準備。あとは掃除洗濯だってしなきゃいけないのに。僅かにやる気をそがれたユキを余所に、寝返りを打ったハルが背中を向ける。
本当のんきだな。背中を丸めるハルを見つめる。
「……ん?」
ハルのうなじについた赤い痕を見つけた。毛先で隠れるか隠れないか、ぎりぎりの位置についている。ぽつりとついた痕に蚊が出たのかな、とユキは思った。いやだけど、最近は出てきていないような気がするんだけど。そもそも咬まれないよう、蚊取り器を各自の部屋につけているはず。
「……そういえばハルはアキラの部屋で寝てたはずだよな」
時たまハルは押しかけ同然でアキラの部屋に泊まっている。昨日も枕持参でアキラと共に部屋へ引き上げていった。
一つの考えが、ユキの脳裏をよぎる。しかしそれ以上深く考えないようにした。自分の精神安定のためにも。
「花の水やりに行こう……」
くるりと方向転換し、ユキはサンルームから庭へと出ていった。
リビングには一人静かに眠るハルが残される。静かに眠り続けるそのうなじに刻まれた痕は、まるでコイツは自分のものだと主張しているようだった。
キスを落とす25箇所【08:首の裏へ存在を刻むように】
※回帰大円団エンディング後です。主人公はジプスと大学生の二束わらじな設定
ジプスには膨大な量の本があった。司令室はもちろん、エントランスの壁という壁に本棚があり、本がぎっしりと並べられている。また室内の天井は高く、一冊の本を探すにもかなりの苦労を要した。
「どこにあるのか検索できるのはまだいいとして……、リフトつかなわきゃ取れない本ってどうなんだか」
優輝はリフトをボタンで操作しながらぼやいた。だが、大学で提出するレポートの資料に使わせてもらえるだけありがたいということか。正直、ジプスにある本の品ぞろえはそこらの図書館より充実している。そして深く内容を知りえるものも多かった。だから、つい頼ってしまう。
「まあヤマトにたこ焼き奢るだけで使わせてもらってるんだから、不満はダメだよな。うん」
緩やかにリフトは上昇を始める。落ちないよう手すりにつかまり、徐々に高くなっていく目線で司令室を見回した。下から上までほとんどの壁が本で埋まっている光景は圧巻だ。
リフトが止まったはずみで軽く揺れた。
「おおっと」
優輝は手すりに摑まる力を強めて、揺れに耐える。ここで落ちたら、骨折どころでは済まない。オレはまだ死にたくないぞ。
わずかな揺れはすぐに収まり、優輝は本棚に向かい合った。並んだ背表紙を指でなぞりながら、目的の本を見つけた。本棚から抜き出し、目標の達成にほっとする。
後は降りるだけ――。
気の抜けたのがまずかった。天井近い場所から覗き込むと、思っていた以上の高さにぞっとする。目を反らしたくても反らせない。まるで、吸い込まれるように。
「あ――」
手すりにかけていた手が滑った。無意識に身を乗り出していた身体が、リフトの外へ落ちていく。下に待ち受けているのは固い床。
骨折だけじゃすまない。さっき自分で考えていたことを思い出す。しかし優輝は、とっさに腕で頭を庇うことしか出来なかった。
このままじゃ死ぬかも。高いところから落ちてだなんて、情けない。優輝は歯を食いしばり、もうすぐ来るだろう痛みに備えた。
だが予想に反して、落ちた感触はやわらかかった。恐る恐る目を開けた優輝は、落ちたのが床ではなくフェンリルの上だと知った。黒い毛並みの魔獣が優輝の無事を振り返って確認する。
本棚を蹴って一度高く飛びあがり、フェンリルは足音もなく床へ着地した。そこへ「ユウキ!」と駆け付けた恋人の姿に、優輝は目を丸くした。
「ジュンゴ」
「ユウキ、大丈夫? ケガはない?」
「あ……、ジュンゴが助けてくれたんだな」
魔獣フェンリルは、純吾がポラリスとの決戦まで長く苦楽を共にしてきた仲魔だ。きっと落ちた瞬間を目撃して、召喚してくれたんだろう。
「サンキュ。お陰で助かった。フェンリルもありがとうな」
フェンリルの背中をひと撫でし、優輝はその背中から降りた。すると、近づいてきた純吾に前触れもなく抱きしめられた。
「ジュ、ジュンゴ?」
「ジュンゴ、優輝が落ちるのみて、びっくりした。こわかった」
「……ごめん」
俺は大丈夫だろう。そうたかをくくり、安全確認を怠ったために純吾にいらない不安を与えてしまった。優輝は素直に謝り「今度からもっと気を付けるから」と純吾の背中に手を回した。ぽんぽんと、子供をあやすように優しくたたく。
「ん……」
純吾が頷き、優輝の首筋に顔を埋める。抱きしめる力も強くなった。落ちた本人より怯えている様子に、優輝は申し訳なくなってくる。
「ジュンゴ」
優輝はそっとジュンゴの頬を両手で包んだ。きょとんと見つめる目に「オレは元気だろう。ジュンゴが助けてくれたおかげだ。だからもうそんな顔するな」と励ます。
「ん……」
純吾は手を頬を包む優輝のそれに重ねた。そして自分の手で包み込み、そっと指先にくちづける。触れる吐息がくすぐったかったが、優輝は純吾の好きにさせた。少しでも早く安心するように。
「一応ここは共有スペースなのだかな……」
司令室から繋がっているエントランスの柱に隠れ、通りすがりの真琴はどうしたものか、と困惑する。二人から醸し出される甘い雰囲気を無視して横切ることもできず、悶々とした。
せめていちゃつくのであれば、個室でやってくれ。そう願わずにはいられず、二人に背を向けため息を吐いた。
キスを落とす25箇所【16:伸ばされた指先に】
ジプスには膨大な量の本があった。司令室はもちろん、エントランスの壁という壁に本棚があり、本がぎっしりと並べられている。また室内の天井は高く、一冊の本を探すにもかなりの苦労を要した。
「どこにあるのか検索できるのはまだいいとして……、リフトつかなわきゃ取れない本ってどうなんだか」
優輝はリフトをボタンで操作しながらぼやいた。だが、大学で提出するレポートの資料に使わせてもらえるだけありがたいということか。正直、ジプスにある本の品ぞろえはそこらの図書館より充実している。そして深く内容を知りえるものも多かった。だから、つい頼ってしまう。
「まあヤマトにたこ焼き奢るだけで使わせてもらってるんだから、不満はダメだよな。うん」
緩やかにリフトは上昇を始める。落ちないよう手すりにつかまり、徐々に高くなっていく目線で司令室を見回した。下から上までほとんどの壁が本で埋まっている光景は圧巻だ。
リフトが止まったはずみで軽く揺れた。
「おおっと」
優輝は手すりに摑まる力を強めて、揺れに耐える。ここで落ちたら、骨折どころでは済まない。オレはまだ死にたくないぞ。
わずかな揺れはすぐに収まり、優輝は本棚に向かい合った。並んだ背表紙を指でなぞりながら、目的の本を見つけた。本棚から抜き出し、目標の達成にほっとする。
後は降りるだけ――。
気の抜けたのがまずかった。天井近い場所から覗き込むと、思っていた以上の高さにぞっとする。目を反らしたくても反らせない。まるで、吸い込まれるように。
「あ――」
手すりにかけていた手が滑った。無意識に身を乗り出していた身体が、リフトの外へ落ちていく。下に待ち受けているのは固い床。
骨折だけじゃすまない。さっき自分で考えていたことを思い出す。しかし優輝は、とっさに腕で頭を庇うことしか出来なかった。
このままじゃ死ぬかも。高いところから落ちてだなんて、情けない。優輝は歯を食いしばり、もうすぐ来るだろう痛みに備えた。
だが予想に反して、落ちた感触はやわらかかった。恐る恐る目を開けた優輝は、落ちたのが床ではなくフェンリルの上だと知った。黒い毛並みの魔獣が優輝の無事を振り返って確認する。
本棚を蹴って一度高く飛びあがり、フェンリルは足音もなく床へ着地した。そこへ「ユウキ!」と駆け付けた恋人の姿に、優輝は目を丸くした。
「ジュンゴ」
「ユウキ、大丈夫? ケガはない?」
「あ……、ジュンゴが助けてくれたんだな」
魔獣フェンリルは、純吾がポラリスとの決戦まで長く苦楽を共にしてきた仲魔だ。きっと落ちた瞬間を目撃して、召喚してくれたんだろう。
「サンキュ。お陰で助かった。フェンリルもありがとうな」
フェンリルの背中をひと撫でし、優輝はその背中から降りた。すると、近づいてきた純吾に前触れもなく抱きしめられた。
「ジュ、ジュンゴ?」
「ジュンゴ、優輝が落ちるのみて、びっくりした。こわかった」
「……ごめん」
俺は大丈夫だろう。そうたかをくくり、安全確認を怠ったために純吾にいらない不安を与えてしまった。優輝は素直に謝り「今度からもっと気を付けるから」と純吾の背中に手を回した。ぽんぽんと、子供をあやすように優しくたたく。
「ん……」
純吾が頷き、優輝の首筋に顔を埋める。抱きしめる力も強くなった。落ちた本人より怯えている様子に、優輝は申し訳なくなってくる。
「ジュンゴ」
優輝はそっとジュンゴの頬を両手で包んだ。きょとんと見つめる目に「オレは元気だろう。ジュンゴが助けてくれたおかげだ。だからもうそんな顔するな」と励ます。
「ん……」
純吾は手を頬を包む優輝のそれに重ねた。そして自分の手で包み込み、そっと指先にくちづける。触れる吐息がくすぐったかったが、優輝は純吾の好きにさせた。少しでも早く安心するように。
「一応ここは共有スペースなのだかな……」
司令室から繋がっているエントランスの柱に隠れ、通りすがりの真琴はどうしたものか、と困惑する。二人から醸し出される甘い雰囲気を無視して横切ることもできず、悶々とした。
せめていちゃつくのであれば、個室でやってくれ。そう願わずにはいられず、二人に背を向けため息を吐いた。
キスを落とす25箇所【16:伸ばされた指先に】
足がすうすうして心もとない。陽介は控室代わりの教室で机に座り、スカートから伸びた足をぶらつかせた。
扉の向こうからは、学園祭の活気が伝わってきた。誰もが皆、楽しい時間を味わっている。しかし、静かな教室の中からだと、ほんのちょっぴり寂しくなった。なんだか、こちらとむこうが切り離されてしまっているみたいだ。
本当だったら、陽介もあちら側の人間になるはずだった。日向と二人、祭りでにぎわう校内を見回って楽しい思い出を作って――。
「それがどうしてこうなった……」
どんよりと重い気持ちでため息を吐く。これから陽介を待ち受けているのは、女装コンテスト。千枝たちの他薦によって強制参加させられる羽目になった。それを嘆いたら「元はと言えば、アンタが先輩らを無理やりミスコンに他薦したからだろうが」と完二から正論で突っ込まれている。
そりゃ確かにその通りだけどよ。ここまでする必要あんのか。陽介は自分の足を見下ろした。下着が見えるか見えないか、ぎりぎりのラインを保ったスカートから伸びた足は、無駄毛がない。ガムテープを用意した千枝によって、無情にもはがされてしまった。何度も何度もガムテープを貼ってはがされて――。あの時の痛みは言葉では言い表せない。無駄毛と同時に、陽介は男として大事な部分もはがされてしまった気持ちになり、肩を落とした。
「里中のやつ、手加減ぐらいしろっつうの……」
文句を呟く陽介の耳に、扉の開く音がした。顔をあげると、日向が教室に入ってきた。背筋をぴんと伸ばす日向の姿は、セーラー服だ。踝まで丈があるスカートに、かぶったかつらはおさげが二つ結わえられている。パッと見ると、一昔前の不良を彷彿とさせた。堂々としている分迫力があって、見るものを圧倒させる。
「っていうか、橿宮。お前よくそんな恰好で外歩けるな……」
「別にこれぐらい平気だ。悪いことをしているわけでもない」
「いや、悪いことしてなくたって、はっずかしいだろ、女装とかさぁ」
「あきらめろ。どうせもう逃げ場はないんだ。だったら、胸張って散って終わらせばいい」
「散るの前提なのね……」
「明らかにミスコンの前座だからな」
「ははっ、お前のそういう割り切りのいいところ、結構好きだぜ」
いっそすがすがしくなる日向の言葉に、陽介は思わず吹き出してしまった。変なところで前向きすぎる日向に引っ張られて、沈んでいた気持ちが上昇する。
「ありがとう」と日向は真顔で礼を述べ、軽く握りしめられた右手を前に出した。じっと陽介の顔を見つめる。
不意に見つめられた陽介は、首をひねり「どしたん?」と尋ねる。顔に何かついてるんだろうか。
「いや、さっき里中からこれを預かってきたんだ」
日向は陽介に手の甲を上にして右手を差し出した。陽介がのばした右手に、落とされたのは色つきリップクリームだった。
陽介は蓋を開けた。ピンク色のリップクリームに「うっわ、これぬっちゃうの?」と言った。
「口紅じゃないだけマシだと思え」
「そりゃそうですけどー……」
ファンデーションやチークだけでもうんざりだったのに。口紅じゃないとしても、これ以上顔に何かを施すのは抵抗があった。
「しかたない。貸せ」
渋る陽介の手から日向がリップクリームを奪った。蓋を取って、中身を伸ばし、がっと陽介の顎をつかむ。そのまま上向きにされ「おごっ」と陽介のくちから情けなくうめき声が漏れた。
「リップとはいえ、色がつくんだ。大人しくしてろよ」
眼光鋭くして言われ、陽介の身体は固まった。これは逆らったらさらに睨まれてしまう。勝ち目はなかった。
大人しくなった陽介の唇に日向の手によって、リップクリームが丁寧に塗られていく。数回色を重ねるようにリップクリームを滑らせた。
「よし、いい感じ」
日向は満足したように頷いた。
「あのー、橿宮さん? 塗ったんなら手を放していただけないでしょうかね」
リップクリームを塗った後も、日向は陽介の顎から手を離さない。頭が上向けられたままの体勢は、後ろに倒れないよう背中を反らしているため、維持するのが大変だった。
「早く」と頼み込む陽介に、日向がふと目を細めた。ん、と陽介が思う間もなく、顔が近づき一瞬だけ唇が触れた。
キスされたと認識するより早く、日向の手が離れていく。同時にコンテスト参加者の呼び出しが黒板上のスピーカーから流れた。
「いよいよか。さっさと済ませてしまおう」
「……」
呆然と瞬きをする陽介に「花村」と日向が頬を軽くたたいた。
「お、おう。わかってるよ。さっさと終わらせて、女装から解放されるんだ」
陽介は座っていた机から降りて歩き出す。一瞬だけでも触れ合った感触に、女装に対する不満やコンテストへの緊張が全部吹っ飛んでしまった。代わりに心臓がばっくばくなんですけど! つかあいつは異常に漢らしすぎんだろ!
さきに扉の前まで来ていた日向に向かって大股に歩き、陽介はセーラー服に身を包んだ肩に手を回した。
「終わったら、今度はこっちからさせろよ。女装がんばったご褒美に」
「ちゃんと逃げずに終わらせたらな」
肩を竦めつつ、日向はあっさり了承してくれた。
目の前にぶら下がったご褒美に、陽介も腹をくくる覚悟が出来た。潔く散って、さっさと女装から解放されよう。そして、橿宮とチッスするんだ。そう自分に言い聞かせ、陽介は日向と共に会場となる体育館へと向かった。
キスを落とす25箇所【07:赤い唇へ触れるだけの】
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